文献情報
文献番号
200000018A
報告書区分
総括
研究課題名
薬価算定における医薬品の費用対効果の反映方法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
宮澤 健一(医療経済研究機構)
研究分担者(所属機関)
- 片岡佳和(医療経済研究機構)
- 坂巻弘之(医療経済研究機構)
- 佐野 毅(医療経済研究機構)
- 久保田健(医療経済研究機構)
- 長尾 満(医療経済研究機構)
- 広森伸康(医療経済研究機構)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成11年の中医協薬価専門部会において、平成12年度以降、薬価算定における医薬品の費用対効果等の反映方法の研究に着手し、その結論が得られればルールの見直しを図ることが提言されている。しかしながら、現状では諸外国の最近の動向把握や医薬品企業における費用対効果への取り組み状況についても十分な調査がなされていない。このため、本研究では今後の中医協薬価専門部会における検討に必要とされるであろう項目について調査・分析を行い、同部会における検討に資するための基礎的資料として提示することを目的とした。
研究方法
①欧米諸国における医療保障制度・薬価制度把握と医薬品の費用対効果分析の導入状況調査、②製薬企業における費用対効果分析への取り組み状況把握と課題分析、
の2つの調査を実施し、その成果から薬価算定における医薬品の費用対効果の反映方法について考察した。
具体的には、①については、1)諸外国の公表資料、インターネット等により医療保障制度、薬価制度、ガイドライン等を整理。2)諸外国の薬剤経済学研究者、専門家等の来日時に各国の薬剤経済学の導入状況や最近の動向についてインタビューを実施。3)諸外国の関連団体(政府、保険者、製薬業界、学界等)への訪問調査を実施。②については、1)製薬企業の薬剤経済学研究への取り組み状況や組織体制についてのアンケート調査を東京医薬品工業協会との共同で実施。2)新薬の薬価申請の際に添付する薬剤経済学的評価資料に関するアンケート調査を日本製薬工業協会と共同で実施した。
の2つの調査を実施し、その成果から薬価算定における医薬品の費用対効果の反映方法について考察した。
具体的には、①については、1)諸外国の公表資料、インターネット等により医療保障制度、薬価制度、ガイドライン等を整理。2)諸外国の薬剤経済学研究者、専門家等の来日時に各国の薬剤経済学の導入状況や最近の動向についてインタビューを実施。3)諸外国の関連団体(政府、保険者、製薬業界、学界等)への訪問調査を実施。②については、1)製薬企業の薬剤経済学研究への取り組み状況や組織体制についてのアンケート調査を東京医薬品工業協会との共同で実施。2)新薬の薬価申請の際に添付する薬剤経済学的評価資料に関するアンケート調査を日本製薬工業協会と共同で実施した。
結果と考察
①欧米諸国における医療保障制度・薬価制度把握と医薬品の費用対効果分析の導入状況調査について
[イギリス]1999年4月にNICE(National Institute for Clinical Excellence)が設立され、新医療技術及び既存の医療技術の評価を実施している。臨床ガイドラインや経済的評価ガイドラインを作成し、普及させることもNICEの目的の一つである。医療技術の評価結果は、NHS(National Health Service)へガイダンスとして提出しているが、拘束力を持つものではない。[フランス]新薬の価格設定を担うCEM(医薬品経済委員会)において、薬剤経済学研究は企業が提示できる交渉材料の一つとなる。1996年6月にExpert Committee(薬剤経済専門家委員会)が組織され、CEMだけでなく、Transparency Committee(透明化委員会)、企業のプローモーションにもアドバイスを行っている。ただし、製造承認、保険償還、価格設定の決定過程でにおいて企業に対する経済学的評価資料提出の義務付けはない。[ドイツ]1999年4月に「連邦医師・疾病金庫委員会の契約医による供給における医薬品の処方に関するガイドライン」が発表されたが、その後の動きは途絶えたままであり、薬剤経済学研究が保険償還、価格設定における意思決定に影響を及ぼしていない。[オランダ]1999年6月にCVZ(疾病金庫協議会)が薬剤経済学ガイドラインを作成した。薬剤経済学研究が保険償還決定や医薬品償還集におけるカテゴリー分類の判断材料の一つとして加えられることは、政府、保険者、業界の間で合意されているが、経済学的評価資料提出の義務付けについては、業界側が難色を示している。[アメリカ]各マネジドケア組織の有するformularyへ、製薬企業が自社品を掲載させるためのツールとして薬剤経済学研究は不可欠である。また、医療機関における医薬品・治療委員会(P&T Committee)でも薬剤経済学的評価が一般的に行われている。そのため、薬剤経済学研究に取り組む製薬企業の組織整備も進んでおり、この分野の研究が最も進んでいる国の一つである。[カナダ]1991年にオンタリオ州でガイドライン草案が発表され、1994年に連邦政府のガイドラインが公表されている。公的ガイドラインを発表したのは、オーストラリアに次いで2番目である。現在オンタリオ州は独自、他州は連邦の作成したガイドラインを用い、各州毎に作成されるフォーミュラリー収載時に経済学的評価資料の提出を製薬企業に義務付けている。[オーストラリア]1990年に世界初の公的ガイドラインを作成し、1992年より新薬及び効能追加品目について経済学的評価資料の提出を企業に義務付けている。公定価格であり、薬剤経済学研究が価格設定に反映される。
②製薬企業における費用対効果分析への取り組み状況把握と課題分析について
製薬企業に対する2種類のアンケート結果から、現在薬剤経済学研究の専門部署が設置されていると回答のあった企業は77社中12社(約12%)であり、兼任を含めて社内に担当者がいるとの回答は約43%であった。また、1997年4月以降に薬価収載された医薬品のうち、薬価申請の際に薬剤経済学的評価資料を添付したと回答のあったものは、120品目中49品目(約41%)であった。
我が国においては、輸入・製造承認を受けた新薬についてはほとんどの場合、薬価収載され、価格設定と同時に保険収載となっている。しかし、欧米諸国では処方薬の保険適用と価格設定は別のプロセスで実施されることが多く、薬剤経済学的は保険償還決定プロセスで用いられている。それは、薬剤経済学が価格設定のためのツールではなく、政策決定過程の透明化やアカウンタビティの手段との認識があるからである。
また、医療機関においても医薬品使用の効率性の観点から経済性についての関心は高く、アメリカでは医療機関における医薬品・治療委員会(P&T Committee)での薬剤経済学的評価が一般的に行われており、ファーマシューティカル・ケアの一領域として重要視されている。製薬企業もそれらに対応すべく組織整備、手法の確立を進めているが、我が国においては製薬企業の組織整備も十分になされているとは言えない。
[イギリス]1999年4月にNICE(National Institute for Clinical Excellence)が設立され、新医療技術及び既存の医療技術の評価を実施している。臨床ガイドラインや経済的評価ガイドラインを作成し、普及させることもNICEの目的の一つである。医療技術の評価結果は、NHS(National Health Service)へガイダンスとして提出しているが、拘束力を持つものではない。[フランス]新薬の価格設定を担うCEM(医薬品経済委員会)において、薬剤経済学研究は企業が提示できる交渉材料の一つとなる。1996年6月にExpert Committee(薬剤経済専門家委員会)が組織され、CEMだけでなく、Transparency Committee(透明化委員会)、企業のプローモーションにもアドバイスを行っている。ただし、製造承認、保険償還、価格設定の決定過程でにおいて企業に対する経済学的評価資料提出の義務付けはない。[ドイツ]1999年4月に「連邦医師・疾病金庫委員会の契約医による供給における医薬品の処方に関するガイドライン」が発表されたが、その後の動きは途絶えたままであり、薬剤経済学研究が保険償還、価格設定における意思決定に影響を及ぼしていない。[オランダ]1999年6月にCVZ(疾病金庫協議会)が薬剤経済学ガイドラインを作成した。薬剤経済学研究が保険償還決定や医薬品償還集におけるカテゴリー分類の判断材料の一つとして加えられることは、政府、保険者、業界の間で合意されているが、経済学的評価資料提出の義務付けについては、業界側が難色を示している。[アメリカ]各マネジドケア組織の有するformularyへ、製薬企業が自社品を掲載させるためのツールとして薬剤経済学研究は不可欠である。また、医療機関における医薬品・治療委員会(P&T Committee)でも薬剤経済学的評価が一般的に行われている。そのため、薬剤経済学研究に取り組む製薬企業の組織整備も進んでおり、この分野の研究が最も進んでいる国の一つである。[カナダ]1991年にオンタリオ州でガイドライン草案が発表され、1994年に連邦政府のガイドラインが公表されている。公的ガイドラインを発表したのは、オーストラリアに次いで2番目である。現在オンタリオ州は独自、他州は連邦の作成したガイドラインを用い、各州毎に作成されるフォーミュラリー収載時に経済学的評価資料の提出を製薬企業に義務付けている。[オーストラリア]1990年に世界初の公的ガイドラインを作成し、1992年より新薬及び効能追加品目について経済学的評価資料の提出を企業に義務付けている。公定価格であり、薬剤経済学研究が価格設定に反映される。
②製薬企業における費用対効果分析への取り組み状況把握と課題分析について
製薬企業に対する2種類のアンケート結果から、現在薬剤経済学研究の専門部署が設置されていると回答のあった企業は77社中12社(約12%)であり、兼任を含めて社内に担当者がいるとの回答は約43%であった。また、1997年4月以降に薬価収載された医薬品のうち、薬価申請の際に薬剤経済学的評価資料を添付したと回答のあったものは、120品目中49品目(約41%)であった。
我が国においては、輸入・製造承認を受けた新薬についてはほとんどの場合、薬価収載され、価格設定と同時に保険収載となっている。しかし、欧米諸国では処方薬の保険適用と価格設定は別のプロセスで実施されることが多く、薬剤経済学的は保険償還決定プロセスで用いられている。それは、薬剤経済学が価格設定のためのツールではなく、政策決定過程の透明化やアカウンタビティの手段との認識があるからである。
また、医療機関においても医薬品使用の効率性の観点から経済性についての関心は高く、アメリカでは医療機関における医薬品・治療委員会(P&T Committee)での薬剤経済学的評価が一般的に行われており、ファーマシューティカル・ケアの一領域として重要視されている。製薬企業もそれらに対応すべく組織整備、手法の確立を進めているが、我が国においては製薬企業の組織整備も十分になされているとは言えない。
結論
制度上の問題や薬剤経済学に対する認識の遅れ、研究の未熟さから我が国の薬価算定プロセスに薬剤経済学を導入させることは現段階では非常に困難である。本研究で、欧米諸国では薬剤経済学は価格設定ではなく、保険償還決定やformulary収載に多く用いられていることが明らかとなったが、そのプロセスについては未だ明らかでない部分が残されている。保険償還や診療ガイドラインへの薬剤経済学の活用とその成果に関する調査・研究をさらに行うことが、我が国における今後の新医薬品の保険収載、価格設定の合理化に資する提言を行うことができると考え、来年度以降の課題となった。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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