医療への患者参加を促進する情報公開と従事者教育の基盤整備に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000004A
報告書区分
総括
研究課題名
医療への患者参加を促進する情報公開と従事者教育の基盤整備に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岩井 郁子(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石田昌宏(日本看護協会政策企画室)
  • 香春知永(聖路加看護大学)
  • 小谷野康子(聖路加看護大学)
  • 佐藤紀子(東京女子医科大学)
  • 辻本好子(ささえあい医療人権センターCOML)
  • 豊増佳子(聖路加看護大学)
  • 鳥羽克子(聖路加国際病院診療記録管理士)
  • 中木高夫(名古屋大学医学部保健学科)
  • 樋口範雄(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、医療法第1条の4およびカルテ等診療情報の積極的提供およびその一環としての診療記録開示の目的が適切に運用・活用する上での基盤整備に関する提言を行うことである。
研究方法
平成12年度は、過去2年間の研究結果を統合し、研究主題である「医療への患者参加を促進する情報公開と従事者教育」に関する課題の明確化から、研究メンバーと有識者との討議ならびに過去2年間の研究結果を根拠に研究メンバー間での討議を重ね、基盤整備に関する分担研究をまとめた。
結果と考察
平成10-11年度の調査結果と考察から、情報提供をめぐる課題と基盤整備に関する提言を述べる。
1.調査結果全体からの課題
1)コストをめぐる課題
医療従事者側の意見は、現状の医療実態を踏まえた負担感・記録の労力と時間の問題、説明に要する時間・コスト、診療録管理に要するマンパワー確保・人件費の保証等である。
2)診療情報および診療記録へのアクセスの方法をめぐる課題
(1)開示以前のインフォームドコンセントの必要性
(2)情報へのアクセスと管理体制の構築
(3)患者の心理的負担を軽減するアクセス方法の開発
(4)告知をめぐる問題:知る権利、知らないでいる権利など患者の意思を尊重した慎重な対応。
3)情報提供の範囲と情報の漏洩およびプライバシー保護の問題:情報漏洩のための対策は、基盤整備上欠くことができない課題である。
2.提供すべき診療情報の内容とその方法に関する課題
(1)提供すべき診療情報内容を具体的に設定したガイドラインの必要性
(2)診療情報の提供方法における医師と国民/患者との認識の乖離をめぐる課題:国民・患者は「情報提供は当然」と考えているが、医師は、諸々の課題を解決することが情報提供の前提であると考えている。
(3)自己決定の原理に基づく医療を実行するうえでの課題
自己決定・医療への積極的参加に関する基盤整備の必要性があり、臨床的意思決定に必要な情報とは何か、医師・患者各々の責任の明確化、科学的根拠に基づいた利益と危険の比率に関する情報、QOL(生活の質)を維持する上で最も患者が納得する方法を提案する。
(4)情報提供・記録の開示に関する広報活動:医療側、患者側の考え方、理解に差がある。参加型医療に対する認識を促すための意識改革、教育が必要である。
(5)記録管理のシステムの構築:①専任職員や設備などハードの整備②管理・運営の規定などソフトの整備③価値、倫理規定の検討④電子カルテやネットワークによる共同作業など新しいシステムの構築の検討⑤診療情報管理士の教育の検討⑥記録管理のシステムの継続検討とその開発
(6)診療記録の標準化・ガイドライン作成および監査システムの導入
(7)医療従事者の基礎教育および生涯教育:①倫理および法的側面を含めた教育内容の再検討②医学部入学、卒業、医師国家試験の見直し③卒後研修のあり方の検討と卒後の質の管理④診療記録に関する教育:学術的・客観的な記載のための教育の検討。
(8)コラボレーション・チーム医療の推進:医療従事者は患者中心の医療へ転換し、その目的を共有して、尊敬と信頼関係による共同の意思決定に基づく医療の提供。
3.診療記録開示の法制化に関する課題
1)法制化賛成:法制化によるメリットは、診療情報提供の整備や実現の誘因となる。患者の権利・人権を保証し意識改革が可能になる。責任の所在を明確化し経済的裏付けのためには法制化が必要であり、医師と患者のよい信頼関係も促進する。
2)法制化反対:民法や医事法で医師の説明の義務は既に明示されており新たな法は必要ない。罰則を伴わない法は効果が期待できない。説明は当然のことで法制化は必要がないなどであった。①法律の規定は簡単に、②大きなルールであるべき、③例外をなくするなどである。法制化に関する議論および基盤整備の提言上の課題は、これらの意見をも踏まえながら下記の観点から検討することが課題である。
(1)基本的人権としての診療情報自己コントロールとカルテ開示法制化の意義:「なぜ」と問いかける議論が重要となる。②医療記録開示に関連した疑問:「なぜ必要なのか」という議論型の問いかけが重要である。カルテ開示の影響に関しては、医療者と非医療者の見解の相違を例示して、コストをあまりかけず、それで医療の質も劣化させないような開示というものをどうすればできるかが、基盤整備のポイントでもある。③医療従事者-患者関係における情報開示の意義、情報提供を求められているのは、医師だけでなくすべての医療従事者、つまり信認(信頼)を受けて素人から大きな権限・財産など委託される者(fiduciary)は、信託にこたえる義務があり、その義務の中核は情報提供義務、説明義務である。この情報提供義務の根拠は、「自己決定権の保証」そして「信頼関係の構築」の2点にある。また、開示する情報内容や方法については、開示の目的に資する形で、その効果とマイナス面をふまえて検討していく必要性がある。看護職は、プロフェッションとしての位置づけが把握されれば、看護記録も含めて情報提供義務が課せられる。
4.診療情報の提供の基盤となる医療従事者と患者との関係のあり方に関する課題
パターナリズムの現状を反映し、パートナーとしての医師-患者関係を求めている。
結論
診療情報の提供ならびに診療記録開示をめぐる基盤整備は、医療の受け手である国民・患者側と医療の担い手である医療従事者側それぞれと、両者に共通する下記に関する基盤整備が必要である。
1.国民・患者および医療従事者に共通する基盤整備:診療情報提供およびその一環として診療記録開示の目的・意義に関する啓発・普及活動の実行
2.国民・患者側の基盤整備
1)医療を受ける患者側の責務を具体的に明確にするべきである。
2)患者の自己決定を支援する医療システムの構築が必要である。
3)コスト議論を含め、医療への意思表示等の社会化をすすめる。
3.医療従事者側の基盤整備
1)医療専門家の役割と責務を、より明確に、より具体的に規定するべきである
(例として日本看護協会が明らかにした「看護業務基準1995年」(看護職者の責務)等
2)医療従事者の教育に関して、新しい医療専門家の役割規定、情報提供に関連する諸問題の整理と対処、さらに医療従事者間における協働関係の構築を内容に含むことが必要である。さらに、生涯教育・継続教育のシステムの構築が求められる。
3)診療記録開示を中心として診療記録のIT化を含め診療情報の問題が重要性を増している今日、我が国において診療情報の保護と開示に関し、明確な指針が必要である。

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