社会福祉施設における総合的評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000008A
報告書区分
総括
研究課題名
社会福祉施設における総合的評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 進一(大阪市立大学生活科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 北島英治(東海大学健康科学部)
  • 岡田まり(花園大学社会福祉学部)
  • 藤林慶子(北海道浅井学園大学人間福祉学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度は、高齢者社会福祉施設の施設職員および施設長を対象とした自己評価について調査研究を進めた。本研究事業は、2つの調査から成り立っている。1つは、特別養護老人ホームの施設職員を対象者として行った調査であり、施設ケアに対する意識、自己評価、自己評価行動規定要因などについての分析を行った。もう1つは、特別養護老人ホームの施設長を対象者として行った調査で、運営意識、施設評価、施設長役割行動、自己評価、自己評価行動規定要因などについての分析を行った。本研究では、自己評価行動を規定する要因を分析するために、アメリカでモデル開発されたPRECEDE-PROCEEDモデルを活用して分析することにした。
研究方法
施設職員調査:調査対象者は、全国老人福祉施設要覧から無作為に抽出された全国の特別養護老人ホーム300ヶ所の施設職員300名である。調査方法は、質問紙を用いた横断的調査法である。質問紙の配布は、質問紙を施設職員に直接郵送で配布し、その回収は、無記名で直接回収する方法を採用した。調査期間は、2001年2月27日から2001年3月17日までである。調査回答は任意とし、回答がえられた比率は約54.3%で、その人数は163名であった。調査項目は、基礎属性、施設ケアに対する意識、自己評価、自己評価行動規定要因、施設ケア評価などである。施設長調査:調査対象者は、全国老人福祉施設要覧から無作為に抽出された全国の特別養護老人ホーム300ヶ所の施設長300名である。調査方法は、質問紙を用いた横断的調査法である。質問紙の配布は、質問紙を施設長に直接郵送で配布し、その回収は、無記名で直接回収する方法を採用した。調査期間は、2001年2月27日から2001年3月17日までである。調査回答は任意とし、回答がえられた比率は約50.3%で、その人数は151名であった。調査項目は、基礎属性、運営意識、自己評価、自己評価行動規定要因、施設評価、施設長役割行動などである。
結果と考察
①施設職員調査:質問に回答した施設職員の性別比率は、男性が48.5%、女性が51.5%であった。年齢別に見ると、20歳代が21.5%、30歳代が30.7%、40歳代が33.1%、50歳代が12.3%、60歳以上が2.4%であった。資格については、介護福祉士が31.9%、社会福祉主事が25.0%、社会福祉士が15.3%を占めていた。施設ケアに関する意識については、項目ごとに基礎統計量を分析し、その結果を得た。基礎統計量の結果のまとめは以下の通りである。
個別ニーズへの対応、清潔な環境管理などの施設ケアに関する意識については、それらの項目で平均値が高く、本調査の対象者となった施設職員の施設ケアに対する意識は良好なものであるといえる。しかし、上司・同僚からの評価やフィードバックなどについては、やや平均値が低い結果となった。
自己評価行動規定要因の構造を明確にするため、確証的因子分析を行った。因子分析(主成分分析・バリマックス回転)の結果、因子は5因子が抽出され、累積因子寄与率は65.04%であった。抽出された因子は、「自己評価行動の再実行阻害要因」(第1因子)、「自己評価に対する肯定的意識」(第2因子)、「自己評価行動の強化要因」(第3因子)、「自己評価行動の実行阻害要因」(第4因子)、「自己評価に対する否定的意識」(第5因子)であった。
自己評価行動を規定する要因を明らかにするために、自己評価行動を従属変数とし、上記の5因子と基礎属性を独立変数として重回帰分析を行った。その結果、すべての因子で有意差が見られた。
重回帰分析の結果、「自己評価行動の再実行阻害要因」(第1因子)、「自己評価に対する肯定的意識」(第2因子)、「自己評価行動の強化要因」(第3因子)、「自己評価行動の実行阻害要因」(第4因子)、「自己評価に対する否定的意識」(第5因子)が自己評価行動を規定していることが明らかとなった。特に、「自己評価行動の実行阻害要因」(第4因子)と「自己評価行動の再実行阻害要因」(第1因子)といった自己評価に対する否定的な要因が、自己評価行動に強く影響を与えている。
「自己評価のための方法を学ぶ時間がない」「自己評価のためのフォーマットがない」「多忙のため、なかなか自己評価を行う時間がない」といった「自己評価行動の実行阻害要因」や「自己評価を試みたが、面倒と思った」「自己評価を試みたが、忙しくてなかなかできない」といった「自己評価行動の再実行阻害要因」を取り除く職場環境が、自己評価行動の頻度を高めるのに必要であると考えられる。さらに、多忙である施設職員の状況を改善することは、自己評価のみならず、施設ケア全体の質の向上にもつながるとも考えられる。
②施設長調査:質問に回答した施設長の性別比率は、男性が82.1%、女性が17.9%であった。年齢別に見ると、20歳代・30歳代が9.9%、40歳代が21.9%、50歳代が33.8%、60歳以上が34.4%であった。経験年数10年未満の者が70%を占め、また、資格については、社会福祉主事とする者が半数以上を占めていた。研修参加経験については、年間1~3回と回答した者が33.1%と最も多く、次に年間10回以上と回答した者で、32.5%を占めた。
施設長の運営および役割に関する意識については、項目ごとに基礎統計量を分析し、その結果を得た。基礎統計量の結果のまとめは以下の通りである。
運営方針・運営計画・事業計画・財務管理などの運営意識についての項目での平均値は高く、本調査で対象となった施設長の運営意識は良好なものといえる。しかし、第三者評価やオンブズマンの受け入れに対しては難色を示す結果となった。
施設運営者としての役割についての項目では、全体的に平均値は高く、本調査で対象となった施設長の運営者の役割意識は良好なものといえる。しかし、人間関係を円滑にする促進者および施設職員に対する助言者といった役割では、他の運営者役割と比較して、やや平均値が低くなっていた。
自己評価行動規定要因の構造を明確にするため、確証的因子分析を行った。因子分析(主成分分析・バリマックス回転)の結果、因子は6因子が抽出され、累積因子寄与率は74.18%であった。抽出された因子は、「自己評価行動の実行阻害要因」(第1因子)、「自己評価に対する否定的意識」(第2因子)、「自己評価の行動強化要因」(第3因子)、「自己評価に対する肯定的意識」(第4因子)、「自己評価行動の再実行阻害要因」(第5因子)、「自己評価行動に対する否定的印象」(第6因子)であった。
自己評価行動を規定する要因を明らかにするために、自己評価行動を従属変数とし、上記の6因子と基礎属性を独立変数として重回帰分析を行った。その結果、第1因子、第2因子、第5因子で有意差が見られた。
重回帰分析の結果、「自己評価行動の実行阻害要因」(第1因子)、「自己評価に対する否定的意識」(第2因子)、「自己評価行動の再実行阻害要因」(第5因子)といった自己評価に対する否定的な要因が自己評価行動を規定していることが明らかとなった。特に、「自己評価行動の実行阻害要因」(第1因子)と自己評価に対する否定的意識」(第2因子)は、自己評価行動に強く影響を与えている。
「自己評価のための方法を学ぶ時間がない」「自己評価を行う時間が持てない」「自己評価のためのフォーマットがない」「自己評価を試みたが、忙しくてなかなかできない」といった「自己評価行動の実行阻害要因」を取り除く職場環境が、自己評価を促進していくためには必要であると考えられる。多忙である施設長の状況を改善することは、自己評価のみならず、サービス全体の質の向上にもつながるとも考えられる。
さらに「自己評価に対する否定的意識」を取り除く研修や「自己評価」に関して肯定的な意識を施設長が持てるよう工夫していくことも求められる。これは、「評価」に対するイメージが否定的なイメージなっているためではないかとも考えられ、「評価」がサービスの向上のためというよりは、格付けのイメージが定着しつつあるのではないかとも考えられる。従って、施設長研修などで、「評価」に関するガイドラインや「評価」の意義を説明するとともに、「評価」に対する肯定的なイメージを施設長が持てるような工夫が必要とされる。
結論
本研究の対象者となった施設職員および施設長の自己評価は、全体的に良好な結果であった。また、施設職員・施設長ともに自己評価行動の実行阻害要因・再実行阻害要因といった自己評価に対する否定的な要因が自己評価行動を規定していることも明らかとなった。今後、このような否定的な要因を少なくしていくために、さまざまな角度からの検討が必要であり、現在の状況を変化させていくことが、施設サービスの質の向上につながると考えられる。

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