死因統計分類変更を考慮した生活習慣病死亡の将来推計(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000019A
報告書区分
総括
研究課題名
死因統計分類変更を考慮した生活習慣病死亡の将来推計(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
谷原 真一(自治医科大学保健科学講座公衆衛生学部門)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳血管疾患、心疾患、悪性新生物といった生活習慣病などの生活習慣病による死亡率を、死因統計分類の変更による影響を検討したうえで将来予測を行うこと。
研究方法
第9回修正国際疾病分類(以後ICD9)が死亡原因の記載に用いられるようになった昭和54年(1979年)以後の人口動態統計により脳血管疾患、心疾患、悪性新生物の昭和60年(1985年)基準人口を用いた直接法による年齢調整死亡率を算出する。心疾患については、心不全を除外した場合の数値も検討する。昭和54年~平成8年(1979年~96年)の期間における年次推移から、平成9年~平成22年(1997年~2010年)における将来推計を行う。さらに、胃の悪性新生物については1979年から1994年までの毎年の性別、年齢階級別(20歳以上を5歳ごとにし、80歳以上を一括)死亡率から推計された1995年以降の予測値を求め、ICD変更がなかった場合の推計値とする。ICD変更の影響については、1995年の死亡票について同一の調査票にICD9とICD10の両方を用いた死因分類を行った結果を比較した結果の比を調整係数とし、ICD変更がなかった場合の推計値に乗じた値を死亡率推計値とする。さらに厚生省人口問題研究所が公表している将来推計人口(中位推計)に各年齢階級別死亡率を乗じて死亡者数を求めたものを性・年齢階級別に再集計し、死亡者総数についても将来予測を実施する。この予測値を1997、1998年の実際の死亡数と比較して、本研究で用いた将来予測の妥当性の検証も実施する。なお、本研究には人口動態統計によるわが国全体の統計を用いた研究であり、個人情報を利用しないため、プライバシーの保護をはじめとする倫理面での問題は存在しない。
結果と考察
国際疾病分類の改訂の影響を考慮しても全悪性新生物、心疾患、脳血管疾患による死亡は減少している傾向が認められた。また、胃および子宮の悪性新生物による死亡は減少しているが、大腸、肺、乳房の悪性新生物による死亡は増加することが予測された。
1997年以降の胃がん死亡数、粗死亡率、年齢調整死亡率の将来推計の結果、男では死亡数には若干の変動はあっても、おおむね31,000人前後で推移することが推計された。粗死亡率については、人口10万人対50をわずかに下回る値で推移することが推計された。年齢調整死亡率は1997年の35.0から単調に減少し、2010年には23.3となることが推計された。女では死亡数は単調に減少し、1997年の17,200人から2010年には15,700人となることが推計された。粗死亡率および年齢調整死亡率も同様に単調に減少し、前者では1997年の人口10万対26.7から2010年には24.1、後者では1997年の人口10万対18.6から2010年には11.2となることが推計された。死亡者数の年齢階級別割合の将来推計を男女別に検討すると、年齢階級が20~59歳の者および60~69歳の者の全死亡数に占める割合は男女とも減少することが推計された。70~79歳の割合は男ではほぼ横這い、女では減少傾向となることが予測された。80歳以上の割合は男女とも増加すると予測された。しかし、その割合は大きく異なり、男では1997年の24%から2010年には38%となるのに対して、女では1997年の38%から2010年には58%となり、2010年には女の胃がん死亡の過半数が80歳以上の者で占められることが推計された。
1995年から1998年までの男の胃がん死亡率予測値と実際に観察された死亡率(以後、実測値)の比較では、男の20~29歳の実測値は予測値の1.1~1.6倍前後であり、予測値との乖離が大きかった。40~44歳および60~64歳の年齢階級では予測値と実測値はほぼ等しい傾向にあった。35~39歳及び55~59歳の階級では実測値が予測値を下回った。80歳以上の年齢階級では実測値は予測値の1.03倍であった。他の年齢階級では実測値は予測値のほぼ1.07倍であった。女では、20~29歳における実際の死亡率及び予測値との比の変動は大きかった。その他の年齢階級では男とほぼ同様であり、実測値は予測値を上回る傾向であった。
心疾患については、平成6年(1994年)及び平成7年(1995年)にはICD変更予定の告知による影響と考えられる死亡率の低下が観察された。平成8年(1996年)にはこの影響は若干弱くなったと考えられる結果であった。心不全を除いた心疾患死亡では、ICD変更の影響が心不全を除かない場合と大きく異なる傾向を示しており、心疾患による死亡の将来予測は、その結果を注意深く実施する解釈する必要がある。
1997年以後の胃の悪性新生物による死亡率は全ての年齢階級で減少傾向を示すことが推計された。今回用いた指数関数モデルの特性上、推計の結果は単調増加もしくは単調減少のいずれかに分かれる。これまでにも年齢調整後の胃がん死亡率および罹患率の減少傾向は予測されており、今後もこの傾向は持続すると考えられる。
実測値と予測値を比較すると性・年齢階級による格差が生じていた。これは20~29歳では死亡数が少数のために誤差が大きくなったためと考えられる。30歳以上の年齢階級では、ほとんどの性・年齢階級で、実測値が予測値を上回る傾向にあった。30歳以上の実測値/予測値の幾何平均の最大値は1.12であり、推定誤差は大きくないと考えられるが、この傾向はICD10適用による疾病の終末期状態の取り扱いの変更や一般的転移部位リストの導入の影響と推察できる。
結論
悪性新生物、心疾患、脳血管疾患の年齢調整死亡率はいずれも低下傾向にあった。しかし、悪性新生物の低下割合は、心疾患、脳血管疾患と比較してごく小さいものであり、部位別に検討した場合には増加傾向が予測されるものも認められた。減少している場合でも減少割合が鈍化している疾病もあり、今後も減少傾向が持続するとは限らないものも認められた。これからの生活習慣病予防対策には、従来の対策をそのまま繰り返すのではなく、対策の効果を早期に評価することが重要である。
1997年から2010年にかけて胃の悪性新生物による年齢階級別死亡率は減少することが推計されたが、死亡者総数は男でほぼ横這い、女では約1,500人の減少にとどまるという結果であった。高齢者における胃がん罹患数の上昇が予測され、年齢階級別死亡率は低下しても、高齢者に対する胃がん対策は重要と考えられる。
1997年以後の胃の悪性新生物による死亡率は全ての年齢階級で減少傾向を示すことが推計された。今回用いた指数関数モデルの特性上、推計の結果は単調増加もしくは単調減少のいずれかに分かれる。これまでにも年齢調整後の胃がん死亡率および罹患率の減少傾向は予測されており、今後もこの傾向は持続すると考えられる。
実測値と予測値を比較すると性・年齢階級による格差が生じていた。これは20~29歳では死亡数が少数のために誤差が大きくなったためと考えられる。30歳以上の年齢階級では、ほとんどの性・年齢階級で、実測値が予測値を上回る傾向にあった。30歳以上の実測値/予測値の幾何平均の最大値は1.12であり、推定誤差は大きくないと考えられるが、この傾向はICD10適用による疾病の終末期状態の取り扱いの変更や一般的転移部位リストの導入の影響と推察できる。

公開日・更新日

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