思春期における暴力行為の原因究明と対策に関する研究

文献情報

文献番号
200000063A
報告書区分
総括
研究課題名
思春期における暴力行為の原因究明と対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小林 秀資(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在のわが国の社会状況の中で、子どもを巡る様々な問題が起こっている。ことに、普段おとなしい子どもが突然「キレる」といった近年の凶悪な少年犯罪の増加は世の中に大きな衝撃を与え、これから子どもを産み育てようとする者にとっても、未来に不安を感じざるを得ない状況を作り出している。思春期は乳幼児期に次いで心身ともに発育の盛んな時期であり、この時期をいかに心身ともに健康的に過ごせるかということは大人になる過程で非常に重要である。彼らの行動については、食生活や様々な環境因子も一因とも言われている。
このような現状を直視し、従来公衆衛生学で用いられてきている健康増進・疾病予防のための統計学的・疫学的分析手法を活用しつつ分析し、原因を究明して、何がこうした現実を引き起こしたのかを明らかにすることによって、改善のための対策を検討し、具体的な育児方針や教育方針を提言し、暴力行為の予防や健全育成に資するものとしてゆく。
青少年の心身のストレス等と食生活、食習慣、及び食行動、住環境、騒音等の関連要因を明らかにするとともに、正しい食生活の習慣化をはじめとした種々の環境因子への対応の取り組みにより、次の世代を担う若者の心身の健康づくりをめざす。この研究成果を生かして、マニュアルを作成し、地域の精神保健福祉センターや児童福祉施設等で行われる行政的な相談事業などに活用し、適切な支援に役立てる。
研究方法
1)レビュー研究を行う。海外・国内の文献をメドライン、医学中央雑誌等を利用して検索し、思春期の暴力行為の環境要因、生育歴をはじめとしたさまざまな要因に関する文献を検討する。環境要因には、グルタミン酸ソーダなどの影響等も含める。また、各種の予防活動に関する取り組みの文献も収集し検討する。システマティックレビューを意識し、レビューのサマリーにはレビューアーのコメントを添付する。
2)予備的な調査として、近年における社会の出来事や変化を把握し、子育てに関する考えを収集すると共に、日頃、子どもたちが感じている社会への不満や問題点をグループインタビューにより調査する。フォーカスグループディスカッション手法を用い、10名の高校生を情報提供者とする。
3)警察庁資料により、過去数カ年の犯罪発生件数を犯罪の種類別、性・年齢別、住所地域別、年次別に整理し、国勢調査等から導いた同人口を分母とした率を算出する。
4)全国1000の小学校及び全国500の小児科クリニックを対象に、ADHDと思われる学童もしくは受診児の有無や対応の状況等についてアンケート調査を行う。
結果と考察
研究結果=1)レビュー研究の結果、欧米で攻撃的な行動をとりやすい子どもは、幼児期から徐々にその特性が現れ、攻撃性を増してゆくことが分かった。わが国におけるいわゆるキレる子どもは、おとなしかった子どもが予想外の突発的な行動にでることに特徴があることで、欧米の現状とは異なる。わが国においても、子どもの育てにくさを感じさせる行動と、親の子どもへのネガティブな気持ちとが相互に関わりながら形成されてゆくことが明らかになっていることがわかった。
生活環境因子と子どもの行動との関係についてのレビューによると、テレビ視聴が人間関係に及ぼす影響について、友達との交際の減少や、他人への感情移入の困難をもたらしていることが明らかになっている。また、高層高密度住宅で育つ子どもの、潜在的なストレスと心身の健康との関連が問題提起された。
児童虐待を受けた場合さまざまな情緒・行動上の問題を生じ、これは思春期の暴力行為と関連している可能性もあり、虐待に関する調査や、虐待予防に積極的に取り組むべきである。
2)高校生のグループインタビューによる意識調査では、高校生は「キレる」という言葉について衝動性、自制の喪失、怒りという印象を持っていた。高校生は現状に不満、不安、多少の抑うつを持ちながら生活し、それらの処理としての「キレる」を仄めかしていた。
3)警察庁の既存資料を、他の白書類と同様の年月齢区分で集計し直してみたところ、これまでの指摘と同様の傾向が確認された。都道府県別に比較したところ、特に緯度や経度に関係したような傾向は見られず、また、際だった特徴を示す都道府県も無かったが、大都市を含む都道府県で重大犯罪の発生率が高いことが分かった。
4)小学生のADHDは、1000人あたり3.7人の発生で、高学年ほど少なかった。医師はADHDが増加しているという印象を持つ者が多く、対応には児童精神科医との協力が必要であるとする考えが多かった。
結論
本研究は青少年の暴力行為の要因解明のために学際的な接近を試みたものであり、以下の点が明らかになった。
①社会の現状分析として、親の世代が思春期を送った1970年代から現在に至るまでの社会の出来事や変化を把握し、また日頃子どもたちが感じている社会への不満や問題点を、「キレる」行動に関する高校生の意識調査を通じて探り出し、キレる行動の背景が明らかになった。
②少年の非行や犯罪に関する国内外の文献をレビューし、様々な専門家の考えを吸収した。それらは本研究への有用性の観点に基づき整理することのできるものであった。また、警察庁の既存資料の分析を行い、青少年の居住地域に関する特徴として、大都市を含む都道府県で重大犯罪の発生率が高いことが分かった。また、小学校や医療機関におけるADHDの実態が分かった。
③警視庁少年相談室等の協力を求め、問題行動を起こした子どもの生育歴調査のための準備を進めた。警察、児童相談所、少年鑑別所等の協力を得て、調査票を作成し、関係機関の協力を仰いだ。
本研究は文部省国立教育研究所と連携して行い、暴力行為の現状改善のための対策について、初期段階の検討を行っている。具体的な育児方針や教育方針を始めとした予防策を提言し、21世紀に向けての心身の健全育成のガイドラインを示してゆくための基礎付けを行ったものである。

公開日・更新日

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