介護サービス供給システムの再編成の成果に関する評価研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000028A
報告書区分
総括
研究課題名
介護サービス供給システムの再編成の成果に関する評価研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
平岡 公一(お茶の水女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 武川正吾(東京大学)
  • 武智秀之(中央大学)
  • 鎮目真人(北星学園大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、介護保険制度の実施に伴う介護サービス供給システムの再編成がもたらす成果と問題点を、英米で実施されているプログラム評価(program evaluation)の手法の適用を含む学際的・多面的な研究方法を用いて実証的に解明することを目的として実施するものである。本研究では、この目的を達成するために、三カ年の間に、次の三つの個別研究を実施することとしている。まず第一に、自治体における介護保険の実施体制や介護サービスの利用状況等に関するデータを収集するために、市区町村全数を対象に質問紙調査を実施し、そのデータをマクロ統計データとリンクさせて分析する。第二に、自治体における介護保険の実施体制、介護サービス市場の状況、ケアマネジメントやサービスの調整・連携の実施状況等について、自治体の個別の状況に即した分析・評価を行うために、十団体程度の基礎自治体の事例分析を行い、そのうち四ないし五団体については、公私の機関・団体の訪問調査、専門職・サービス利用者への質的方法による調査、サービス利用データの分析などを併用して、より集中的な分析を行う。第三に、介護サービスの利用による効果を、費用との関連で分析するために、要介護高齢者を対象として、パネル調査法により二回にわたる質問紙調査を実施し、そのデータを多変量解析の手法を用いて分析する。本研究はまた、このような一連の調査研究の実施を通して、介護サービスに関わる政策評価の手法の開発と改善を図ることも目指している。
研究方法
初年度である平成12年度は、次の方法により研究を行った。その第一は、 既存のマクロ統計データの分析である。この分析を行うために、まず、中央省庁および各種機関が公表しているマクロ統計データを収集し、データセットを作成した。このデータセットを用いて、介護保険実施前の時期におけるサービス水準の変異パターンと、それを規定する人口学的・社会経済的要因に関する分析を行った。この分析と並行して、「介護保険事業状況報告」に含まれる要介護高齢者のサービス利用・給付状況に関するデータを、各市町村から収集し、分析する作業も行った。第二に、市区町村における介護保険の実施体制、介護サービスの利用状況、およびケアマネジメントの実施状況等についての情報を得るために、全国の市町村および東京都の特別区全数(3252団体)の介護保険課(係、担当)を調査対象として、郵送法による質問紙調査を実施し、そのデータの基礎集計を行った。第三は、自治体事例調査であり、東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府・兵庫県・京都府の各都府県から人口五万から三十万程度の十市・区を選定し、介護保険の実施体制、介護サービス市場の状況、ケアマネジメントやサービスの調整・連携の実施状況等について、行政機関や社会福祉協議会のヒアリング調査と各種資料の収集・分析を行った。調査の実施にあたっては、研究班での討議に基づき、共通の質問事項、収集資料を定め、調査実施要領に基づいて系統的に調査が実施されるよう配慮した。また、以上の三つの方法による研究を補完するものとして、介護サービスの評価に関する先行研究の検討、イギリス・デンマークでの研究交流と資料収集、政策科学推進研究推進事業による韓国の研究者との研究交流を行った。
結果と考察
第一の研究である既存のマクロ統計データの分析においては、次のような知見が得られた。すなわち、介護保険実施前の在宅・施設サービスの水準によって市区町村の類型化を行ったところ、在宅福祉サービスが特に充実した自治体群、施設サービスが特に充実した自治体群、両者とも特に充実していない
自治体群の三群を抽出することができた。人口学的要因および社会経済的要因との関連を分析したところ、高齢者単身世帯数、病院一般病床数、老人保健施設入所定員等の要因が、自治体類型と関連することが明らかになった。第二の研究である自治体質問紙調査の有効回収率は、40.1%であった。本格的な分析は平成13年度において実施するが、暫定的な基礎集計結果からは、要介護認定、計画の進行管理、ケアマネジメントの改善、苦情解決とサービスの質の確保等に関する自治体の積極的な取り組みの状況が明らかになった。低所得者対策やケアマネジャーの負担の過剰等の問題点も指摘されているが、サービス供給体制の急激な変化による混乱は少なく、比較的安定的にシステム再編が進んでいるとみることができる。第三の研究に関しては、四自治体についての中間報告を、介護保険以前のサービス供給体制、介護保険実施体制、および介護保険実施にともなうサービス供給量・利用割合の変化という点を中心にまとめた。どの自治体においても、在宅サービスの供給量が順調に増加し、サービス供給主体のいっそうの多元化が進展し、ケアマネジメントの実施体制が次第に安定化する傾向がみられた。また、全般に住民の自主的な援助活動が活発化する傾向もみられた。ただし、要介護度やサービスの種類別にみたサービスの利用状況や、ケアマネジメントやサービスの調整・連携の具体的な実施状況には自治体による違いがみられ、介護保険実施前のサービス提供体制との関連が強いことが明らかになった。
結論
以上の研究結果の報告は中間報告的な性格のものであり、研究全体としての結論をここで示すことはできないが、これまでの研究結果からみる限り、一部で危惧されていたような疑似市場的なシステムへの転換に伴う大きな混乱は見られず、介護サービス供給システムの再編は比較的順調に進展しているといえるようである。総括研究報告書においては、今年度の研究結果に基づいて、サービス供給の拡大とケア・バランス、福祉ミックスの変化、サービス・アクセスに関する変化、地方自治体の役割・機能の変化、ケアマネジメントの実施体制、サービスの調整・連携、疑似市場の作用といった諸論点について、分析の視点と枠組みの整理を行った。その結果を踏まえて、平成13年度においては、平成12年度の研究を継続するとともに、パネル調査法を用いた在宅サービスの評価調査を開始する。

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