福祉NPOと厚生行政との共働可能性に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000026A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉NPOと厚生行政との共働可能性に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
安立 清史(九州大学大学院人間環境学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 三村将(昭和大学医学部精神保健学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
福祉NPO(民間非営利組織)と厚生行政との共働のあり方を調査研究することが本研究の目的である。この目的のためには、まず、福祉NPOに関する現状の把握、福祉NPOの機能的特徴と厚生行政との協働との先行研究のサーベイ、福祉NPOの研究方法の開発などをめざした。2年計画の初年度にあたる平成12年度は、福祉NPOに関する先進事例の調査と、NPOと行政との協働の先進事例調査、NPO支援の実態と機能に関する調査、および海外のNPO研究の現状や調査方法論の研究を、研究の4つの柱としている。具体的には、①地域特性(大都市、中都市、小都市や農山村地域)ごとに、行政とNPOとの共働が開始されている先進事例を調査し、厚生行政とNPOとの関係のあり方を研究すること。②活動内容ごと(介護保険枠内、枠外、生活支援、家事援助、地域福祉権利擁護事業、その他など)に先進事例を調査し、行政とNPOとの共働のあり方を研究すること。③行政によるNPO支援タイプ(NPOセンターの設置方式、補助金や委託など)ごとに、先進事例を調査し、厚生行政とNPOとの共働を推進するあり方を研究すること。④海外(とくに米国)の行政とNPOとの関係を調査し、厚生行政とNPOとの新しい共働のあり方を研究すること。等を研究目的とした。
研究方法
福祉NPO(福祉サービスを提供する民間非営利組織)に関しては、その種類や範囲、活動実態や現状の問題、課題などに関して、いずれも社会科学的な実証的データが少ない。また、調査や研究方法論的にも、まだ国内には十分に確立したものがない。しかし、世界的に見れば、米国ジョンズ・ホプキンス大学における非営利セクターに関する国際比較研究をはじめとして、米国の主要な大学や研究機関がこぞって、民間非営利組織の研究や、非営利セクターの世界比較研究、NPOの組織としての効率性や提供するサービスの質的評価、行政とNPOとの連携や協働、NPOや非営利セクターの社会システムへの影響力の分析、など多彩な調査研究を開始している。そこで、本調査においても、まず、米国におけるNPO研究の方法論的最前線をサーベイすることから開始した。国際NPO学会(ISTR)大会等では、米国のみならず欧州のNPO研究の動向を調査した。また米国NPO学会(ARNOVA)などでも研究動向を調べ、また米国の多くの専門家にも問い合わせた結果、米国のNPO研究の最前線にあるジョンズ・ホプキンス大学で進められているNPOのImpact Analysis(インパクトアナリシス:影響力分析)の方法論が優れているうえ、本研究の目指している方向への示唆や実証的な可能性、生産性が高いことが分かり、このインパクトアナリシスの方法を、本年度の先進事例調査に応用した。日本各地の先進事例(東京、千葉、大阪、神戸、福岡などの福祉NPO)を調査研究したが、先進事例を把握する際には、全国レベルの複数のNPOサポートセンターおよび地方レベルでの複数NPOサポートセンターと協議を綿密に行ってうえで先進事例を選定し、調査を進めた。ただしImpact Analysisは、福祉NPOの全国的なデータが整備されたうえで全体的な布置連関のもとでその「影響」を客観的に測定する必要があり、本格的な適用は次年度以降の課題でもある。
(倫理面への配慮)
福祉NPOの研究方法に関しては倫理面に抵触する部分はない。福祉NPOの活動実態の調査に関しては、とくにサービス提供場面での調査等に関しては、細心の注意を払って調査を実施しており、問題はない。
結果と考察
Impact Analysisに関しては、ジョンズ・ホプキンス大学の方法論が福祉NPOへの応用に適していることが確認されたが、実証方法においては、大規模な研究チームが長期間に渡って行う調査方法論であり、また、Impact Analysisが多国間比較を目的としているため、部分的には方法論を修正しながら応用すべきところがあることが明らかになった。厚生行政との協働のあり方や示唆に関してもImpact Analysisでカバーしきれない部分があり、次年度の課題である。
結論
全国各地の先進事例を調査してみると、さまざまな次元、さまざまなレベルで、行政とNPOとの協働が始まっていることが分かる。ただし、その実態は、まだ十分には可視化されていない。その理由は、多くのNPOが、設立されたり活動を開始して日が浅く、組織規模が小さかったり、活動実態が知られていないことが多いためである。しかし、現状で量的な面からNPOを過小評価することは誤りである。それは、現在、世界中で民間非営利組織や非営利セクターの研究が活発なことからも分かるとおり、先進諸国が高齢社会化していく構造転換の過程で、ソーシャルサービスの範囲や提供方法、サービスの内容や質などを再構成したり再検討していく必要に迫られており、それらを進めるうえで、一種の「社会実験 social experiments」の役割を、NPOが果たしている。たとえば「利用者本位のサービス」をどう形成するのかについて、NPOの社会実験は多くの示唆を与えている。また、社会福祉関係の法人制度の改革を考える場合にも、NPOは多くの示唆を与える。その他、利用者のエンパワメントにおけるNPOの役割も大きいし、分権化する中での地域福祉の課題発見の機能も大きい。また、介護保険制度におけるNPOの役割も、重要な調査課題である。われわれの調査によれば、介護保険制度のもとで急激に事業高が拡大するNPOがたくさん現れている。こうしたNPOの組織運営や、NPOとしての特性や使命をどのように維持・発展させるのか、などについて、量的な調査だけでなく、質的な事例調査を含めて研究課題を深めていく必要がある。

公開日・更新日

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