保健・医療の効果と費用を諸局面的に指標化する統合的な関係型データベース構築・活用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000108A
報告書区分
総括
研究課題名
保健・医療の効果と費用を諸局面的に指標化する統合的な関係型データベース構築・活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学大学院医学研究科 医療経済学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、国内・国際標準を鑑み、1)国内で収集されている諸々の健康関連データベースの関係性を整理し、その活用方法をデザインすること、2)医療におけるプロセスやパフォーマンス、請求額などの情報を、診療報酬請求明細のデジタル化と構造化を通じてルーチンに収集してデータベースを構築し、効果と費用の評価指標が適時に算出される仕組みをデザインすること、3)その仕組みの一部に基づいて指標算出により実証的研究を行うことにある。
研究方法
症例類型の特性に応じて、入院医療と外来医療などの投入資源と効果を短期・中長期的に測定し、資源配分を有効に行うためのデータがわが国では不充分である。診療報酬に関する情報も構造化されてデジタル化されていない。このような状況では、医療の評価や、根拠に基づく資源配分政策をとることがきわめて難しくなる。その過程で、次の事項を達成することができた。1)国レベルで広範囲に収集されている諸々の健康関連データベースの内容と関係性を整理・分析し、その活用方法を考察した。2)医療におけるプロセスや請求額などの情報をルーチンに収集してデータベースを構築し、効果と費用の評価指標が適時に算出される仕組みをデザインした。3)複数施設で共通のデータ内容で、診療情報と診療報酬情報との分析を行った。
結果と考察
広く健康・医療関連情報のデータソースとして、(1)医療保険および介護保険への支払い請求明細、(2)患者調査、医療施設調査、人口動態調査などの行政調査データ、(3)死亡票などのデータ、(4)研究や限定した地方レベルでの疾患登録事業(がん登録、循環器疾患登録などの、研究者の労力で支えられているだけで成人病/健康習慣病の疾患登録は盤石とはいえない)などが考えられる。それらのデータはそのセキュリティと管理が厳格になされて連携されれば、このシステムのメリットとしては、現実として加州、豪州など一部実現化している国もあるが、以下のようなことが考えられる。
1)個体をベースとした情報で持って、健康状態と医療・福祉の介入の情報(行為と費用・値段と成果)に関して分析でき、医療・保健・介護政策の基礎情報(健康状態、医療ニーズ、対応する医療資源、それらの推移など)が得られる。
2)疫学的には、悉皆性をもった信頼性の高いデータベースを用いた上での、各疾患や機能障害の発生率、罹患率を把握できる。その推移の予測も可能となる。
3)ケア提供機関を対象として、提供するサービスの質の評価、保証、管理にも、用いることが可能である。それをその場限りでなく、時間縦断的(中長期的)に評価できる。
4)個人を対象として、病気や機能障害の経過を追える。予後の研究の進展が期待できる。
5)各データベースのリンクが容易となり、調査費用の削減、効率化に結びつく。
6)税金や保険料を徴収して医療や介護のシステムを運営しているシステム側(国や支払い者)の説明責任の遂行に結びつく。
そして、診療報酬明細情報が、分析・活用といった目的志向でデータベース化されれば、(1)診療のプロセスの把握と評価、(2)特定薬剤・材料について費用の個々の症例および症例群での算出、(3)特定薬剤・材料について利用した患者の検索・抽出、(4)各種医療技術・資源の利用料、(5)中長期的な予後・治療効果、(6)医療費の算出症例毎各種費用請求額算出、といった、医療・健康に関するさまざまな評価指標を得ることが可能となる。分析目的志向でより構造化された新世代レセプト電算化システムが開発され普及すると、医療情報の電子化は、医療提供者や機関ごとのパフォーマンスの参照データベースを可能とする。環境如何によっては、パフォーマンスと支払条件とのリンクのための情報基盤となりうる。また、情報開示により、消費者の選択の及ぼす競争原理を惹起しうるし、医療職の応募やリクルートに関連しうる。レセプト審査における診療ガイドラインとの照合も進みうる。支払者、医師プロフェッション集団、病院団体など同様のデータベースを持ちえて解析を通じてさまざまな検討と政策提言が社会に投げかけられていく基盤を形成しうる。
上記デザインに基づく、当研究の実証分析部分については、診療情報と医療費関係情報とを収集し十施設からの20万件を超える既存のデータベースを活用した。当該研究初期には、研究資源配分上、症例群を限定せざるを得ない領域においては、既存の協力病院の中からさらに協力体制の良い施設に限定し、将来水平展開して対象疾患群や外来、保健・健診などにデータ連携を拡大する方向性を見据えながら、既存の研究が進んでいる虚血性心疾患に重点をおいて研究を進め、副病名、緊急性、手術手技の細分類、転帰、入退院経路などで、解析結果に基づき、死亡率や在院日数、入院あたりの診療報酬のばらつきを「重症度」スコアでもって有意義に説明することができた。一方で、「重症度」スコアで層別化、補正することにより、医療機関間でパフォーマンス指標をより妥当な形で比較できることを示した。
データの活用を促進する際、疾患コード体系の不備は症例分類別の定額支払い制度の導入や診療パフォーマンスの評価・比較に致命的な障害となりかねない。重症度を考慮に入れ、医療評価と症例類型別定額支払・コスト管理を適用の目標として、社会的活用へのコンセプトを持って、疾患と手術・処置ほかのコード体系が構築され普及されれば、評価、コストのマネージメントを進めるだけでなく、それらにまつわる様々な管理コスト、さらには社会としてのコストを削減することができる。
また、情報交換や通信規約の標準化の重要性は言うまでもないが、支払いや評価などの目的に応じて「データ・セット」の標準化を図り、普及させることで、多施設間の管理や診療上の指標の比較参照が容易となり、医療の評価・向上と効率化に寄与することについても、注意を喚起すべきである。そういった情報インフラが整備されれば、我が国のこれからの診療報酬制度に望まれる2点、
(1)コスト(消費資源、原価)に基づくこと
(2)(より長期的視野で)妥当に測定された臨床的パフォーマンス評価を取り込むこと、
の実現化へ一歩近づくこととなる。
これらを進めるためには、個々の症例を分析するのではなく、臨床的な患者状況や治療形態の上から妥当な症例の類型化を必要とする。症例類型を細かく分けすぎると、グループ内の症例数が少なくなり安定した指標を算出できないが、大きく括ればグループ内の均一性が損なわれる。扱いやすい数の症例類型を作成し、その中のモザイク状態は、細分類化、あるいは、資源消費や臨床上の成果に影響する重症度因子を総合的に指標化したものを用いて補正することが必要となる。
そのための情報として、1)疾患情報(主病名、併存症、続発症、全身的なあるいは疾患ごとの重症度、進行度など)、治療・医療介入の情報(手術その他の侵襲的処置や治療、緊急性、など)、患者因子(性別、年齢などの人口統計因子、全身的な活動状態、生活機能状態など)といった、ケースミックス情報、2)臨床的な重症度や診療のアウトカムのデータなどの臨床パフォーマンス・データ、3)マンパワー(職種、必要技能レベル、時間、など)、もの(薬剤・材料、機器、など)、システム、などの医療資源・コスト情報、4)病院の機能や置かれた環境、地域格差など、ヘルスケア環境情報、といったような各種情報を標準化した方法で収集して構築したデータベースの必要性が出てくる。さらに、
1)症例の類型化と、標準的な治療法の確立、標準的なコストの算出、
2)地域別、病院機能別の影響の算定、
3)一方で、医療の質保証・向上のために、臨床的パフォーマンスの指標化・評価、
4)支払制度上の値決め、モラルハザードの監視方法、質の高い医療へのインセンティヴ導入方法、といったような、合理的なサイクルを確立し継続的に制度を向上させていく必要があると考えられる。
結論
本研究は、わが国では他に見られないユニークなポジションにあり、以下のような特色ある研究成果があり今後の成果の活用が考えられる。
1)他の国際共同プロジェクトの進捗と連係しながら、国レベルでの健康・医療における予防から治療、治療後に至るまでの諸局面を横断して評価できるデータベース構築の要件を現在の課題を整理してフレームワークを呈示した。今後のデータベース連携などの方策デザインの一つの礎として将来活用しうる。
2)診療情報と詳細なる診療報酬データのリレーショナルデータベース化により、医療介入の費用とパフォーマンスの指標化の評価研究がなされうる、そのデザインを示した(詳細なる医事データが目的志向でデータベース化されれば国際的にみても大きな潜在力をもった重要データとなる)。今後の診療報酬関連データの社会活用のデザインの一つの礎として将来に活用しうる。
3)実際に、診療情報と詳細なる診療報酬データのリレーショナルデータベース化を図ってきたことでもって、将来の展開への実行可能性が示された。

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