弱毒株を用いた不活化ポリオワクチンの効果の検定法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000081A
報告書区分
総括
研究課題名
弱毒株を用いた不活化ポリオワクチンの効果の検定法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 橋爪 壯(財団法人 日本ポリオ研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、我が国を含めて世界中で広く使用されている生ポリオワクチン(OPV)は、ポリオ制圧に劇的な成果をあげており、世界保健機構(WHO)が中心となり進めている「ポリオ根絶計画」に大きく貢献している。その一方で OPV には、200~300万人の使用で1例程度のワクチン関連麻痺患者が出ることや、免疫不全者には接種できないこと、また、OPV を使用する限り、環境中からポリオウイルスを完全になくすことが非常に困難であるといった問題がある。不活化ポリオワクチン(IPV)を使用することでこれらの問題を解決することが可能であるが、従来より IPV 製造には強毒株ポリオウイルスが使用されているため、WHO の根絶計画の一環である強毒株ポリオウイルスの「封じ込め」後は、IPV 製造が極めて困難な状況となる可能性がある。そこで、弱毒株ポリオウイルスを使用した新しい IPV を開発することは非常に重要な意味を持つこととなる。本研究では、弱毒株による IPV 製造法を確立すること、および従来の強毒株 IPV と対比可能な弱毒株 IPV の免疫原性試験方法を確立すること、さらには弱毒 Sabin 株による IPV の製造方法および品質管理試験方法を標準化するための、生物学的製剤基準の原案を作成することを目的とする。
研究方法
MWCB (Manufacture's Working Cell Bank) 作製時に WHO Requirement (Requirements for Biological Substances No.50, Expert Commit Biol Standard, Oct 1996 後に Tec Rept Series878: 19-56, 1998)に基づいた一連の安全性試験を行い、全ての試験に合格している Vero 細胞 (ATCC 由来)を用いて、マイクロキャリアー培養法で弱毒 Sabin 株ポリオウイルスの培養を行った。培養したウイルスを型別にプールし、限外ろ過濃縮および超遠心濃縮後、DEAE-Sepharose CL6B によるカラムクロマトグラフィーで精製を行い、フォルマリン不活化することで、試験的に IPV を複数ロット製造した。これら試験製造した IPV について、WHO Requirement {Recommendations for polio- myelitis vaccine (Inactivated) WHO, 2000 Draft 版}を参考にして以下の安全性試験および有効性試験を行った。
安全性試験;外来性因子迷入否定試験、無菌試験、ウイルス同定試験、細胞由来DNA量試験、残存ウシ血清蛋白量試験、蛋白質含量試験、不活化速度試験、フォルムアルデヒド含量試験、ウイルス生残否定試験、エンドトキシン試験、異常毒性否定試験、pH試験および 2-Phenoxyethanol 含量試験 有効性試験;ウイルス含量試験、D抗原量試験およびラットに対する免疫原性試験
結果と考察
試験製造した弱毒 Sabin 株ポリオウイルス由来 IPV に関して、各製造工程における一連の安全性試験を、WHO Requirementを参考にして行い、評価した。その結果、各個別ウイルス培養液およびウイルス培養に使用した Vero 細胞に、外来性の感染性因子は認められず、また、無菌試験、ウイルス同定試験においても異常は見られなかった。フォルマリンによる不活化の効果を調べる不活化速度試験およびフォルムアルデヒド含量試験も全て異常なく、ウイルス生残否定試験から生残ウイルスがないことが証明された。さらに、残存ウシ血清蛋白量試験、細胞由来 DNA 量試験および蛋白質含量試験の成績から、IPV 製造用の原材料由来の蛋白や DNA の混入は、どれも WHO が定めた基準値以下で、全く問題は見られなかった。最終的に、エンドトキシン試験および異常毒性否定試験においても異常は認めらず、安全性が確認された。また、IPV の有効性については、まず、型特異的で、なおかつD抗原に特異的に反応する抗ポリオウイルス単クローン抗体を用いて、NIBSC から分与を受けた弱毒株 IPV のD抗原量を基準にした弱毒ポリオウイルスのD抗原量を測定する ELISA の系を確立した。次に、試験製造した IPV のラットに対する免疫原性を調べたところ、1回の免疫では2、3型に対する中和抗体価の上昇が不十分であったものの、1回追加免疫を行うことで全ての型に対して十分な中和抗体価の上昇が見られ、IPV の有効性が確認された。以上のように、試験製造された IPV の各種安全性試験および有効性試験において、全て異常は認められず、一連の製造方法および品質管理試験方法は概ね確立することができた。そこで、弱毒 Sabin 株による IPV の製造方法および品質管理試験方法を標準化するための、生物学的製剤基準(案)を作成した。WHO Requirement に記載されているラットポテンシー試験では、被検 IPV を原液を含めて4段階に希釈し、各々適当数のラットに接種することになっている。そして得られた血清中のポリオウイルスに対する中和抗体価を、同様に接種して得られた標準抗原の血清中の中和抗体価と、プロビット法または平行線定量法で比較検討し、標準抗原に対して統計的に有意な差が無いことが要求されている。従って、ラットを用いて免疫原性試験を行う際に、常にコントロールとなる標準抗原の免疫原性をどの程度の強さに設定し、そのためのD抗原量をいくつにするかを決め、IPV の免疫原性を定量的に評価する系を確立することが今後の課題となる。また、IPV の製造方法および品質管理試験方法を標準化するための、生物学的製剤基準を早急に制定し、IPV を製造、供給できる体制を整えるとともに、OPV だけを単独で使用する現在のワクチン政策を、IPV との併用、あるいは IPV のみ使用する政策に切り替えていくことも今後の大きな課題となる。
結論
弱毒 Sabin 株由来 IPV の一連の製造工程において行った各種安全性試験および有効性試験は、どれも大きな問題は見られず、IPV 製造のための製造方法および品質管理試験方法は、概ね確立することができた。今後は免疫原性試験を行う際に、常にコントロールとなる標準抗原を定め、その免疫原性と比較検討することで、IPV の有効性を定量的に評価する系を確立するとともに、IPV の製造方法および品質管理試験方法を標準化するための、生物学的製剤基準を早急に制定し、IPV を恒久的に製造および供給できる体制を整えることが必要である。

公開日・更新日

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