医療事故防止対策の検討-看護業務に関連する事故の実態調査から医療事故防止対策を検討する-

文献情報

文献番号
200000038A
報告書区分
総括
研究課題名
医療事故防止対策の検討-看護業務に関連する事故の実態調査から医療事故防止対策を検討する-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
嶋森 好子((社)日本看護協会)
研究分担者(所属機関)
  • 山内隆久(北九州大学)
  • 酒井一博((財)労働科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、多発する医療事故を防止するための適切な防止策を明らかにすることである。そのために、1)看護護業務上のマイクロ・エラーの実態調査、2)看護業務に関連する事故の要因分析と分析モデルの開発、の2つの課題について調査研究を行った。
研究方法
1)あらかじめ協力依頼した7病院において、注射・与薬業務のエラーを対象に、①調査のためのワーク・シートとチェックリストを開発、②マイクロ・エラーの発生状況の把握、③インシデント事例のインタビューと勤務実態調査からマイクロ・エラーの発生要因を検討した。
2)あらかじめ説明をして協力を得た6病院で生じた事故事例について、①主任研究者、分担研究者、研究協力者による調査チームを創り病院訪問し事故事例についてインタビューと観察を行った。②協力病院のうちの2病院では、「調査チームによる調査」によって見出された問題を中心に、病院スタッフが研究協力者として自病院の事故や事故後の対応についてケーススタディを行った。また、これらを検討するための資料として、以下の2つの課題についての検討を行なった。
3)看護職の睡眠障害と医療事故との関連について疫学調査、4).看護業務に関連して多く見られる事故の防止対策に関連する、国内外の文献の検討。
結果と考察
1)マイクロ・エラーはほぼ一定(看護職員1人/勤務日あたりと患者1人/日あたり、0.022、0.0071)の率で発生していた。同期間に提出されたインシデント・レポートはマイクロ・エラーの1/10以下で、病院及び病棟による差が大きかった。この理由としてインシデントに関する個々の看護婦の認識の違いのためだと考えられる。
2)マイクロ・エラーの発生と看護婦の多忙感は一致していた。引継ぎ前後に多く引き継ぐ側にエラーが多い。いずれも看護婦が勤務時間内に行なうべき業務量が多すぎる事を物語っている。勤務時間内に終わらない業務を次が引き継ぐ際、情報が不十分なまま、自分で判断しないで業務を進めることからエラーが起きている。改めて、看護業務を準備から後片付けまでの一貫した業務として捉え、可能な限り、1人の看護婦が責任を持って実施できる体制を整える事、途中で引き継ぐ場合は、それがエラーの要因となる可能性が有る事を意識して、確実な情報を得た上で、責任を持って引き受けるよう業務の進めかたを改める必要がある。
3.看護婦は医師、薬剤師など他職種へ情報の伝達や中継などに時間を割かれている。特に与薬業務では、医師・薬剤師のエラーチェックに多くの時間が割かれて、患者への与薬の実施段階での確認やチェックがされずエラーを生じている。看護婦が最終段階で自分の業務を確認しながら実施できる体制になれば、エラーの発生を防ぐ可能性があり、このような体制を至急整える必要がある。
4.新人看護婦はサポートがないまま、病棟業務に入っている。そのため、新人看護婦、指導担当看護婦、その他の看護婦いずれにも負担と混乱を与え、エラーの原因になっている。特に急性期病院においては、一定期間サポートを受けながら病棟業務に慣れるための研修が必要である。
5.ダブルチェックや注意喚起の張り紙など、エラー防止のために行われていることの、有効性に疑問が感じられた。各自が確実にチェックするシステムや機器の導入が必要と考える。
6.医療従事者間の良好なコミュニケーションによってエラーが発見され、また、患者が自分の病気や治療について理解していることで、エラーの発見や防止に役立っている。医療者間で自由に不安や疑問を言える関係と組織文化を創ること、患者への診療情報の提供を積極的に推進する必要がある。
7.実際に生じた事故の調査には、事故を時系列に沿って全て拾い上げる「イベントレビュー」による方法が有用である。イベントレビューの結果をもとに、事故当事者の心理過程を心理学的に分析する視点として、「行動モニターモデル」が有用であった。これによると、看護婦が複数の課題を同時にこなそうとして、「行動モニター」が十分機能せず、切迫状況状態でエラーが生じていた。1つの行為を、その結果まできちんとモニターしてから次の作業に移る様な看護業務の進め方ができるよう、業務量の調整が必要である。
8.総合的事故分析の必要性
事故再発防止のためには、時間、空間的に、調査対象を広げて、総合的分析することが不可欠である。また、事故を適切に調査し総合的に分析し再発防止策を立てるには、一病院内の人材と技術では困難であり、患者・家族と当事者となったスタッフおよび、病院の管理者を支援するシステムが必要であることが明らかになった。また、各病院の管理者へのインタビューから、インシデント報告の収集は可能だが、その分析に困難を感じている病院が多い。したがって、日常的支援と重大事故発生時の支援が可能な第三者機関「患者安全センター」が、地区・ブロック別に必要であると考えられる。
結論
1)看護業務上マイクロ・エラーは一定量発生している。
2)マイクロ・エラーは、引継ぎ時間帯の前後に多く発生し、看護婦の多忙感と一致している。
3)効果的な防止策につながる事故分析には、医療者と心理学者等でチームを組み、時間的・空間的にできるだけ広い範囲のイベントレビューによる情報収集が必要である。
4)看護業務に関わる事故を“行動モニターモデル"によって心理学的に分析した所、看護婦が多重課題のため、行動モニターが十分機能せずエラーを発生している事が明らかになった。
5)看護業務に関わる事故は、多重課題を切迫状態で行っている事と他の職種や同僚看護婦の業務を安易に引き受ける事から起きている。看護業務規準で示す“医師の指示の論理的根拠と倫理性、患者にとっての適切な手順、患者の反応の観察と対応について、看護独自の判断をする"ことができる業務の配分と他職種との業務分担、及び看護婦自身の業務の進め方について検討が必要である。
6)病院には事故発生時の対応システムがなく、人材も不十分なため、事故要因の発見・改善の視点をシステムの改善へと広げて事故の総合的分析を行なうことが困難である。また、事故故当事者である患者や医療スタッフおよび病院へのサポートが必要であることから、第三者機関により事故要因の分析と患者や医療機関へのサポートが行なわれる必要があることが示唆された。

公開日・更新日

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