リバース・モーゲージ制度が日本経済に及ぼす波及効果に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000015A
報告書区分
総括
研究課題名
リバース・モーゲージ制度が日本経済に及ぼす波及効果に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小嶋 勝衛(日本大学理工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 根上彰生(日本大学理工学部)
  • 宇於﨑勝也(日本大学理工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本調査研究は高齢者の経済的基盤を確立する方法として、リバース・モーゲージ制度について検討を深める。高齢者世帯に及ぼす経済効果と産業連関表による国民経済に及ぼす影響を検討する。つまり、高齢期の居住継続と豊かで健康な老後生活を基本として、重点的とすべき高齢者及び高齢社会に対する施策のなかで、リバース・モーゲージ制度の活用によって国内産業に及ぼす影響を明らかにし、国の施策の基礎的な資料とすることを目標とする。シミュレーションや試算にもとづく分析から得られた知見をふまえ、個人には将来のゆとりある老後生活の選択肢の提案として、地域社会には安定して住み続けられる空間づくりの一助として、リバース・モーゲージ制度の利用促進が図られるような知見を得、現行制度の改善策の提案を目的としている。
研究方法
以下、各章ごとに記述する。
第1章では、研究の背景及び意義と目的、研究の方法、本研究で用いる用語を整理する。第2章では、高齢世帯の家計に及ぼす効果を明らかにするために、既存の調査報告・資料から高齢者の生活における収入や生活意識、考え方を整理する。また、公的年金の見直しによる高齢者の生活意識の変化と影響について整理する。さらに、制度を実施している自治体にヒアリング調査を行い、現況および利用実績を整理する。斡旋融資方式の世田谷区と新宿区、直接融資方式の中野区を対象に、具体的な事例から制度が高齢者世帯の家計に及ぼす経済効果を分析する。
第3章では、リバース・モーゲージ制度が日本経済に及ぼす効果を試算する。既存統計資料から本推計の対象となる世帯数を算出し、一定の条件のもとで高齢者1世帯あたりの平均所得金額に占める融資金額を求め、全国規模で実施するに必要な財政規模を明らかにする。以上の前提をもとに1995年全国産業連関表を用いて、リバース・モーゲージ制度で高齢者世帯に貸付けられた融資金の波及効果を産業連関分析の手法を用いて明らかにする。第4章では、本調査研究より得られた知見をふまえ、リバース・モーゲージ制度の有効活用とより広く普及するために、制度の見直しと新たな仕組みの必要性を導き出す。現行の仕組みの骨格を維持しながら機能を補完する公的機関の創設を中心とした提案であり、この期待効果及び見通しを予測する。
結果と考察
本調査報告書は4章により構成されている。以下、各章の成果を整理する。
1.第1章 序論
第1章は3節から構成される序論である。第1節では、背景および意義と目的、調査の構成と方法である。第2節では用語を整理している。
2.第2章 高齢者世帯の家計に及ぼす経済効果
第2章は5節からなり、本章から得られた知見を以下に示す。
1)自治体の事例分析から、融資額は高齢者世帯の収入の2割~5割となり、公的年金だけでは不足する高齢者世帯の収入を補う上乗せ効果が認められ、高齢者世帯の家計に及ぼす影響は少なくない。
2)世田谷区の事例から、公的年金と融資で基本的な希望生活費を超える収入を得られる。
3)新宿区の事例から、担保とした不動産の契約当時と現在価格のへだたりがある。その原因のひとつとして、鑑定評価の費用発生を免れるため再評価の正確性を欠いている状況を指摘している。
4)融資方式において、直接融資方式は自治体の一般財源から融資の原資が支出され、融資までの審査が比較的簡単なため、現在までの融資実績は延べで2自治体の89件である。しかし、融資と返済のバランスがとれていないと融資件数が増えれば自治体の負担が重くなる。一方、融資斡旋方式は協力金融機関から融資されるため、融資までの審査は協力金融機関の融資基準にも適合する必要があり、現在の融資実績は延べで15自治体の54件にとどまる。しかし、自治体からみると利息立替分の負担のみで制度を立ち上げられ、少ない費用でリバース・モーゲージ制度という行政サービスを施行することができる。
5)事例分析の3区の比較により、融資方式の違いが自治体の財政および運用の弾力性に影響することが示唆された。また、利用者の個別性が高く一概に生活費の不足を補う制度とは言い切れず、社会保障の選択肢として体系づけることが適切と考えられる部分も見られた。さらに、現状では自治体ごとに異なる制度が運用され、行政区域によって制度の不公平が生じていた。また、制度を利用している高齢者世帯に対して、世田谷区、中野区、新宿区の福祉公社へのヒアリング調査から制度の利用が高齢者家計にもたらす収入増の効果を明らかにした。 以上から、制度を利用する持ち家(不動産)を持つ高齢者世帯(制度の利用者)には、安定した収入として見込まれるが、運用する自治体(制度の施行者)は、専門職員の育成や融資方式の選定、原資の確保など重要な課題が残されていることが明らかとなった。リバース・モーゲージ制度が高齢者により安心感、信頼感を持たれ定着・運用されることで、有効利用が望まれるストック資産が活用でき、また、高齢者の消費性向も高めることができると考えられる。
3.第3章 国民経済に及ぼす経済波及効果
第3章は4節からなり、経済効果を推計するための前提となる対象世帯と財政規模を明らかにし、シミュレーションを用いて均衡産出高モデルによる第1次経済効果、第2次経済効果、雇用創出効果を見出し、国民経済に及ぼす影響を明らかにした。リバース・モーゲージ制度の利用希望対象を、総務庁高齢社会対策室の「高齢者の経済生活に関する意識調査(1996年度)」から利用意向4%で、全国で181,680世帯と推計し、この世帯に対して貸付額を毎月126,897円(1,522,760円/年)と設定した場合、年間2,766億5,500万円の資金でリバース・モーゲージ制度が全国規模で実施できる。この値をもとに制度の経済効果を産業連関表によって試算を行った。その結果、総合波及効果は6,289億9,500万円(投資額に対する生産誘発額比率は2.27倍)。その内訳として対個人サービスが17.0%、食料品が12.9%、不動産が7.6%を占めることを算出した。また、雇用表の従業者総数と国内生産額の関係から誘発される雇用者数は35,619人と推計され、その雇用者所得誘発額は1,533億9,300万円と推計された。生産者価格評価表から対GDP効果を探った結果、内生部門計の総合である国内総生産(GDP)は、485兆8,265億7,600万円(1995年現在)であり、本推計の結果である6,289億9,500万円が国内総生産に占める割合は0.13%となっている。すなわち、経済波及効果として他の産業への波及を考慮した生産誘発額ベースは、6,289億9,500万円(GDPの0.13%)程度で、GDPを押し上げる効果がある。さらに、生産誘発額から原材料や経費を差し引いた付加価値額ベースでも3,432億6,200万円(GDPの0.07%)程度で、GDPを押し上げる効果がある。
4.第4章 新たな仕組みの提案
本研究で行った調査・分析の結果、リバース・モーゲージ制度の有効活用とより広く普及するために新たな仕組みを提案する必要性が出てきた。それは、現在の仕組みの骨格を維持しながら補完する改善策として、「(仮)リバース・モーゲージ事業団」の創設を中心とした提案であり、この期待効果及び見通しを予測した。なお、仕組みの工夫にあたって次の項目に重点を置いた。
①利用者(高齢者及び高齢者世帯)が安心して利用できるシステム
②担保切れリスクをカバーできるシステム
③現行のように自治体(福祉公社もしくは社会福祉協議会)を窓口とする全国規模で取り組めるシステム
新たな仕組みでは、現行の直接融資方式と比べ融資源が自治体ではなく「(仮)事業団」が担う形となること。また、既存にはなかった国の予算措置により長期・安定的制度運用の見通しが立てられること。さらに、融資斡旋方式の協力金融機関の代わりに「(仮)事業団」が位置づけられることで、自治体の意思によって貸付ができるようになる。仕組みの大まかな流れは、①貸付を希望する者は自治体に申請を行う。申請を受けた自治体は貸付の可否を審査・判定し、可と認めた場合は自治体が「(仮)事業団」に融資を依頼し、「(仮)事業団」が自治体を窓口とした形で融資を行う。②「(仮)事業団」は、特別立法により国から予算を充当され、予算枠の範囲内で融資を行う。利息は長期プライムレートの変動性を原則に各四半期の初頭月の1日現在を基準日とする。③利用者(高齢者及び高齢者世帯)は、融資期限が到来した場合(死亡・転居等)に担保不動産を処分し、自治体をとおして「(仮)事業団」に融資分(借入金)を返済する。
結論
本研究調査の全体に対する結論として次のような3点が上げられる。
1.社会的有効性
リバース・モーゲージ制度は高齢者世帯の自助努力として有効であることが確認できた。これは、今後の高齢者対策としても有効な選択肢となり得ることが明らかとなった。
2.ミクロ経済効果
リバース・モーゲージ制度による融資額は公的年金を補う上乗せ効果が認められ、年金と制度による融資のみで、基本的な希望生活費を得られることが明らかとなった。
3.マクロ経済効果(波及効果)
産業連関表の試算の結果、GDPの0.13%程度を押し上げる効果と試算できた。ちなみに、介護保険の経済効果はGDPの0.1%を押し上げる効果((株)富士総合研究所の試算)、2000円札と500円玉の流通の経済効果もGDPの0.1%を押し上げる効果(富士証券)、2000年夏の猛暑による経済効果が0.5%程度GDPを押し上げる効果(日本経済新聞に報道)と報告されており、0.13%のGDPの押し上げ効果が説明できる。
4.新たな仕組みの必要性
リバース・モーゲージ制度は、現行の仕組みでは今後の実績の伸びやより広範な制度の普及は難しい。今後は全国的に需要が増大することも見込まれ新たな制度を構築する必要性がある。そこで、「(仮)リバース・モーゲージ事業団」の創設を中心とした提案を行い、それによる期待効果及び見通しを予測した。

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