患者向け副作用用語の標準化手法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000080A
報告書区分
総括
研究課題名
患者向け副作用用語の標準化手法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
内山 充(財団法人日本薬剤師研修センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋隆一(国立病院東京医療センター)
  • 木村和子(金沢大学自然科学研究科)
  • 久保鈴子(財団法人日本薬剤師研修センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者の自覚症状を手がかりに、医薬品の副作用を早期に検知するには、副作用の初期症状についての患者用語が体系的に整理されていなければならない。本研究は、患者が医療従事者に対して訴える副作用関連の自覚症状の用語を、実態に即して調整し、標準化を行なう手法を検討することを目的とした。
研究方法
第1段階としては、患者言葉を収載している既存の優れた文書を用いて患者用語の記載構造の解析を行った。第2段階としてそれらを詳細に解析して患者用語の体系化あるいは標準化の可能性を検討した。患者表現の取り出し元としては、内容的に現在もっとも信頼の置ける「医薬品服薬指導情報集(以下情報集)」の全収載品目(約400品目)に関する記載、および、医療現場の経験が良く盛り込まれている「自覚症状から探る薬の副作用(高橋隆一著)」を用いた。患者用語に対応する副作用用語、および逆に副作用に対する患者表現例(いずれも医療従事者から患者への説明後として用いている例)を、情報集全品目についてリストアップした。さらに、「自覚症状から探る薬の副作用」に中で用いられている副作用用語と患者用語との関連性を検索した。ついで、情報集の中より約100品目をSGMLデータベース化し、その中に含まれるすべての患者向け症状用語を、副作用との関連づけのもとに抽出し、患者用語の記載構造を調査分析した。また、「自覚症状から探る薬の副作用」についても記載構造の分析を行った。患者用語体系の標準化についての検討は、情報集のデータベースより抽出した患者向け症状用語を、一定の方式でグループ化、あるいは樹形化が可能であるかを、多くの観点より検討した。以上の検索はいずれも(株)インタージョインの協力を得て行なった。情報集に記載された患者用語から得られた典型・非典型の患者表現の適合性を臨床現場の経験の深い分担研究者により検証すると同時に、他方、金沢大学付属病院および石川県下の病院・薬局等の医療現場において、実際に入院患者あるいは薬局への来店患者からの訴えを集計して、典型・非典型の患者表現と照合し、同様に適合性を検討した。
結果と考察
情報集全体に付いて行なわれた患者用語と副作用との相互の関連性の解析によって、患者用語は類語は多いが基幹語はそれほど多くなく、それらがかなり重複して各副作用に用いられる傾向にあることが明らかとなった。一つの副作用に対して自覚症状は複数あり得るので、患者用語は複数の表現が採用されている場合が多い。このことは、患者情報を複数得て、それらの組み合わせを解析することにより、副作用検知に有力なデータを得られる可能性を示唆するものである。記載構造の解析結果から得られたこととして、患者用語が標準化されれば、それらを組み合わせて検索することにより、より早期に副作用を検知できる可能性が強く示唆された。患者用語の体系的標準化について検討した結果によれば、患者表現は、完全一致の表現に統一することは困難である。しかしながら、ある用語範囲内に収まる単純な用語に分解することは可能であると考えられた。それは、「状態の表現」と「部位・機能の表現」および「程度の表現」の3つの要素である。それぞれについて一定の言葉を集合として整理することができる。それぞれの用語要素は、類似語を含んだグループ化、もしくはシソーラス化をしておけば、あいまい検索にも対応可能である。したがって、患者表現を特定する構造として、症状要素、部位・機能要素、程度要素の3つの要素に分解し、それぞれに類義語を加えた辞書を用意すれば、検索用情報源としてか
なり有効であるという結論に達した。これらの前提を持って、実地に病院や薬局の患者から聞き取りした患者用語と比較しつつ、上記要素の組み合わせの妥当性を検証した結果、典型的患者表現の場合には、主語として最初に患者の口から出る部位・機能用語によって、次に来る症状表現が或る特定の範囲内に分布することが伺えた。部位用語としては、特定部位を表す用語のほか、「体が」「気持ちが」「体重が」「意識が」等の不特異部位表現や、部位がまたがった症状もある。非典型表現では、「吐き気」「じんましん」「咳」「疲労」「のぼせ」「幻聴」その他症状表現が独立することが多い。部位・機能用語と症状用語は類義語によるグループ化が比較的可能である。程度要素の表現には、擬音表現や「○○のような~」に類する比較表現の種類が多く見られ、また地方特有の方言の影響が強く現れることが予測される。 ところで、医薬品情報の各種の媒体で患者向けの用語を使うことが進みつつある。我々が厚生労働省の監修のもとに作製してきた「医薬品服薬指導情報集(情報集)」はその意味では最も充実している。その作製構造は、医薬品から予期される副作用(医学用語)を挙げ、次いで予測される症状(医学用語)を示し、最後に初期の自覚症状(患者用語)を説明する形となっているが、最終の患者用語についての表現の標準化はこれまでなされていなかった。今回の患者用語に関する記載構造の解析、および用語体系の整理についての検討の結果を踏まえて、今後引き続き行なうべき体系化・標準化の作業を考察すると、まず基幹語としての「部位・機能用語」と「症状用語」および代表的「程度用語」を選定して、類義語、派生語を加えて用語別にデータベースからの出現頻度の高いものから数百語程度を選び、次にそれらの組み合わせによりどのような副作用に到達するかの検討が、最初に必要な家業と思われる。実地の入院患者および薬局に来店した患者からの聞き取り調査の結果を見ると、予め標準化した表現方法を準備すれば、患者からの訴えのほとんどが標準型に整理されるが、地方により特有の方言ならびに微妙な程度用語がかなり存在することも伺えた。本研究の成果を、さらに今一歩進めて利用すれば、的確に捉えた患者の主訴をもとに、患者の服用している医薬品および患者の受療疾病を合わせて検索、解析することによって、可能性のある副作用をいち早く見出して対処することができるような検索システムを構築することができると考えられる。また、「患者向け添付文書」のガイドラインの中に生かすことにより、患者と医師、薬剤師等が共通の用語により情報を共有できる体制が作られると考える。上記のような検索-適用-確認の作業のためには、データ交換が必要であるので、インターネット上でのデータ交換や文書交換の規約であるXMLを意識した記述構造を考えるべきである。離れた場所からの検索、あるいはSGML等他のデータ形式への変換も可能であることから利用価値が高い。
結論
信頼のおける情報集のデータベース化を急ぎ、それに基づき患者用語の類義語・派生語等のグループ化を図ることによって、患者向け用語の標準化が可能になると考える。さらに、複合検索、部分検索も含めて患者表現およびその組み合わせから、関連ある副作用用語の検索が可能となることで、自覚症状や服用医薬品から、副作用の予知がより確実に行われることとなろう。

公開日・更新日

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