院内安全対策に資する情報化に関する調査研究(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200000041A
報告書区分
総括
研究課題名
院内安全対策に資する情報化に関する調査研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
細田 瑳一(財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院)
研究分担者(所属機関)
  • 山内隆久(北九州大学)
  • 吉矢生人(大阪大学)
  • 田村光司(東京女子医科大学)
  • 大滝英二(財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の院内情報システムがリスクマネージメント機能を有していないために却って問題であるという指摘がある。①現状のシステムでどの程度のリスクマネージメントが可能か、②情報システムが導入される前後でリスク発生がどの程度変化したか、③情報システムの効果と問題点を明らかにし、④問題解決の為の情報システムの要件を考え試作する。
研究方法
①班員の経験と文献収集のまとめ、②情報システム導入施設の調査(国内10施設、海外6施設)、③リスクマネージメント、特に患者誤認や誤投薬を予防する情報システムの持つべき要件の抽出とシステムの試作。
結果と考察
アメリカ合衆国ではHarvard Medical Practice Studyなどによって始まった医療過誤(ミス)や警鐘的事例(ニアミス)などについてのまとめが昨年、Institute of Medicineから「To Err is Human」(邦訳:人は誰でも間違える.医学ジャーナリスト協会訳)として報告された。その対策についても、各施設で事故対策委員会の設置、マニュアルの作成、情報システムの改善などが提言され実施され始めている。
一方、我が国でも横浜市立大附属病院での患者取り違え手術をきっかけに医療事故が相次いで報告され、このことを受けて厚生省でも緊急の試作が行われている。当研究班でも、医療事故ないし医療上のニアミスを分析した結果、注射・点滴、転倒・転落事故、経口薬の順で事故が多く、検査・手術などに関する事例を加えた診療補助業務だけで60%以上を占めることが明らかとなった。その対策としては個別の姑息的対応でなく、医療全体の問題としての抜本的対策が望まれる。
これまでの報告によれば、医療過誤や警鐘的事例の主な発生要因としては、情報伝達の混乱、患者の類似性などがあげられている。これらを防ぐ原則は、個々の医療業務の標準化と医療者全員と受療者の診療情報共有が最も重要なキーワードであり、単純明解なコンピュータシステムの導入でかなりの改善が可能であると考えられる。
一方、必ずしもリスクマネージメントを目的として開発されているわけではないが、我が国の一部の病院では電子カルテシステムが導入され始めているが、リスクマネージメントとしてのシステムに組込まれている例は少なく、トータルシステムがある為に却って業務上の混乱を生ずる面も見られている。また、ネットワーク社会としては日本よりも進んでいるアメリカの電子カルテシステムの実情はあまり知られていない。見学したいくつかの新しい病院の電子カルテは、オーダリングや記録、安全な投薬などのシステムとして利用され成果をあげているが、リスクの予防と目的に開発された例は少なく、また高価なので避けている傾向が見られた。
我々の経験から医療過誤や警鐘的事例を分析した結果、それらを予防する電子カルテシステムの条件として以下の項目を満たすことが望まれる。
1)診療計画・予定の医療チームによる共有、受療者への説明・開示と患者本人による理解と認識:診療・看護など日常の医療業務の予定を開示する。それらが実施される前に患者個人に詳しく計画・予定を示し、説明を十分にする。このことにより患者は自分に行われる治療・検査などの内容や目的を事前に十分に知ってチェックし、且つ効果を認識することができる。これはこれまでの医療で殆ど無視されてきた患者本人によるチェック機構が働くことを可能にする。
2)診療の標準化による詳細な予定の実施と記録:診断及び合併症に応ずる一般医療の標準化により、詳細な一般的予定を作成することが可能となる。この仕組みの結果、患者個人の条件に応じたバリアンスへの対応ができ、医師・看護婦の研修にも役立ち、かつ誤りが少なくなる。
3)患者誤認の予防患者誤認は名前と実際の顔が常に認識されていないことに原因がある。必要なときには院内の何処でも患者が診療を受ける現場において、常に患者の顔、その他の複数のバイオメトリック情報が確認できるシステムが必要である。
4)処方・与薬の確実性を保証し誤投与を予防:理想的処方の流れ-①処方内容とその根拠も記載して医師が処方する。②処方内容が患者の概要と共に薬剤師に届く。③調剤が終わると看護婦及び患者個人に薬剤の写真を含めた服薬予定が表示される。その為には処方箋の分包記述の方法を毎服薬時の夫々の量を記述するアメリカ式記述方法にすることが望ましい。④患者が予定通り服薬してベッドサイド端末で入力する。⑤服薬終了の時刻と内容が電子カルテに記入される。⑥服薬後、医師・看護婦は患者の状態の変化を確認し、一定の臨床評価を行う。
患者に与薬する時の実際は、①看護婦はベッドサイド端末で患者の顔と服薬内容を確認。②患者は予め知らされた薬剤の写真でチェックすると共に自分が服薬したことをベッドサイド端末で記録する。この結果、医師の処方が同僚からチェックを受けた上で、薬剤師による処方内容チェックの後、調剤の誤りがないことが確認され、ベッドサイド端末で患者への説明と詳細表示の後、看護婦、患者本人と最低5段階のチェックを受けて服用されることになる。また服用されたことの確認や電子カルテへの自動記録が可能になる。同様に、点滴注射の場合も、内容、量、時刻などが正しく記録される。
5)幼児・小児・高齢者の転落事故の防止:病床柵の開閉を表示するシステムと警告システムの連動をさせる。付添家族の所在も確認できる。
6)個人のbiometricsによる確認を繰り返すことによる個人情報の保護(security):個人情報(診断、診療・看護計画、予定の詳細とその実施結果の記録など)は患者本人にはすべて開示される。本人が希望する家族にも開示されてよいが、コピーはとらないことを原則にする。カンファレンスなどで医療情報が提示される場合は個人を特定できない内容とする。またこれらの一次情報(変更できない事実の記録)を改変することはできない機構とする。また、本人を同定するためのシステムとして顔写真、指紋、虹彩などのいくつかを多重に用い、外部との情報の授受を暗号化した交信とし、画像も精度よく転送できるようにする。個人情報が常に本人に関する情報と結合して保管されており、その情報は改変されることがないよう保存される必要がある。
7)真正性の保証:上級医、研修医(担当医)及び主任看護婦を病歴作成責任者とすることによって一次情報が確実に記録され、カルテの真正性と水準、精度が保証される。
これらの要項に応じた情報システムとして、予定検査入院の患者について電子カルテのプロトタイプを作成した。
結論
①電子カルテの導入によって医療ミスないしニアミスの申告は増加しているが、実数を減らしたかどうかはまだ明かでない。②エラーを防ぐことが可能な電子カルテシステムの条件とは何か、について調査・検討し内外の実例の調査を報告した。③電子カルテがエラーを防ぐシステムのモデルを作成して医療者と受領者を誘導してリスクを減ずる方法を考案作成した。

公開日・更新日

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