福祉ボランティア活動への参加動向予測と支援基盤整備に関する研究

文献情報

文献番号
200000020A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉ボランティア活動への参加動向予測と支援基盤整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大江 守之(慶應義塾大学総合政策学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本において急速に進行している人口の高齢化は、高齢者の全人口に占める割合が増加したことと同時に、高齢者層自体のボリュームがこれまでにないものであることに特徴がある。このように高齢者の規模が大きく、同時に単独世帯の発生率が上昇することによって、今後急速に高齢者のみ世帯が増加していくことになろう。このことは、介護の社会化が一層重要になることを意味している。
こうした高齢社会の進展の中で、ボランティア活動を基礎とした地域コミュニティによる高齢者への福祉サービス提供等が期待されている。これは、行政施策や社会保障では手の届かないところで高齢者の生活を支援できる点、活動に参加すること自体が高齢者の生き甲斐になるという点など、サービスの利用者と提供者両方に高齢者が関わるというメリットがあるからである。住み慣れた地域で安心して生き生きと暮らせる高齢社会を創造していくためには、現在行われている地域住民等のボランティア団体による草の根的活動を支援し、より主体的で活発に活動できる社会環境を整備していくことが重要である。
団塊の世代を中心とする次期高齢者世代は、これまでの高齢者と比較して、学歴が高く、専門的職業経験者が多く、都市に住み、戦前の家族規範から比較的自由であるなど、様々な属性が異なるとともに、今後の経済社会状況の変化もあいまって、新たな高齢者のライフスタイルをつくりだしていくと予想される。本研究は、こうした新たな高齢者のライフスタイルの展開を見据えながら、ボランティア活動への参加を規定する要因を、ボランティア団体とボランティア活動への参加者の両者から探ることにより、その支援のために必要な基盤整備のあり方を明らかにすることを目的として行ったものである。
研究方法
ボランティア団体へのインタビュー調査とボランティア活動参加者へのアンケート調査によった。まず、ボランティア団体の活動実態と課題を探るため、鎌倉市の行政(高齢福祉課、高齢者活動課、教育委員会施設課)、社会福祉法人3団体、ホームヘルプサービスあるいは給食サービスを中心に活動しているボランティア団体17団体(回答に応じたのは10団体)へのヒアリング調査を実施した。鎌倉市は、高齢化率が20%を超え(1995年)、高齢単独世帯・高齢夫婦世帯も相対的に多く、またボランティア活動への参加者の属性が次期高齢者世代と共通しており、本研究のテーマを扱うには適した地域である。次に、鎌倉市において、ホームヘルプサービスおよび給食サービスを展開している延べ17団体(うちホームヘルプサービス活動のみ=5団体、給食サービス活動のみ=6団体、両方の活動をしている=3団体、実質14団体)に所属し、現在活動している人々を対象に、活動参加に対してどのような意向をもっているのか、将来はどのようにしていきたいと考えているのか等について明らかにすることを目的に、質問紙調査を2001年1~2月に実施した。
結果と考察
この分析を通して、ホームヘルプサービスと給食サービスとでは、活動の実態や参加者の意識において異なる側面が多く、今後の社会基盤整備の方向を検討するに際しても、全く同列に論ずることはできない。
ホームヘルプサービスは、参加者の活動開始年次の傾向からもわかるように、介護保険制度の創設と関連が深い。しかし、いくつかの団体の実態からも明らかなように、制度内のみで活動しているボランティアは皆無であり、制度内・制度外の両方で活動しているケースが多い。これは、制度内の場合、例えば家事援助が要介護・要支援者に関わる範囲に限定されるが、制度外の活動も可能であれば、現場での制度の範囲を超えたサービスのニーズに対応しやすいといった理由があげられよう。また、参加者の時間的な自由度も確保でき、ボランティア活動ならではの、サービス提供者・利用者双方のメリットがあるところに、民間事業者とは異なる存立基盤があるのだと思われる。
ただし、その活動は制度による報酬の影響を明らかに受けており、ホームヘルプサービスの参加者は、活動の対価を受けることに抵抗がない割合が高い。今後は、民間事業者との棲み分けを明確にしながらも、利用者にとっての選択肢を広げる役割を担っていくことが期待される。この場合、ボランティア団体であっても事業体としての体勢を整えていくことが求められよう。そのためにはオフィスを持つことは必須である。
給食サービスは当然のことながら調理施設を必要とし、そこが活動の拠点となる。また、拠点のキャパシティが活動量を規定する側面があり、新たな活動拠点ができると、そこを中心に参加者が集まり、利用者も増えるという構造がある。その意味で、給食サービスは拠点依存型の活動と言え、今後は地域限定型の活動により比重が移っていくことになろう。
給食サービスは、主婦の技能を最も発揮できる活動の一つであり、参加者同士で楽しくコミュニケーションを持ちながら、人に喜んでもらえる仕事ができるという点で、参加しやすい活動である。ボランティア活動への参加の契機をみると、人に勧められたという理由が57%をも占める。勧めてくれた人の半数はパーソナルなつながり、もう半分はコミュニティのつながりであるが、給食サービスはコミュニティベースである傾向がより強いと考えられる。また、参加者の意識をみても「地域社会をよくするために住民の協力が必要」との認識を持つ人が多く、「基本的に見返りを期待せず」、「自らを成長させる活動」との意識が強い。報酬に関しても「交通費程度なら受け取ってもよい」とする人の割合が高く、労働の対価を求める意識は低い。今後も給食サービスの担い手は、地域の中で人の役にたちながら豊かな人間関係をつくっていきたいと考える人々が中心となろう。給食サービスの発展方向の一つは、ミニデイサービスによる会食サービスを合わせて行うことであり、このためには会食のための空間が必要となる。
結論
福祉ボランティアの活動は、介護保険制度等の制度の枠内だけでは、十分に対応ができないサービスに対して、その利用者・提供者がともに喜びを分かち合える活動として、今後も発展していくことが期待される。そうした活動を支援する施設整備の方向は以下のように考えられる。
それは、福祉ボランティアの活動拠点となる「コミュニティ・コア」を整備することである。そこに含まれる施設は、調理室、会食室、ボランティア団体のオフィス(ここではこれをコミュニティ・オフィスと呼ぼう)、会議室、研修室などである。会食室、会議室、研修室などは多目的室として用意すれば、様々な目的に利用できる。また、食事をしたり、お茶を飲んだり、野菜などの即売会をしたりといった多用途に使えるテラス状の外部空間も必要であろう。今後、車で移動する高齢者が増えることを考えると十分な駐車スペースも必要である。
こうした提案はこれまでも存在したが、ここでの提案の特徴の一つは、コミュニティ・オフィスを置くことである。ボランティア団体の多くは独自のオフィスを持つことができないでいるが、コンピュータ、コピー、ファックス、固定電話などを設置し、対面受付や打ち合わせスペースを持ったオフィスを有することは、ボランティア団体が社会的責任を負った事業体として活動するためには不可欠である。こうした機器等を一つ一つの団体で持つことはコストもかかるため、いくつかの団体が共同して利用することが望ましく、コミュニティ・コア内のコミュニティ・オフィスならそれが可能になる。また、コミュニティ・コアの運営自体もボランティア団体で行うこととし、日中の管理上の問題にも対応するとよい。こうした施設を土地取得からはじめるのは、現在の地方公共団体の財政状況の中では困難であり、既に先進的な自治体では開始されているように、小学校等を利用することが有力な選択肢となる。ただし、これまでの空き教室の転用といった対応ではなく、相応の予算措置を行い、大規模なリフォームを行って、新たなコミュニティのシンボルとなるようなコミュニティ・コアを整備することが求められる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-