地理情報システムを用いた地域人口動態の規定要因に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000031A
報告書区分
総括
研究課題名
地理情報システムを用いた地域人口動態の規定要因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小口 高(東京大学空間情報科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 西岡八郎(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 江崎雄治(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は地理情報システム(Geographic Information Systems: GIS)を用いて、わが国における人口動態とその変動の規定要因を解明することにある。研究事業初年度である2000年度においては、この研究目的に照らし、以下の4点の個別課題を設定した。
(1)内外におけるGISを用いた人口分析に関する既存研究をサーベイし、論点の整理と課題の導出を行う。
(2)緯度経度系による人口データをメートル単位の座標系を持つものに変換するための手法の開発を行う。
(3)上記(2)によって変換された1km×1kmの修正メッシュデータを用いて、土地高度、傾斜などの自然的土地条件と人口分布との関連性について検討する。
(4)都市圏程度の地域的範囲において、特に少子化、高齢化などの現象に注目しながら、人口動態の地域差とそれをもたらす諸要因について考察する。
研究方法
年度前半においては、既存研究のレビューのための文献収集、整理作業を行い、逐次各文献の読み合わせを行い、本研究における課題導出のための議論を行った。また、その研究課題への取り組みに際して適当と思われる研究対象地域について、いくつかの候補を挙げた上で比較検討を行った。
年度後半においては上記課題に関する具体的な分析作業を行った。メッシュデータをGISソフトウェア上で利用するにあたっては、必要となる集計項目、分析対象範囲に即してデータを整理、再編成する必要があるため、最初にこの作業を行った。そして上記(3)の課題においては、(2)で得られた修正メッシュデータが必要なため、おおむね(2)→(3)という流れで分析作業を連続的に行った。一方(4)においては、緯度経度座標系におけるデータの利用が可能なため、上記(2)~(3)と平行して作業を行った。
結果と考察
(1)GISを用いた人口分析に関する既存研究群のサーベイにより、特に海外においては衛星写真データを用いたリモートセンシング技術を応用し、土地利用と人口分布との関連性を考察するなどの研究が多く見られる一方で、本研究のような3次メッシュスケールのデータを取り扱った研究は比較的少ないことがわかった。
(2)緯度経度に基づく地域メッシュ統計は場所によって面積に差が生じるため、原データの補間によって1km×1kmの修正メッシュデータを作成した。三角法、Kriging法等による補間作業を行い、それぞれパラメータを変化させることにより、原データとの整合性に関して比較検討を行った。
(3)(2)の修正データを用い、関東甲信における土地高度、傾斜と人口分布との関連性について検討したところ、人口密度は基本的に高度・傾斜と負の相関を持ち、過去25年間の人口変化もその傾向を助長しているが、これらとは異なった特徴がみられる場合もあることが判明した。その理由として、大河川沿いにおける低湿地の存在や、近年の丘陵地帯における大規模開発の影響などが見い出された。
(4)東京大都市圏、大阪大都市圏の範囲内における各メッシュの子ども・婦人比を計算し、各年次の分布状況を比較したところ、少子化の進行が都心地域から郊外に向かって波及していった様子が確認された。また東京大都市圏においてはその波及は非等方向的であり、西郊方向への波及が相対的に早い様子が観察された。
結論
GISを用いた人口分析、とりわけメッシュデータを用いて地域人口動態の規定要因を探る研究は今後大いに発展が期待される分野であり、本研究の初年度における分析作業においても多くの知見を得ることができた。
緯度経度系のメッシュデータを1km×1kmのものに補正する手法がおおむね確立され、日本全国のデータ(または同種の海外のデータ)にわたってこの手法が応用されうることが示された。またこのようなデータを用いて高度、傾斜などの自然的土地条件と人口分布との関連性を検証したところ、居住に際しての自然的制約が縮小したと思われる現在においてもなお、自然的土地条件が一定の影響を与えていることが確かめられた。
一方、大都市圏を範囲とした人口動態の分析において、少子化などの先進地域の存在が認められ、その進行が空間的に波及している様子がうかがえた。このようなメカニズムの存在が確かであれば、先進地域の現在の状況が、少子化などに関して他の地域の今後を占う上で注目すべきものとなることから、今後は分析対象範囲を拡大して、このような現象の安定性について検証作業を行うこととする。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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