持続可能なポジティブ・ウェルフェア政策の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000016A
報告書区分
総括
研究課題名
持続可能なポジティブ・ウェルフェア政策の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
丸尾 直美(株式会社ライフデザイン研究所副所長(日本大学教授))
研究分担者(所属機関)
  • 天笠勇史(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 鈴木征男(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 小宮信夫(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 前田正子(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 小谷みどり(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 松田茂樹(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 矢口和宏(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 北村安樹子(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 宮垣 元(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 落合由紀子(東海大学)
  • 下開千春(株式会社ライフデザイン研究所)
  • 和泉徹彦(千葉商科大学商経学部非常勤講師)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
1,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ポジティブ福祉という基本理念がなぜ必要かについては加藤・丸尾編『福祉ミックス社会ヘの挑戦』(1998年)で述べたので、その理念に沿う福祉・雇用政策政策の方向を示し、21世紀の福祉社会の理念と政策を展望することを研究目的とする。具体的には、次の次の5点を目的とした。第一に、福祉政策のポジティブな面を重視して、福祉政策を明るく、しかも高齢化に伴う財政負担の増加を少なくするための研究を行うこと。第二に、福祉政策の経済的側面を重視して人口高齢化と低経済成長に耐えられる持続可能な福祉政策を設計すること。第三に、人口高齢化と生産年齢人口の減少に伴う経済成長の低下を阻止できるようなプロダクティブな福祉政策と経済政策のあり方を研究すること。第四に、フローの所得とGDPに対して、国民総資産の比重と影響力が大きくなったストック型社会にふさわしい資産重視の経済政策と福祉政策をスウェーデンの事例を参考としながら研究することである。
研究方法
まず、各研究者の研究分担に基づき、研究を進める。共同研究会を月1回の割合で開催し、報告者の報告、予定討論者のコメントと討論、質疑応答を実施した。報告者は、本研究分担研究者をはじめとしたが、ヒアリングのためにスウェーデンからの訪日研究者と福祉経済政策の担当者、共同研究参加の学者を招いた。次いで、実地調査としてスウェーデンを訪問して調査し、スウェーデン側の研究協力者と論議した。具体的には、在日スウェーデン大使館の協力により、スウェーデンのストックホルム大学主催で行われた研究会に参加し、スウェーデン側と日本側の各大学教授で各自報告を行い、討論を実施した。加えて、各福祉施設などにおける実地調査も行った。また、各研究者は各自分担研究に即して研究を進めた。主な分担研究テーマは次の通りである。①持続可能なポジティブな福祉の理念―その哲学的基礎付けと日本の福祉政策への具体化―、②女性から見た福祉国家と福祉政策、③ジェンダーフリーのライフデザイン、④動き出した介護保険制度の概要と問題点 、⑤グループ・ホームの実態調査と改善策の示唆、⑥都道府県別にみたサービスの需給とその将来予測 、⑦福祉サービスにおけるNPOの役割、⑧介護サービス事業者へのアンケート結果からみた介護サービスの問題点、⑨ポスト福祉国家における労働環境の質、⑩エコサイクル社会、⑪ポスト福祉国家における住環境とアメニティ 、⑫環境と安全である。
結果と考察
現在の日本の悲観ムードを改めるためのに、新たなポジティブ福祉のコンセプトに基づく政策と福祉計画を示し、その実行可能性(feasibility)の科学的根拠を示した。特に年金制度の在り方を研究してステークホルダー型・福祉ミックス型の年金制度の根拠を示して提言したが、この研究は福祉政策特別委員会(委員長丸尾)が今年の1月に発表した年金改革に関する提言は、今回の厚生省補助研究事業の成果を取り入れて作成されたものであり、このような形ですでに社会的にも有効活用されている。また、この研究を通して持続可能な福祉政策の見通しとその根拠を示すことによって、社会保障の
将来とその費用負担がどれくらいになるかの数量的目処を示すことができた。このことによって、現在と将来の世代の社会保障給付と負担のバランスとその大きさがどのくらいになるかを数量的に示して、現在の若い世代も納得する公正な福祉計画を示すことが出来る上に、社会保障の将来に関しての必要以上の悲観ムードを変えることが期待される。公私の年金積立金の運用に関しては、株式投資に積極的に活用するスウェーデンの方式を研究することによって、日本における年金積立金の運用の在り方にも有益な示唆ができる。今回の報告では、公私の年金積立金が資産市場と景気に与える影響について述べた。平成12年度の研究では、年金積立金が規制緩和下で公私の年金積み立て金が、株式市場と景気にどう影響するかを、理論的に解明するだけでなく、スウェーデンの場合について実証的に検討した。実地調査としてのスウェーデンの訪問からは、これまでの調査研究は、分担研究者と慶応義塾大学大学院、ストックホルム大学、ストックホルム経済大学と共同で行ってきた、経済、福祉、環境などのポリシー・マネジメントの研究の成果をChanging Labour Market and Economic Policy : Towards the Post Welfare State としてまとめて、その結果を2001年に出版した(厚生省にお届けずみ)。
結論
(1)福祉ミックス、(2)プロダクティブな福祉、(3)福祉のポリシーマネジメントを基本的理念としてまたキーワードして用いて、年金、高齢者介護サービス、保育、環境(廃棄物処理)の分野でそれぞれの政策を、こうした理念で行うとすれば、どのような点で、福祉の効率的政策が可能になるかを示した。ステークホルダー年金、福祉ミックス型年金の提案は、これらの研究で生まれたものである。高齢者介護サービスと高齢者医療制度、少子化対策に関しても、平成12年度の研究で具体化し、政策提案として発表する予定である。なお、本研究会がこれまで実施してきたスウェーデンとの共同研究は、Economic and Social Policy Management:Towards Productive Welfareという題名ですべて集まっており、中央経済社より出版されている。スウェーデンと日本の社会保障に関する研究としては、丸尾直美・塩野谷祐一編の『先進諸国の社会保障:スウェーデン』で、分担研究者のメンバーも寄稿した。

公開日・更新日

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