日本におけるヘルスプロモーション展開方法とその発展途上国での適応に関する研究

文献情報

文献番号
200000111A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるヘルスプロモーション展開方法とその発展途上国での適応に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岩永 俊博(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 松田正己(静岡県立大学)
  • 塩飽邦憲(島根医科大学)
  • 仲間秀典(信州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,025,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、現在日本で試みられている、地域を基盤とした住民参加型目的志向型のヘルスプロモーションモデルに対して、発展途上国への適応という視点から分析し、その展開の核となる要素を抽出し、国際協力としての適応の可能性を検討することである。今年度は、日本型ヘルスプロモーションの展開モデルとして、地域づくり型保健活動(SOJO-Model)について、より効果的な展開のためにワークショップを中心として、スーパーバイザーやファシリテータの役割や進め方を検討し、さらにモデル開発や国際保健、国際協力の観点からその意義を検討した。
研究方法
研究の手順は以下の通りである。①SOJO-Modelを実践している保健所、市町村のスタッフや住民に実践の過程での困難さや工夫などを聞き取り調査を行った。また、専門家に対するトレーニングのためのワークショップの場面を観察しスーパーバイザーの役割や進め方を検討した。②バングラディシュの3つの専門機関において、専門家を対象にセミナーを実施、SOJO model の適応可能性の観点から方法論などについての意見の交換を行った。③タイ北部でのPWA/PWHのグループを対象にして参加型目的描写法(PGVM)のワークショップを実施その可能性を検討した。④SOJO model に関してモデル開発や国際保健、国際協力の観点から、それぞれの分担研究者の経験や文献的検討を基に、その意義などを検討した。⑤青年海外協力隊員の活動について、現地で対処の困った場面でのSOJO model の適応の可能性を検討した。⑥タイ、ネパ-ルの研究者の経験を基にした各国での実践可能性や日本に留学している外国人研究者によって時刻での実践可能性を検討した。
結果と考察
①SOJO-Modelは、保健活動の目的を、地域住民の健康な暮らしの具体的な姿として描き、その目的の実現を統合的に志向し、そのための方法を住民や多分野の人たちで一緒に考え決めていくという話し合いの方法と、そのような経過をたどってできた計画書に基づいて活動を始め、途中経過を検討しながら進めていくという活動方法である。その話し合いの方法を参加型目的描写法(Participatory Goal Visualizing Method, PGVM)とし、全体の進め方を地域づくり型保健活動(System Oriented Joyful Operation, SOJO-Model)という。
②SOJO-Modelは、国内の保健分野で働く人たちが、日常活動でのさまざまな疑問に対して自答する過程で開発されてきたモデルであり、旧来型むら社会的人間関係の存在するコミュニティ、中央集権的色彩の強い行政組織、政治依存性の傾向が強い地方自治体と住民との関係などを背景としている。そのような社会的背景をもつプロセスモデルであることが、国により多少の違いはあるものの同様な背景を持つ発展途上国での適応の可能性を検討するに際して、このモデルを「日本型」として検討の対象とした理由である。
③SOJO-Modelは、準備期、活動方針検討期、実施期、評価再検討期の4期で構成され、そのうち活動方針検討期での計画書作成の段階においてPGVMを用いたワークショップが行われ、スーパーバイザーやファシリテータの役割が重要であることが明らかになった。 
④SOJO-Modelのワークショップは、正しい手順や正しい話し合いをすることが目的ではなく、自分たちの地域での達成目的やそのための方法を自分たちで決定することであり、その目的を参加者が踏まえておればワークショップはうまく進むものと思われた。 
⑤バングラディシュにおけるSOJO modelに関するセミナーと実践可能性に関する意見交換の結果、積極的な質疑が行われ、関心の高さが伺われた。主な質問は、西洋の経験の問題、日本のPHCのシステムの特徴、大都市での栄養問題への適応、住民が健康問題に対する認識が低い場合の実践可能性、途上国での実践例などであった。
⑥タイでのワークショップ実践ではすべてのプロセスをたどることはできなかった。スーパーバイザーも参加者も初めての体験であったにもかかわらず、ワークショップ自体は円滑に進み、また、終了後の感想としても自分たちの未来像の決定方法や問題への対処方法の理解などの感想や継続を望む声が聞かれ、適用の可能性が示唆された。
⑦ヘルスプロモーション理論の中で、SOJO modelの特徴を整理するために、1)個人と集団の目標、2)社会的関係、3)思考論理、4)実行の優先順位付け、5)実施方法、6)活動の変化・継続、7)活動の評価の枠組みで、いくつかのモデルと比較検討した。SOJO Modelの特徴は、コミュニティのことを良く知る住民による調査、意志決定、評価が演繹的な思考法と手法で整理されている点、その思考論理が演繹的思考で、全体から部分を見て解析する点、実施方法では参加型行動研究が採用されている点などが上げられ、今後開発途上国の環境で行政スタッフや住民によって適応化され、使われていくことが期待される。
⑧国際保健協力を学術的に捉え直し、その体系化を図ることは重要な課題であり、これは改善策提案の必要性と、その裏づけとなる学的体系化の意義を強調するものである。その国際保健医療学においても活動の評価方法は重要な研究課題の一つに挙げられている。SOJO model は、保健活動の質的評価に関する研究開発に貢献でき、同時に国際保健医療協力の推進や国際保健医療学の体系化に有用である。また。SOJO model は、社会科学や人文科学の方法論の導入によって組織化や主体化の評価が可能となる特性を保有している。
⑨青年海外協力隊員が活動期間中に直面した問題として「自分のしたことに対して理解が得られない」「現地人スタッフの行動に改善が見られない」「自分が何をすべきかわからない」などが挙げられた。その解決のためには活動の目的を確認する段階で目的描写法が有効であることが推測はできたが確認することはできなかった。
⑩タイ、ネパールの研究者の経験による実践可能性の検討では、特にネパールにおいては、急性感染症や公衆衛生の基盤整備が課題となっているが、そのような課題に対しても応用の可能性が示唆された。
結論
2年間の研究により、一方においてはヘルスプロモーションの概念は途上国においてもプライマリ・ヘルスケアをより発展させた理念として、保健活動に取り入れられる重要性が明らかになり、またその実践可能性も示唆された。また一方においては、国内での展開の方法について、スーパーバイザーの役割やワークショップの進め方、あるいはその中でのファシリテータの役割や留意点など、より効果的な進め方が明らかになってきた。
今後、国際的な場での英語によるファシリテータやスーパーバイザーのためのトレーニングの方法と教材の検討が必要である。さらに今回高い関心を示したバングラディシュでのモデル地域を使った実践的検討を行い、その結果について、国際保健やヘルスプロモーションの概念を基盤とした検討を加えることによって、より有効なモデルとして開発することができる。

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