看護婦の交代勤務制の改善に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000003A
報告書区分
総括
研究課題名
看護婦の交代勤務制の改善に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
上畑 鉄之丞(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤良夫(中央大文学部心理学研究室)
  • 酒井一博(労働科学研究所)
  • 前原直樹(労働科学研究所)
  • 山崎慶子(東京女子医大病院看護部)
  • 宮腰由紀子(広島大医学部保健学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
看護婦の病棟業務は、24時間を通じて患者の安全と安心を保つ必要性から、必然的に夜勤をともなう交代勤務を強いられ、夜勤者数は少なく、しばしば1人勤務を余儀なくされる場合も多い。わが国の看護病棟での交代勤務の約半数は三交代制であるが、近年の医療技術の高度化、ICUのような夜間に過密労働が集中する勤務の増加など、医療内容の多様化のなかで、これまでの定型的な8時間分割の三交代制は、「中勤」を取り入れた変則三交代制や二交代制が導入などの試みがされている。本研究では、病棟看護の交代勤務の改善の試みについて、主として、労働生理学や労働心理学、労働社会学の立場から、看護婦が健康的に働き、かつ患者の安全が維持できる夜勤制度のあり方を見いだすことを目的にした。
研究方法
看護婦の交代制勤務が生活及び心身の消耗度に与える影響とその予防に関する研究では、平成11年度の3交代および2交代制勤務者を対象として得たデ-タに加えて、12時間夜勤制の一般病棟勤務の5名を対象に前年と同様の調査をおこなった。そして「改善可能な交代勤務のモデル」をテ-マに、「日勤-中勤-夜勤(12時間)-休日」の勤務パターンにあう期間を選定し、夜勤時の午前3時~4時半に所定の休憩時間1.5時間を設定、同一対象者で仮眠の有無の2条件を比較した。また、前年度の病棟看護婦の交代制勤務の実態調査に加えて、前年度に回答が得られなかった施設のうち151-500床の一般病院701施設を対象に、同じ内容の調査を再実施し、279病院、979病棟から回答を得た。2年間の通算回答数は1,515病院であった。さらに、3年間の研究成果をふまえて、病棟の二交代勤務に関して、過去の導入経過を歴史的に検討するとともに、二交代制を導入する際に課題となる長時間勤務による弊害、すなわち勤務者の疲労蓄積とパフォ-マンスが低下を克服する条件を付与した場合のモデルシフトを検討した。
結果と考察
長時間夜勤での仮眠の有無による比較では、勤務サイクルでの睡眠時間率では、夜勤翌日の休日の起床時までの間隔時間と総睡眠時間は殆ど同じであったが、「仮眠なし群」の休日の総睡眠時間は長く、夜勤終了時から休日の翌朝の起床時までの睡眠時間率も大きくなる傾向にあり、夜勤中の仮眠の有無は、勤務明け日よりその翌日の休日の過ごし方に影響を与えていた。また、夜勤終了から第6日目の起床時までの総睡眠時間は、「仮眠あり群」よりも「仮眠なし群」が長く、仮眠をとらなかった影響がみられた。また、12時間夜勤者での「仮眠あり群」と「仮眠なし群」の休憩前後の尿中S/OH値の変化による休憩の急性効果は「仮眠なし群」の方が大きいものの、夜勤終了時では「仮眠あり群」の低下度よりも「仮眠なし群」の低下度が大きかった。また、調査開始の早朝起床時の尿中17-KS-S(尿中Sと略)時間推移を見ると、「仮眠なし」群では、休憩前に大きく低下、休憩後は若干の回復を示したものの、夜勤終了時は再び低下した。また、「仮眠40分以上」群では、休憩後の若干の上昇は同じで、夜勤終了時にはさらに大幅に上昇し、仮眠の有効性が見られた。これらの現象は、尿中S/OH変化率でも同様であった。他方、看護病棟の夜勤実態では、平均病床数49.5床、平均入院数43.2人、1看護単位の平均看護職員は10人、看護補助者3.1人、事務0.3人であった。夜勤専従者は2病棟に1人の割合だった。交代制は、一部の混合を含めて3交代3,088(55.3%)、2交代2,099(37.6%)で、二交代制は医療法人や個人が約6割であった。交代制の形態は、8時間毎の3交代、16時間2交代、変則三交代、
さらに二交代制でも、夜勤12時間、13時間、14時間、15時間、当直の順であった。回答者のうち、8時間3交代、変則3交代など現在行っている勤務体制を望ましいとした者は40-74%の範囲であった。交代勤務では、毎日異なった勤務帯で働いている場合が7割、数日単位で勤務帯が異なる場合17.7%、1週間単位で3種類の勤務帯をローテーションする場合が5.4%で、固定勤務帯は3.1%であった。看護婦の96.2%は1週間以内の短期間周期で2-3の異なる勤務帯を交代していた。3交代の循環方式は、時計まわりを含めた正循環が8.3%、反時計まわりを含めた逆循環は42.4%で、他の41.8%は両者の混在だった。勤務間隔時間は、8時間が38.4%、11時間までは7.6%と約半数の46.0%が11時間以内で次の勤務に入っていた。勤務間隔11時間以内の37.6%は日勤から深夜勤に、ついで準夜勤から日勤が12.9%であった。月平均夜勤回数は、3交代の準夜勤4.3回、深夜勤4.3回、二交代夜勤は4.6回であった。診療報酬規定の看護配置基準をもとに、3人夜勤、週休2日制を前提としたモデルシフトの検討では、週38時間労働では、12時間夜勤制での日勤1回あたりの実働時間は9時間、16時間夜勤制での日勤は8時間2回と8時間30分が1回になり、これらのシフトは、一般病棟では60床で2.5:1以上、50床では2:1以上、老人・療養病棟では90床5:1で可能であった。
結論
病棟の交代制は、伝統的な3交代勤務だけでなく、変則三交代や2交代勤務への転換を試みる事例が多くなっており、①引継回数が少ない、②深夜の交代がない、③余暇時間がまとめてとれる、④患者の安心感がある、などのメリットが注目されいるところから、デメリットとしての長時間夜勤での疲労蓄積やパフォ-マンスの低下をいかに回避するかの課題を解決することが重要である。こうした対応では、すくなくとも慢性疲労を生じさせないための12時間夜勤では少なくとも60分以上の仮眠が必要で、そのための休憩時間は1.5-2時間が必要であること、夜勤明け日の翌日は休日とすること、さらに、子ども、とくに未就学児をもつ看護婦では、夜勤明け日に引き続く連続休日が必要であることが、一連の研究で明らかになった。そして、12時間や16時間拘束での長時間夜勤を含む二交代制の導入では、仮眠時間や仮眠室の確保、夜勤人数、最大拘束時間などを明確にしたうえで、現行の週40時間労働を週38時間に改善するなどの制度的な転換の必要であることが明らかになったといえる。

公開日・更新日

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