文献情報
文献番号
200000103A
報告書区分
総括
研究課題名
指定・承認・届出統計の有効活用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 洋
研究分担者(所属機関)
- 橋本修二(東京大学)
- 児玉和紀(広島大学)
- 坂田清美(和歌山県立医科大学)
- 山縣然太朗(山梨医科大学)
- 中村好一(自治医科大学)
- 岡山 明(岩手医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生統計資料は我が国国民の代表サンプルとしての性格を持ち、これらの資料の学術研究への応用は我が国の公衆衛生学上重要な成果をもたらす可能性がある。しかし、これらの統計資料の存在の周知不足や、複雑な許可申請手続き等によって、これまで学術研究への活用はきわめて少なかった。そこで、本研究では厚生統計の調査方法の把握と過去の学術研究への活用例の総括を行い、実際に目的外使用の申請をし、得られた厚生統計データから調査資料の具体的な活用方法について検討した。
研究方法
厚生統計の全ての調査について調査方法(調査対象者、調査項目、調査方法、解析方法など)を整理し、保健・医療・福祉に関連する研究が可能と思われる統計調査を抽出した。抽出された統計調査から実際に疫学研究を試験的に実施し、厚生統計資料を用いた疫学研究実施の可能性と得られた成果の疫学的な意義について検討した。老人保健法に基づく基本健診データと人口動態統計データの結合に基づく大規模集団を対象とした追跡研究の可能性について検討した。
結果と考察
研究結果=代表的な統計資料である人口動態統計、国民生活基礎調査、国民栄養調査、健康・福祉関連サービス需要実態調査及び老人保健事業報告について保健・医療・福祉に関連する研究が可能であると考え使用の承認の申請を行った。その結果人口動態調査を除く厚生統計について使用承認された。我々は得られた統計資料から実際に試験的に疫学研究を試みた。
研究成果を以下に列挙する。「国民栄養調査を利用した地域の高脂血症対策」鳥取県における高脂血症に関連する項目の全国との比較と年次推移の解析を行った。男性では、血清総コレステロール、BMIが増加傾向にあった。鳥取県の高中年者の高脂血症の指標は全国平均とほぼ同様であったが、70歳以上の高齢者で血清総コレステロールが全国平均を下回っている傾向がみられた。「朝食欠食と循環器疾患危険因子に関する研究」朝食欠食と循環器危険因子との関連に就いて解析を行った。朝食欠食者には喫煙率や飲酒率、収縮期血圧が高い傾向があり、さらに一日運動量が少ない傾向が認められた。また女性の朝食欠食者では総コレステロールが高い傾向が認められた。朝食欠食者は将来循環器の発生のリスクが欠食のない者に比べ高いものと考えられた。「小児期・妊娠期の食生活に関する研究-国民栄養調査から-」小児の栄養状態の推移についてエネルギー摂取量は経年的に減少傾向、たんぱく質摂取量はほぼ変動なし、脂質摂取量は経年的に増加傾向にあった。欠食状況については経年的に昼夕の外食は増加していた。妊婦・授乳婦の栄養状態については、エネルギー摂取量は妊婦、授乳婦共に非妊産婦より高い値を示したが、いずれもエネルギー所要量より低い値であった。「国民栄養調査を利用した糖代謝異常関連要因の検討:擬似症例対照研究」糖代謝異常者と生活習慣(喫煙量、BMI、運動習慣等)及び栄養(エネルギー摂取量、摂取食品数、三大栄養素および食物繊維摂取量)の関連を分析した。その結果糖代謝異常者の特徴を明らかにすることができた。国民栄養調査データが症例対照研究のプールコントロールとして充分に活用可能であることが明らかになった。「栄養摂取と死亡率との生態学的関連に関する研究」食品摂取量と死亡率とを都道府県単位として組み合わせ、食品摂取量と死亡率の相関を生態学的デザインで分析した。緑黄色野菜及び乳類は全死亡、がん死亡、心疾患死亡、肝疾患死亡で、また大豆・大豆製品は全死亡、心疾患死亡、肝疾患死亡で有意な負の相関を、肉類は脳血管死亡で負の相関を認めた。穀類、果実類、野菜類、日本酒、魚介類、乳類は脳血管死亡と有意な正の相関が認められた。「日本における血圧コントロール:国民栄養調査の有効活用に関する研究」 高血圧者の割合、高血圧者における降圧剤服用者とコントロールが良好な者の割合を経年的に検討した。高血圧者の割合は男女とも半数以下でありほぼ横ばいであった。高血圧者において降圧薬服用者の割合は徐々に増加し1997年には男性33%、女性40%であった。高血圧者における血圧コントロールが良好な者の割合は、男女とも1割以下であり変化はなかった。国民の血圧コントロールが十分とは言い難いことが明らかとなった。「都道府県別観察による喫煙率と疾患別死亡率の関連に関する研究」我が国における喫煙率と疾患別死亡率の地域差を観察することにより、喫煙の健康影響の関連を検討することを目的とした。男性では膵の悪性新生物、老衰、交通事故の死因に有意の正の相関が観察され、女性では、結核、気管、気管支及び肺の悪性新生物、乳房の悪性新生物、卵巣の悪性新生物、心疾患、虚血性心疾患、心筋梗塞、肺炎、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎及び肺気腫、肝疾患、腎不全の死因で正の相関が観察された。「脳血管疾患死亡率の地域格差と収縮期・拡張期血圧の地域差との関連について」年齢調整した血圧と脳血管疾患死亡率との関連を分析した。年齢調整収縮期および拡張期血圧の地域差が脳血管疾患死亡率の地域差に及ぼす影響は近年になるほど少なくなる傾向が認められた。「血清総コレステロール値と関連する身体所見、食生活に関する研究」血清総コレステロール値と栄養摂取及びKeysの食事因子量との関連を検討した。 血清総コレステロール上昇の抑制には従来から知られている肥満是正、Keysの食事因子を低くする食生活の他に食物繊維の摂取が重要であることが実証された。「保健統計のレコードリンケージに関する研究」主な保健統計を調査対象、調査客体と調査方法などにより分類し、レコードリンケージ
の可能性を整理することが目的である。同一統計の年次間、異なる複数の統計間、統計とその他の調査間のいずれも、個人単位・集団単位ともにレコードリンケージの実施が可能であることが示された。「高齢者における入浴介助必要者の背景因子の解析に関する研究」介護者と介助が必要な高齢者本人の背景因子を検討した。入浴に介助が必要な者は、より高齢者の割合が高く、健康状態、寝たきり度が悪い者が多く、その他の生活動作にも介助が必要な割合が高かった。また、介助を受けている本人、介護者とも各種在宅サービスの利用要望は高く、本人の利用率も高かった。「胃がん検診の精度をめぐる市町村間格差の現状と背景に関する研究」
胃がん検診の要精検率とがん発見率との関連を分析した。市町村の間で要精検率の変動係数が高かった都道府県は、東京都、長野県、岡山県、宮崎県、静岡県などであった。国民生活基礎調査の世帯票を用いて日常生活動作能力の低下と寝たきりとの関連を検討し、寝たきりの日常生活動作能力以外つまり社会的な要因について検討した。老人保健法に基づく基本健診データと人口動態統計データの結合に基づく大規模集団を対象とした追跡研究の可能性について、本研究期間内に人口動態統計の使用承認が得られなかったことから充分な検討ができなかった。以上より厚生統計の目的外使用による疫学研究から多くの有用な研究成果を得ることができた。代表的な厚生統計調査のひとつ国民栄養調査は日本国民の身体状況、栄養摂取状況のデータについて長年にわたって蓄積されおり、これを解析することで経年的に疫学的特徴を明らかにすることができ、長年に渡って蓄積された厚生統計を再集計することの意義が明らかになった。本研究開始後極めて早い時期に使用承認が得られた国民栄養調査は、解析に必要なデータについて申請した調査票の中で最も長く吟味することができた。一方国民生活基礎調査、健康・福祉関連サービス需要実態調査及び老人保健事業報告については国民栄養調査と比較して使用承認されたデータを分担研究者が得るまで国民栄養調査と比較して遅かった。このことは実験的に行った疫学研究によって作成された報告書の数とその内容に影響を及ぼしたと考えられる。今回実施した疫学研究の中には複数の調査票を使用することで解析可能なものがあった。さらに異なった厚生統計資料のリンケージを試み、それが充分可能であることを証明した研究成果もあった。疫学研究のテーマの中には複数の厚生統計資料の申請が必要である場合が少なからずあることが明らかになった。今日我々は他国の疫学データを我が国に当てはめて医学的な検討をする場合が少なからずあり、これを改善しなくてはならないのは周知のことである。日本人の疫学的特徴を明らかにするために厚生統計を利用することは有効な方法の一つであるといえる。今回我々の研究はその足がかりになるものである。本研究で得られた疫学研究成果を国内外に公表し評価を受け、厚生統計の目的外使用の有効活用に努めたい。
研究成果を以下に列挙する。「国民栄養調査を利用した地域の高脂血症対策」鳥取県における高脂血症に関連する項目の全国との比較と年次推移の解析を行った。男性では、血清総コレステロール、BMIが増加傾向にあった。鳥取県の高中年者の高脂血症の指標は全国平均とほぼ同様であったが、70歳以上の高齢者で血清総コレステロールが全国平均を下回っている傾向がみられた。「朝食欠食と循環器疾患危険因子に関する研究」朝食欠食と循環器危険因子との関連に就いて解析を行った。朝食欠食者には喫煙率や飲酒率、収縮期血圧が高い傾向があり、さらに一日運動量が少ない傾向が認められた。また女性の朝食欠食者では総コレステロールが高い傾向が認められた。朝食欠食者は将来循環器の発生のリスクが欠食のない者に比べ高いものと考えられた。「小児期・妊娠期の食生活に関する研究-国民栄養調査から-」小児の栄養状態の推移についてエネルギー摂取量は経年的に減少傾向、たんぱく質摂取量はほぼ変動なし、脂質摂取量は経年的に増加傾向にあった。欠食状況については経年的に昼夕の外食は増加していた。妊婦・授乳婦の栄養状態については、エネルギー摂取量は妊婦、授乳婦共に非妊産婦より高い値を示したが、いずれもエネルギー所要量より低い値であった。「国民栄養調査を利用した糖代謝異常関連要因の検討:擬似症例対照研究」糖代謝異常者と生活習慣(喫煙量、BMI、運動習慣等)及び栄養(エネルギー摂取量、摂取食品数、三大栄養素および食物繊維摂取量)の関連を分析した。その結果糖代謝異常者の特徴を明らかにすることができた。国民栄養調査データが症例対照研究のプールコントロールとして充分に活用可能であることが明らかになった。「栄養摂取と死亡率との生態学的関連に関する研究」食品摂取量と死亡率とを都道府県単位として組み合わせ、食品摂取量と死亡率の相関を生態学的デザインで分析した。緑黄色野菜及び乳類は全死亡、がん死亡、心疾患死亡、肝疾患死亡で、また大豆・大豆製品は全死亡、心疾患死亡、肝疾患死亡で有意な負の相関を、肉類は脳血管死亡で負の相関を認めた。穀類、果実類、野菜類、日本酒、魚介類、乳類は脳血管死亡と有意な正の相関が認められた。「日本における血圧コントロール:国民栄養調査の有効活用に関する研究」 高血圧者の割合、高血圧者における降圧剤服用者とコントロールが良好な者の割合を経年的に検討した。高血圧者の割合は男女とも半数以下でありほぼ横ばいであった。高血圧者において降圧薬服用者の割合は徐々に増加し1997年には男性33%、女性40%であった。高血圧者における血圧コントロールが良好な者の割合は、男女とも1割以下であり変化はなかった。国民の血圧コントロールが十分とは言い難いことが明らかとなった。「都道府県別観察による喫煙率と疾患別死亡率の関連に関する研究」我が国における喫煙率と疾患別死亡率の地域差を観察することにより、喫煙の健康影響の関連を検討することを目的とした。男性では膵の悪性新生物、老衰、交通事故の死因に有意の正の相関が観察され、女性では、結核、気管、気管支及び肺の悪性新生物、乳房の悪性新生物、卵巣の悪性新生物、心疾患、虚血性心疾患、心筋梗塞、肺炎、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎及び肺気腫、肝疾患、腎不全の死因で正の相関が観察された。「脳血管疾患死亡率の地域格差と収縮期・拡張期血圧の地域差との関連について」年齢調整した血圧と脳血管疾患死亡率との関連を分析した。年齢調整収縮期および拡張期血圧の地域差が脳血管疾患死亡率の地域差に及ぼす影響は近年になるほど少なくなる傾向が認められた。「血清総コレステロール値と関連する身体所見、食生活に関する研究」血清総コレステロール値と栄養摂取及びKeysの食事因子量との関連を検討した。 血清総コレステロール上昇の抑制には従来から知られている肥満是正、Keysの食事因子を低くする食生活の他に食物繊維の摂取が重要であることが実証された。「保健統計のレコードリンケージに関する研究」主な保健統計を調査対象、調査客体と調査方法などにより分類し、レコードリンケージ
の可能性を整理することが目的である。同一統計の年次間、異なる複数の統計間、統計とその他の調査間のいずれも、個人単位・集団単位ともにレコードリンケージの実施が可能であることが示された。「高齢者における入浴介助必要者の背景因子の解析に関する研究」介護者と介助が必要な高齢者本人の背景因子を検討した。入浴に介助が必要な者は、より高齢者の割合が高く、健康状態、寝たきり度が悪い者が多く、その他の生活動作にも介助が必要な割合が高かった。また、介助を受けている本人、介護者とも各種在宅サービスの利用要望は高く、本人の利用率も高かった。「胃がん検診の精度をめぐる市町村間格差の現状と背景に関する研究」
胃がん検診の要精検率とがん発見率との関連を分析した。市町村の間で要精検率の変動係数が高かった都道府県は、東京都、長野県、岡山県、宮崎県、静岡県などであった。国民生活基礎調査の世帯票を用いて日常生活動作能力の低下と寝たきりとの関連を検討し、寝たきりの日常生活動作能力以外つまり社会的な要因について検討した。老人保健法に基づく基本健診データと人口動態統計データの結合に基づく大規模集団を対象とした追跡研究の可能性について、本研究期間内に人口動態統計の使用承認が得られなかったことから充分な検討ができなかった。以上より厚生統計の目的外使用による疫学研究から多くの有用な研究成果を得ることができた。代表的な厚生統計調査のひとつ国民栄養調査は日本国民の身体状況、栄養摂取状況のデータについて長年にわたって蓄積されおり、これを解析することで経年的に疫学的特徴を明らかにすることができ、長年に渡って蓄積された厚生統計を再集計することの意義が明らかになった。本研究開始後極めて早い時期に使用承認が得られた国民栄養調査は、解析に必要なデータについて申請した調査票の中で最も長く吟味することができた。一方国民生活基礎調査、健康・福祉関連サービス需要実態調査及び老人保健事業報告については国民栄養調査と比較して使用承認されたデータを分担研究者が得るまで国民栄養調査と比較して遅かった。このことは実験的に行った疫学研究によって作成された報告書の数とその内容に影響を及ぼしたと考えられる。今回実施した疫学研究の中には複数の調査票を使用することで解析可能なものがあった。さらに異なった厚生統計資料のリンケージを試み、それが充分可能であることを証明した研究成果もあった。疫学研究のテーマの中には複数の厚生統計資料の申請が必要である場合が少なからずあることが明らかになった。今日我々は他国の疫学データを我が国に当てはめて医学的な検討をする場合が少なからずあり、これを改善しなくてはならないのは周知のことである。日本人の疫学的特徴を明らかにするために厚生統計を利用することは有効な方法の一つであるといえる。今回我々の研究はその足がかりになるものである。本研究で得られた疫学研究成果を国内外に公表し評価を受け、厚生統計の目的外使用の有効活用に努めたい。
結論
厚生統計の目的外使用による疫学的研究は我が国の公衆衛生学上重要な成果をもたらすことは明らかである。研究者はより厚生統計の理解を深め活用法を検討すべきである。そして厚生統計の使用承認手続きがより迅速に行われることが望まれる。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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