人口動態統計指標のベイズ推定と地域集積性の評価に関する研究

文献情報

文献番号
200000105A
報告書区分
総括
研究課題名
人口動態統計指標のベイズ推定と地域集積性の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
丹後 俊郎(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 山岡和枝(帝京大学)
  • 今井 淳(高知県衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今日公表され利用されている厚生統計指標は、年齢調整死亡率、標準化死亡比などのように市区町村などの地域の「人口の年齢分布の違い」を調整しているものの、「人口の大きさ」までは調整できていない。そのため、これらの指標を利用して数区分に色分けした疾病地図を作成すると、人口の小さい地域の指標のバラツキが大きく、わずかな死亡数の変化が見かけ上の指標を大きく変化させるという不安定性が指摘されている。本研究の第1の目的は、この問題を解決するために、近年、統計学の世界で計算機の発展によってその重要性が再認識され方法論が大きく進歩したベイズ流アプローチを利用して「人口の大きさ」を調整し、より適切な人口動態統計指標を開発しその利用を推進させることを目的とする。本研究の第2の目的は、疾病の地域集積度指標の開発である。限りある予算、資源を効率的に投入して地域ニーズに対応したきめ細かい対策の立案・実施を行うためには、対策が最も必要とされている最優先地区を選定する必要がある。この目的のためには、地域別に推定された疾病指標(ベイズ推定も含めて)では、大小に並べれば「必ず」最も高い地域が検出されるという意味で不適切であり、「疾病の集積性」を表現する別の指標を導入しなければならない。第3の目的は、これらの新しい指標の普及に向けた市区町村別疾病地図の視覚的表示解析システムを Windows 上で開発することにある。
研究方法
本年度は、以下の2つの分担研究を行った。(1)「人口動態統計指標のベイズ推定と地域集積性の方法論に関する研究(分担者 丹後俊郎、今井 淳,山岡和枝)」 , (2)「市区町村別疾病地図の視覚的表示解析システムに関する研究(分担者 今井 淳、丹後俊郎)」。分担研究1では、疾病地図における地域集積性を検出する二つの方法(Tango の検定とKulldorff の検定)について様々な集積モデルによるシミュレーションによる比較を検討するとともにその実用性を検討した。分担研究2では地域別指標の視覚表示(疾病地図)を高速に実現でき、かつモデルのよさを相対的に評価できる実験道具としての疾病地図の視覚的表示解析システムソフトをWindows 95/98上で開発するとともに、その実用性を目的外使用で申請した人口動態統計死亡データで評価した。使用するデータとしては、3大死因である「悪性新生物、脳血管系疾患、循環器系疾患」それぞれのいくつかの死因、希少生起事象である「喘息」、大きな地域差はないと考えられる「先天性異常」を、本研究で提案した方法の有用性と実用可能性を総合的に検討する。
結果と考察
分担研究1での集積性の検定結果の比較検討においては,集積性の評価手法として用いた Tangoによる方法と、Kulldorffの性質の違いがよく結果に現れた。疾病の集積モデルとしては、ある地域を中心とした集積モデル(hot spot cluster) と幾つかの地域の連鎖における集積モデル( chain cluster )、人口の大きさを考慮した地域モデルとして過疎地域、中都市、大都市を設定して比較をおこなった。結果は、Tangoの方法では大都市での集積性、chain cluster に対する検出力が高く、Kulldorffの方法はその逆であった。また、Tangoの方法は、「地域で最も相対危険度が高い地域はどこか」を検出し、これに対しKulldorffの方法は「最も相対危険度が高くて、その広がりはどこまでか」を検出している。その結果、昨年度の高知県での検討結果と同様な差が出ている。Kulldorffの方法の場合、検定結果とEBSMRの広がり方はよく一致た。しかし、地域の広がりを検定する結果、中には危険度が低い市町村まで高危険度と判定される場合もあり、素直に受け入れにくい面もあ
るが、広域的な施策体系の企画・立案には大変有意義と考えた。一方、Tangoによる方法は、高危険度の中心点を検定しているため理解が得られやすく、種々の調査や行政施策の費用対効果もあがりやすい。また、高死亡率地域のみならず低死亡率地域まで検出しているので、地域の疾病状況の全体像が把握できる点で大きなメリットがある点などが再確認できた。
分担研究2においては、昨年度の基本設計にしたがって開発を進めた。主な内容は以下に示す通りである。ア)基本データベース(都道府県別・2次医療圏別・市区町村別 男・女別)の検討。行政界・海岸線、全国市区町村経緯度データ(人口中心座標)、国土数値情報N03-09A(国土庁)に平成7年国勢調査全国都道府県市区町村別人口を利用した。イ)表示システムの開発。ウ)テーブル・データの設計。その要素は以下に述べる10種類である。(1) 統括データ、(2) 作図対象データ、(3)作図最適化データ、(4) 地図境界データ、 (5) 作図範囲データ、(6) 凡例ファイル、 (7) 市町村二次メッシュテーブル (8) 2次医療圏テーブル:2次医療圏と都道府県・市町村・保健所などを対応させたテーブル。(9) 全国市町村経緯度テーブル、(10) 年齢階級別人口・死亡数。エ)データの整備。Tango, Kulldorffの疾病集積性の計算を行うために必要な市町村の経度・緯度のデータは、全国市町村経緯度テーブルを整備した。オ)地図情報の最適化。日本全国を表示する場合には、境界データが不必要に細かすぎるため、データを間引いて単純化し、かつ、質の高い表示が可能なように地図情報を最適化するとともにデータの抽出・図の表示速度を可能な限り高めることに成功した。また、疾病地図の表示については標準機能として5段階表示を選択したが、集積性の検定に関する表示機能を追加した。これらの結果の一部を国際バイオメトリック会議で発表した。
結論
今年度は研究の終了年度であるが、当初の研究目的をほぼ達成できたと考えている。つまり、疾病対策の企画立案にあたって地域の疾病状況を把握するための各地域の安定した疾病地図として「人口の大きさ」を調整できる「経験ベイズ推定量」が期待どおり精度のよい疾病状況を表現できることを確認し、それを実用化できたこと。更に、疾病の集積性の高い(または低い)地域を容易に把握できる新しい方法を開発し、 Kulldorffの方法とともに視覚的表示解析ソフトとして実用化できたことである。もちろん、 Windows95/98 上で開発した視覚的表示解析ソフトは完成品としてはまだまだ不十分であるものの、様々な疾病地図を柔軟に表示でき、疾病の地域集積性が検討できる機能がそろっている点で実用性が充分である。真に対策が必要な地域の同定が容易となるばかりでなく効率的かつ有効な対策の企画立案に有用であることを期待したい。コンピュータソフトは希望者に無料で配布して更なる改善を検討したい。

公開日・更新日

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