介護関連分野における雇用・能力開発指針の策定に係わる研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000029A
報告書区分
総括
研究課題名
介護関連分野における雇用・能力開発指針の策定に係わる研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小笠原 浩一(埼玉大学経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤博樹(東京大学社会科学研究所)
  • 林大樹(一橋大学大学院社会学研究科)
  • 大木栄一(日本労働研究機構研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究は、介護関連分野の職種について、職務分析・職務評価にもとづき職務遂行能力の段階区分を行い仕事と能力との対応関係をモデルに示すとともに、仕事の安定性確保および介護の仕事の高度化という視点から、必要とされる雇用管理、処遇・能力開発の仕組みを提案し、これを行政指針に体系化する方策について提言することを目的として実施されている。平成12年度は、(1)この分野における先行研究の精査・検討、および(2)職務の種類、課業の内容、課業を構成する要素作業とその難易度に関する事例調査研究、を実施した。
研究方法
1.先行研究の検討
先行研究の検討においては、介護関連職種について実施されてきた実態調査研究に的を絞り、とくに「雇用管理」および「職務・労働」の実態分析を目的としたものを中心に取り上げ、まず、「職務分析・職務範囲」、「報酬」、「その他、労働実態」の3分野に整理区分した。その上で、各研究の理論的・政策的な関心の所在と、「職務」の扱われ方ないし「職務」考察の方法論とに絞って分析を進めた。
検討対象となった先行研究のうち、本報告書の対象としたものの一覧は、〔表1〕の通りである。なお、取り上げた研究は、すべて一定の政策的関心ないし制度設計への関心をもって実施されたものに限定している。
2.事例調査
事例調査は、先行研究の分析から析出された論点の実務上の重要性を確認することを含め、次のような方法で実施された。
(1)直接処遇職務への注目
本年度の研究では、介護関連職務のうち、管理的なものや間接業務的なものは除き、純粋にサービス提供に携わる直接処遇職務のみを対象とすることとした。そうすることで、課題をより厳密に把握し、仮説モデルを想定し易くするよう配慮した。直接処遇職務の範囲は、いわゆる「身体介護」と「家事援助」とした。
(2)「課業」および「要素作業」に着目
1個の目的性に完結する一連の行為の集合を「課業」と見做し、「課業」を構成する一連の行為の部分を「要素作業」とした。ただし、先行研究では、「要素作業」を難易度測定不可能な最小行為単位と定義するものが存在したが、本研究では、そのような前提を置くことなく、行為の外形性のみから「要素作業」を判断した。
(3)「課業」の難易度を決定する要素 
「課業」の難易度は、「要素作業」を遂行するために必要となる「要素技能」のレベルによってのみ決まるのではなく、行為の働きかけの対象となる利用者の身体的・精神的状況、行為を遂行する際の作業環境など、決定要素により決定される。そこで、決定要素をできる限り一般的・抽象的なレベルに範疇化し、析出する方法を用いた。
行為環境のうち重要な要素として、行為が単独で行われるか、ペアリングやチームワークで集団的に行われるかといった要素が存在するが、本年度の研究では、こうした作業組織の問題やこれに関る経営管理方針のあり方といった社会的要因は捨象した。
(4)経験知の析出
「課業」難易度の判定には、職務分析手法に応じて、①専門員による作業観察を通じた客観的な序列付けを行う方法、②課業の直接担当者が調査票に記入し、そこから得られた直接担当者の主観的判断を引き出す方法、③課業の直接担当者へのインタビューに基づき観察者が調査票に記入する方法、④課業担当者に職務を割り振りする担当者(通常は上司)へのインタビューを通じて上司が判断する難易度を評価する方法、⑤評価者が実際に作業を試行し判断する方法が存在する。また、これらの職務分析結果を踏まえて職務評価を行う方法としては、序列法、分類法、点数法、要素比較法(パーセント法およびプロフィール法)、フリーハンド法が代表的には用いられる。ただし、職務評価法は職務間の相対評価であって、固定的難易度評価とは異なることは言うまでもない。
本年度の研究では、職務分析に重点を置き、その手法としては、④の方法、すなわち、直接担当者に職務を割り振りする担当者への聞き取り調査の方法を用いた。具体的には、介護施設の場合においては、勤務表作成担当者である副施設長ないし主任クラス、ホームヘルプ・サービスにおいては、ケアマネージャーを対象とした聞き取りを実施した。その意味では、これら聞き取り対象者の経験知をもって判断基準とした。
結果と考察
(1)先行研究の到達点については、職務研究に限っても相当数の研究が蓄積されてきており、関心は、サービス実施手順や事業運営の標準化・合理化と職務ストレス分析による労働合理化という2点にほぼ集約される。課業分析が実施されているケースでも、関心はサービス実施手順の平準化に置かれている。本研究のように、課業要素の組み合わせと職務遂行能力の段階差によって職務遂行の効率性と事業経営の合理性に幅が生じることを実証する研究は未知のものであることが確認された。
(2)事例調査においては、身体介護には、基本的な課業項目とされるものの中に難易度序列が存在すること、利用者本人のADL状態が全介助か、一部介助か、見守り程度かの3段階に応じて、同じ「排泄介助」であっても必要とされる能力の中身に相当な幅が存在すること、また、痴呆・精神障害等の場合に必要となる能力の中身は別類型で考えるべきこと、などが明らかになった。さらに、職務遂行スキルにも、報酬に反映されるべき「テクニカル・スキル」と、報酬に反映させることは技術的に困難であるが処遇上は評価されるべきコミュニケーション技術等の「マネジメント・スキル」との類型区分が必要であり、各スキルの段階差を属人的能力として評価するマトリクスが必要であることが明らかになった。
結論
平成12年度の研究を通じて明らかにされたことは、ある意味では極めてシンプルであった。すなわち、個々の課業には、テクニカル・スキルに関連する範囲に限って観ても、利用者の心身状態に即して段階区分可能な明白な難易度が存在し、誰が行っても同じ質の業務遂行が可能という仮定は成り立たないということ、課業間にも課業それ自体の内包する難易度順位が設定できること、従って、難易度に対応して、課業遂行に求められる職務遂行能力のレベル差という考え方が当然にも成り立ちうること、であった。
次年度の研究においては、この課業の難易度の段階区分をより精密にモデル化することと、能力段階を測定するために必要なスキル・マトリクスを作成し、どのような難易度に対してはどのような能力が必要であるかの対応関係を解明することが重要になっている。

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