聴覚障害患者及び言語障害患者に対する医薬品情報提供等に関する研究

文献情報

文献番号
200000053A
報告書区分
総括
研究課題名
聴覚障害患者及び言語障害患者に対する医薬品情報提供等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 彰(社団法人 日本薬剤師会)
研究分担者(所属機関)
  • 堀 美智子(社団法人 日本薬剤師会)
  • 山本 亮(社団法人 日本薬剤師会)
  • 山本 信夫(社団法人 日本薬剤師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、ノーマライゼーションの理念の元に、耳が聞こえない者と口がきけない者に対する医薬品使用の安全性を確保することを目的とする。また、それに併せ、同様の障害を持つ者が薬剤師となった場合に予想される問題や、それに対する支援策を検討することを目的とする。
障害者の社会参加と平等に関しては、障害者基本法において「すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものとする。すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする。(第三条)」と規定されている。
しかし、現状を見るに、医薬品使用の安全性確保のために不可欠な情報提供が、耳が聞こえない患者及び口がきけない患者に対して、十二分に行われているとは言い難い。それら障害者に対する医薬品情報提供の試みも散見されるが、それらは組織立ったものではなく、個々の薬局等、施設単位での取り組みが多い。
そこで今回、それら障害を持つ患者の、医薬品使用の安全性を確保するためには、どのような方法を用いて情報提供を行うことが望ましいかについての検討を行い、その指針を作成する。
またそれに併せ、薬剤師法に規定された絶対的欠格条項に該当するもののうち、耳の聞こえない者と口がきけない者に関し、当該する障害が薬剤師職能を遂行する上で、どのような問題を生じる可能性があるのか、また、どのような支援を行えば問題なく業務を遂行することが出来るかについての検討を行い、その結果を踏まえ、耳の聞こえない者と口がきけない者が薬剤師となった場合に、その支障ない薬剤師業務の遂行に対する提言を行う。
これらの検討により、それら障害を持つ者に対する医薬品使用の安全性を確保することが可能となるとともに、障害者の社会参加に関する検討が行えるものと考えられる。
研究方法
1.耳が聞こえない者及び口がきけない者に対する情報提供
難聴者・失聴者団体等に対し、耳が聞こえない者及び口がきけない者が医療機関で困っていること等の聴取を行い、その対策について検討を行う。また、その対策に基づいた指針の作成を行う。
2.耳が聞こえない者及び口がきけない者が薬剤師となった場合、どのような支援策をとればよいかの検討
薬剤師の行っている業務の概要を調査すると共に、諸外国での状況調査を実施する。また、耳が聞こえない者及び口がきけない者が薬剤師となった場合、それら欠落した機能を代替するための方策を考察する。さらに、薬局等でそれら機能的障害を持った薬剤師を雇用する際に注意すべき点などについての考察も行う。
結果と考察
1.耳が聞こえない者及び口がきけない者に対する情報提供
難聴者・失聴者団体等に対し、耳が聞こえない者及び口がきけない者が医療機関で困っていること等の聴取を行った。その結果、医療機関で問題となっている点は、主に受付・会計等での呼び出し、医師・薬剤師等医療従事者との会話等であった。例えば耳が聞こえない患者に、医療従事者が相対せずに、声のみで呼び出しを行っても通じない。それら機能的障害を持つ者については、医療従事者が当人と相対して、対応することが必要である。この問題の解決策としては、医療従事者がすべての患者にそれら障害があると仮定し対応する方式が考えられるが、現実的な問題として効率的とは言い難い。そのため、それら機能的障害を持つ者がなんら臆することなく、自らの障害を医療従事者に伝えられるような環境を整備するとともに、医療従事者がそれら機能的障害を持つ者の存在の可能性をより強く認識すること、さらに、それら機能的障害を持つ者に対し、どのような対応を行うべきかを知ることが不可欠である。
以上を勘案し、それら機能的障害を持つ者に対して、どのような対応を行う必要があるかという指針を、薬局を例にとり作成した。なお、通常、研究報告は印刷媒体によって行うものであるが、本研究で対象としている機能的障害を持つ者の特性や対応時の留意点について、それら障害を有さない者が容易に理解できるとは考えづらい。そのため、通常の印刷媒体での報告書ではなく、視聴覚資料(ビデオ)を作製し指針とした。
2.耳が聞こえない者及び口がきけない者が薬剤師となった場合、どのような支援策をとればよいかの検討
我が国で薬剤師の行っている業務の概要を調査した。また、それら業務で、薬剤師免許の欠格条項に該当するような身体機能を用いているかの検討を行った。その結果、欠格条項に該当する身体機能を用いて薬剤師の業務を行っていることがわかった。そこで、それらの代替手段を調査し、業務の遂行が可能であるかを検討した。その結果、当該職域内(内部)でのコミュニケーションは、FAX、電子メール等、音声に寄らずとも、視覚的な手段を用いれば、大きな支障はないと考えられる。一方、職域外(外部:薬局においては患者、処方医等も含む)とのコミュニケーションでは、相手方に一律に筆記やFAX、電子メール等を義務付けることは不可能であり、他の薬剤師や代理人の介在が必要な場合もあると考えられる。
同時に、諸外国等でそれら機能的障害を持つ薬剤師がどのような手段を用いて、業務を遂行しているかの調査を行った。調査対象国等で、薬剤師免許の取得に関したいわゆる欠格条項が存在する国は無かった。しかし、完全失聴の薬剤師の実例は調査内では存在しなかった。これは、調査対象国等において、薬剤師免許取得の際に、健聴者と電話応対等を含めた十分なコミュニケーションを重要視するような試験(実習)が存在すること等が原因と考えられる。それらの要件は健聴者の薬剤師にも当然求められており、失聴者を差別したものではない。なお、アメリカにおいては、障害をもつアメリカ人法(Americans with disabilities Act of 1990; ADA)で、障害を持ったすべての人々は保護されており、雇用者等は、障害者が十分な仕事を遂行できるような「合理的な(人的・物的)設備」を整えなければならないと規定されている。そのため、完全失聴の薬剤師が薬局に勤務する場合、外部(医師や患者等)とのコミュニケーションに関しては、他の薬剤師がいることが前提になるであろうとの回答を得た。ただし、「小さな薬局で完全失聴の薬剤師が1名しかいない場合、その薬剤師のために健聴の薬剤師を新たに雇用することは合理的ではない」との見解は得られたが、「合理的」の具体的な範囲は示されていない。
以上を検討及び調査と、障害者基本法・障害者雇用促進法等に鑑み、薬局等でそれら機能的障害を持つ薬剤師を雇用する際には、障害を持つ者にも、障害を持たない者と同じように、採用及び雇用後の取り扱いを行うこと、つまり個人の意欲や能力に応じて、障害のあるなしに関わらず等しい機会や待遇が与えられるべきである(機会の平等)との指針を作成した。
結論
1.耳が聞こえない者及び口がきけない者に対する情報提供
耳が聞こえない者及び口がきけない者が医療機関で困っていること等は、主に受付・会計等での呼び出し、医師・薬剤師等医療従事者との会話等であった。そこで、薬局において、それら障害を持つ者に対し、効果的な情報提供を行うための指針として、視聴覚資料(ビデオ)を作成した。
2.耳が聞こえない者及び口がきけない者が薬剤師となった場合、どのような支援策をとればよいかの検討
我が国で薬剤師の行っている業務の概要を調査した結果、薬剤師はその免許の欠格条項に該当するような身体機能を用いて、業務を行っていることがわかった。しかし、FAX、電子メール等の代替手段をとれば、職域内(内部)でのコミュニケーションには、大きな支障がないと考えられる。一方、職域外(外部:薬局においては患者、処方医等も含む)とのコミュニケーションでは、相手方に一律に筆記やFAX、電子メール等を義務付けることは不可能であり、他の薬剤師や代理人の介在が必要な場合もあると考えられる。ただし、それをもって、当該薬剤師の能力が低いと判断されるべきものではなく、障害者基本法・障害者雇用促進法等に鑑み、薬局等でそれら機能的障害を持つ薬剤師を雇用する際には、障害を持つ者にも、障害を持たない者と同じように、採用及び雇用後の取り扱いを行うこと、つまり個人の意欲や能力に応じて、障害のあるなしに関わらず等しい機会や待遇が与えられるべきである(機会の平等)との指針を作成した。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)