精神障害者の短期入所施設のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200000064A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者の短期入所施設のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
谷中 輝雄(全国精神障害者社会復帰施設協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神障害者居宅生活支援事業が平成14年度から市町村を窓口に実施される。その窓口業務の一つであるショ-トスティ施設は、全国3000余の自治体数に対し障害者プランの数値目標は平成14年目途でわずか100施設にすぎない。
したがって居宅生活支援事業を円滑に推進するためには、その社会資源の確保が不可欠である。加えて早急に課題解決を図らなければならない高次脳機能障害の方々の家族負担軽減や、思春期ケア体制の不備による一次避難対策にショートスティ施設の活用可能性についても検討を加え、これら対象者在宅支援のありようを考える一助とする。
そこでシ-トスティ施設の現況とその活用にかかわる実態を通して、ショ-トスティの有用性やその機能、及び必要量などについての提言を行うことを目的とした。
研究方法
精神障害者にかかわるショートスティは平成12年4月現在で103 ケ所が整備されている。その内92施設に調査票を送付し、ショートスティ施設専用部屋数、施設の利用目的及びその理由、利用人員、利用回数などについての回答を求めた。
国の通知による入所利用要件は、「家族が疾病、冠婚葬祭、事故等の理由により、在宅における処遇が一時的に困難になった場合」とされている。その活用は多岐にわたると想定されることから、調査項目ごとにコメントを記入。ショートスティニーズの多様性と現行利用要件外利用(精神障害を有する思春期児童、高次脳機能障害者等への対応)の必要性や利用可能性を把握し、あわせてケア度及びそれに伴うマンパワーの必要性を明らかにしようとした。
あわせていくつかの特徴的ケアを実施している施設を訪問調査し、利用レベルによって異なる医療との連携やマンパワーの配置、あるいは指導・訓練機関やサポートネットワークの必要性などを示すことにした。
結果と考察
平成12年4月現在のショートスティ施設103 ケ所中92施設に対して調査票を送付し、81施設から回答を得た。以下に主な調査項目に従って現況と課題を示す。
①ショートスティのための専用部屋数
1室と答えた施設が46施設で全体の56,8%であり、複数部屋確保(最大6部屋)との対比はおよそ半々であった。生活訓練施設でショートスティを整備する場合の専用部屋数は概ね1部屋である。また、他施設をショートスティに活用している施設が48,1%と高数値を示しており、すでに複数部屋用意している施設と付け合わせるとショートスティ施設を複配置する、ないしはその必要性にかられて代替活用している施設は90%を越えている。②ショートスティの利用理由
制度上の目的利用が22%と一番高い比率を示した。なお、ほぼ拮抗する利用理由は不安の解消21%、家庭内葛藤の回避18%、生活リズムの修復17%と続き、制度上の目的利用なのか目的外利用なのか判断がしにくい事例が多い。また、体験利用といった社会参加のための活用も22%を占めている。
③ショートスティ施設の利用率
専用部屋数及び利用目的等の調査結果からすれば、その利用率は高いと予測されるのだが、実際にはショートスティ開設後2年でおよそ50%である。利用率は開設から年次を経る毎に高まるのだが、十分な利用率とは言えない。特別養護老人ホームでショートスティ施設がスタートしたときも同様の傾向が伺えた。
精神障害者短期入所事業、これまで利用者と施設の直接契約によって利用がなされてきたことから、利用目的及び利用率にも大きなバラツキが見られる。事業が利用ニーズを持つ人々に対して行う啓蒙啓発や、施設の周知度などがその要因と考えられる。今後利用希望者は市町村に対して利用届を提出し、事業者に利用申込みを行い、利用契約を締結することになる。サービス提供者は市町村に補助金の交付申請及び利用報告を行い、市町村はその利用にかかわる経費について補助金を交付するシステムへと移行することになった。現行ショートスティ利用が施設と利用者の直接契約であり、施設が利用の必要性を認めれば、基本的には精神障害者保健福祉手帳の所持は問題にならない。が、市町村が利用に関するあっせん・調整を担うことで、福祉手帳所有者に利用が限定される。精神障害者固有の課題にかかわる福祉手帳の持つ問題点を克服することを前提に、福祉手帳の普及を図ることができないと、これまで福祉手帳を持たずに利用していた人たちの利用が不可能になる。入院経歴のない初発の人たちに対する利用をどうするのかといった問題も生じる可能性がある。又、利用届を受理し調整する市町村窓口が、精神障害者及びその家族の人権を守り、生活権が疎外されないよう配慮するため、市町村に精神保健福祉士等の専門職を配置するなどし、その研修体制についても確立していく必要がある。 
結論
①「ショートスティ施設は在宅福祉サービスに欠かせない」ものである。にもかかわらず障害者プランによる数値目標はわずか100 施設に過ぎない。したがって②「施設整備を居宅生活支援事業者の責務とする」ことが不可欠である。市町村がその目標を掲げ、住民サービスの一環として取り組むことが求められるのだか、当面二次医療圏に2~4ケ所、少なくとも生活支援センター整備計画である人口30万人に2ケ所と同数のショートスティ施設を確保する必要があろう。
そのためには③「ショートスティ施設への諸資源の参入が必要」となる。グループホームなどは有効な利用可能資源である。また、調査結果に見られるように、複数部屋の必要性などから、援護寮の空き部屋活用を含め、ショートスティ施設への転換を視野に入れ検討すべきである。その活用度合いはおよそ20~50%と予測される。加えて多様なニーズに応え、在宅生活の維持を図るためには④「ショートスティ機能の類型化と利用条件の緩和」が必要となる。それは施設の役割が利用者希望者のレベルや地域社会の要請、あるいは運営主体の理念と目的などによって異なるという要因を前提に検討されるべきである。
居宅生活支援事業は精神障害者の人権と生活権に深くかかわるものである。利用対象者の生活全体を視野に入れ、⑤「生活者の視点でケアマネジメント手法を活用し、その利用社会資源の一つとしてショートスティの活用を図る」ことが、利用ニーズを明らかにし、かつ施設機能と役割やその類型化を形成していくことになる。したがって市町村ではこのような視点に立って各種社会資源を活用できる専門職の配置が必要となる。併せてショートスティ施設にもその役割・機能を十分に活用し、⑥「利用者ニーズに応えられるケアの実施と諸機関の連携を図るためのマンパワーの確保」が不可欠である。

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