原子力施設の事故等緊急時における食品中の放射能の測定と安全性評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000078A
報告書区分
総括
研究課題名
原子力施設の事故等緊急時における食品中の放射能の測定と安全性評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
出雲 義朗(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口秀雄(財・日本分析センター)
  • 河村日佐男(放射線医学総合研究所)
  • 平井保夫(茨城県公害技術センター)
  • 杉山英男(国立公衆衛生院)
  • 松浦賢一(日本原子力研究所東海研究所)
  • 村山三徳(国立医薬食品衛生研究所)
  • 高橋知之(京都大学原子炉実験所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
原子力施設等に放射性物質や放射線の異常な放出がある場合又はその恐れがある場合、原子力安全委員会が定めた「原子力施設等の防災対策について」(防災指針)(平成12年5月一部改訂)及び「緊急時環境放射線モニタリング指針」(平成12年8月一部改訂)等に基づき1)空間放射線量率、2)大気中の放射射性物質の濃度、及び3)各種環境試料中の放射性物質に関するモニタリングが実施されることになっている。これらのモニタリングでは試料によって採取、調製法、測定法及び線量の評価法がそれぞれ異なるので、多数の試料に関係者がそれぞれ一斉に十分対応することは容易なことではない。そこで、本研究では環境試料のうち農畜水産食品につき、摂取における安全性評価の基礎として、放射能に関する測定や、摂取の場合における体内被ばく線量の推定、評価を一層明確にするため、これら食品に特化した調査研究を行った。
研究方法
まず、本研究を4つの課題、すなわち1)食品の測定及び被ばく線量評価の開始と対応に関する研究、2)緊急時における食品中の放射能の測定に関する研究、3)緊急時における食品摂取に起因する被ばく線量評価に関する研究、及び4)緊急時に即応する平常時の事項に関する研究、に区分した。次に、各課題ごとに分担研究者を決定し、上記指針のほか、国の災害対策基本法に定める「防災基本計画・原子力災害対策編」(原子力防災計画)、「原子力災害特別措置法」(平成12年6月施行)、「原子炉等規正法」(平成12年7月施行)、科学技術庁の各種「放射能測定法」、「食品衛生法」(平成13年3月31日現在)、「平成10年国民栄養調査結果」(健康栄養情報研究会編、第一出版,2000)等を基礎資料として、それぞれ調査研究を進めた。
結果と考察
課題1):開始は、空間線量率や大気試料への対応よりやや遅れるので、指針の第1段階とは異なる。終了時期は指針とほぼ一致するが、開始時期の違いに基づき、この期間を「初期」と定義する。しかし、その後の開始及び終了時期は指針の第2段階と概ね一致するが、初期に対して「後期」と定義する。なお、初期の開始は、指針等との整合性を図り、対策本部等の判断に十分留意することが肝要である。課題2):簡易測定としてサーベイメータ、また詳細な核種分析として機器分析及び放射化学分析を適用する。サーベイメータは検出器により線質、感度、測定範囲等が異なることに留意する。機器分析としては、ガンマ線放出核種に対し「ガンマ線スペクトロメトリー」(科学技術庁、平成4年制定)を適用する。ストロンチウム-89,90には「放射化学分析法」(同、昭和58年3訂)を適用するが、分析結果を得るまでには比較的長い時間を要するので、この点、迅速性が期待される液体シンチレーション計数法につき考察した。また、アルファ線放出核種のウラン及びプルトニウムについては、それぞれ「ウラン分析法」(同、平成8年3月、1訂)及び「プルトニウム分析法」(同、平成2年11月、1訂)を適用するが、さらに迅速、高精度なICP-MS法の有用性や適用上の課題についても考察を行った。なお、試料調製の一部は食品衛生法に基づき実施するので、より実際的な摂取食品に関する測定や線量の評価が期待される。課題3):まず、上記栄養調査結果を基礎資料として、対象の個別食品及び食品群を選定、分類し、初期に6食品(群)、また後期にはこの6食品(群)を含む12食品(群)を対象にして、指針よりも細分類した。次に、食品
中の核種濃度、摂取期間、一日摂取量、生産、流通、保管等の後の消費に係る市場希釈係数、調理加工処理に係る除染係数、及び核種の物理的減衰等の各パラメータに基づいて、線量算定の基礎式を示した。一方、評価対象者は指針における乳児、幼児及び成人に加えて、生理学的にも、また線量係数も異なり、我が国の対象人口が1000万人を超える「少年」(ICRP-56、他報告における7-12歳に対応し、代表年齢は10歳)及び「青年」(12-17歳に対応し、代表年齢は15歳)も対象にした。これによって、我が国の各年齢階級の人々が網羅的に評価されると期待される。さらに、各年齢階級の食品の摂取量は最新の国民栄養調査結果に基づいたので、評価される線量は最新の値を示すことになるであろう。なお、参考までに、除染係数に関連する食品中放射能の除去率の文献値を例示したが、その値が十分に使用可能であれば食品の摂取におけるさらに実際的な放射性核種の摂取量と、摂取に基づく被ばく線量の評価が期待される。課題4):緊急時に即応するには平常時における事前の整備が重要なことは論ずるまでもない。その事項としては、地域に即した対象食品の選定、把握、食品の入手経路、施設周辺地図、試料の採取記録(用紙)、平常時の把握、資機材の確保、機器の校正、維持、管理、国内外の関連する情報の収集、技術の研鑚、訓練の実施、調査研究等、多数の事項が重要である。
結論
課題1):食品の放射能の測定及び評価は防災指針とは異なり、指針の第1段階よりやや遅れて開始する。しかし、その終了時期は第1段階と概ね一致する。本研究では、指針との違いを基にこの期間を「初期」と定義する。その後の開始及び終了時期は指針と概ね一致するが、指針と区別するため「後期」と定義する。放射性物質の食品への移行、蓄積は比較的長期に及ぶので、測定及び線量評価は「原子力緊急事態」解除宣言後も暫くの間、継続実施することが必要になるであろう。課題2):放射能の簡易測定にサーベイメータはきわめて有用であるが、使用目的、測定対象核種、放射線強度等に応じた機器を選定する。詳細な核種分析法として、まず、ガンマ線放出核種に対するガンマ線スペクトロメトリー法はきわめて有用である。次に、ストロンチウム-89,90に対しては放射化学分析法を適用するが、分析に比較的長時間を要するので、今後、液体シンチレーション計数法等迅速な分析法の確立が期待される。ウラン及びプルトニウムについては同庁の分析法を適用するが、さらに迅速、高精度で計測法がほぼ確立しているICP-MS法の有用性を指摘した。課題3):まず、食品中の核種濃度、その他の各種パラメータに基づく基礎式により線量を算定する。一方、評価対象者は、防災指針における乳児、幼児及び成人に加えて、幼児及び成人の間の年齢階級、すなわちICRP-56、他報告の7-12 歳及び12-17歳に対応する(それぞれの代表年齢は10歳及び15歳;我が国における対象人口は1000万人以上)、「少年(10歳)」及び「青年(15歳)」も対象にする。これによって、我が国の各年齢階級の人々が網羅的に評価されると期待される。なお、パラメータのうち、食品(群)の摂取量は主として栄養調査結果に基づいたが、関連する市場希釈係数や除染係数の変動要因、その補正要因はきわめて複雑、多様なため、不明な点も少なくなく今後の課題である。4)緊急時に即応する平常時の整備事項としては、上記のほか、測定や線量評価の把握、整備に加えて、関連する指揮、連絡系統、実施体制等の整備、把握も重要である。また、全般的な理解の基礎として放射線防護に係る物理学的、化学的及び生物学的な事項の研鑚も重要である。
これら一連の研究成果は、食品に特化した放射能の測定や食品摂取の場合の線量評価、ひいては安全性評価のための基礎資料として援用し得るであろう。なお、本研究における測定や評価は、国外の事故等に基づく輸入食品に対しても適宜準用が可能であり、また、原子炉等規正法の対象外である放射線障害防止法、医療法、薬事法等放射線関連施設からの放射性物質の異常漏洩の場合にも、施設の種類、性質、状況及び規模等に応じて、適宜準用し得るであろう。

公開日・更新日

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