科学的根拠(evidence)に基づく糖尿病診療ガイドラインの策定に関する研究 

文献情報

文献番号
199900940A
報告書区分
総括
研究課題名
科学的根拠(evidence)に基づく糖尿病診療ガイドラインの策定に関する研究 
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
赤沼 安夫(朝日生命糖尿病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 渥美義仁(東京都済生会中央病院内科)
  • 岩本安彦(東京女子医科大学糖尿病センター)
  • 折笠秀樹(富山医科薬科大学統計・情報科学)
  • 春日雅人(神戸大学第二内科)
  • 片山茂裕(埼玉医科大学第四内科)
  • 門脇孝(東京大学糖尿病・代謝内科)
  • 吉川隆一(滋賀医科大学第三内科)
  • 小林正(富山医科薬科大学第一内科)
  • 齋藤康(千葉大学第二内科)
  • 島健二(川島病院)
  • 清野裕(京都大学病態代謝栄養学)
  • 南條輝志男(和歌山県立医科大学第一内科)
  • 山田信博(筑波大学内科学(内分泌))
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現今の医療技術の進歩や人口の高齢化は、医療ニーズの多様化にますます拍車をかけている。これに効率的に対応し、良質かつ均質な医療サービスを提供するためには、"科学的根拠に基づいた医療"(Evidence-based Medicine:EBM)を実践することが必須である。そのためには、簡便かつ効率的に治療方針の決定に生かしうるリファレンスとしてのデータベースや診療ガイドラインを作成すること、また、これらをインターネット等の情報通信技術を活用し、日常診療の利便に資する形で提供することが有意義であり、不可欠である。
とくに、その患者数が現在40歳以上の10人に一人を占めると推定される糖尿病については、それ自身が惹起する種々の合併症とともに、高血圧や高脂血症の併発も多いことから多様な臨床局面が生じうるため、これに対応しうるリファレンスの拡充と診療ガイドラインの策定が切に望まれる。
本研究はこのような視座に立ち、我が国において広く使用しうる科学的根拠(evidence)に基づいた糖尿病診療ガイドラインの策定を行うものである。
研究方法
"科学的根拠に基づいた医療"(Evidence-based Medicine:EBM)を医療現場において無理なく実践するためには、これを支援するシステムの構築が必須といえる。このようなシステムを体系的に構築するためには種々のステップが必要である。糖尿病診療に関するEBM支援と診療ガイドライン策定に関して今回申請する計画では、以下の8段階のステップを行う。
1)テーマの決定:糖尿病の診療に関連する領域の中から優先して検討を行う課題(テーマ)を決定、採択する。
2)情報収集と文献レビュー:これらの分野についての文献を収集し、これをEBMの手法に基づき、系統的、包括的にレビューする。このレビューに基づき、データベースへの採用の可否を決定する。
3)データベースへの登録:上記により採用された文献を一定の形でデータベースに登録し、集積する。
4)診療ガイドラインの策定:作製されたデータベースに基づき、採択した課題について包括的な診療ガイドラインを策定する。
5)意見聴取:作成されたデータベースと診療ガイドラインについて、公開のフォーラム、専門家への意見聴取・諮問を行い、これらをフィードバックする。
6)情報の頒布:策定されたガイドラインを、学会誌・刊行物・インターネット等を用いて、医師が日常診療に利用しうる形で配付・広報する。のみならず、データベースについては、より多くの医師が閲覧できるよう、インターネットを用いても利用可能な形にし、利便性を高める。
7)今後の研究の方向づけ:evidenceの乏しい分野についてはこれを明記し、今後の研究を促す。また、診療ガイドラインの有効性・妥当性を確認する研究の実施も促す。
8)体制の維持:1)~7)のサイクルを継続的に行いうる体制を維持できるシステムを確立する。
2)文献のレビューについては、EBMの手法に基づき系統的かつ批判的に吟味することが重要であり、以下の面から評価する:・患者の選択、・患者への治療方法の割り付け方、・治療方法の明記の有無、・研究のコントロールの適切さ、・脱落例の取り扱い、・盲検の適切さ、・健康指標の測定方法、・統計処理の方法。
文献はその質によって、・:大規模RCT (Randomized Control Trial)、・:小規模RCT、・:コホート研究、・:症例-対象研究、・:コントロールのなされていない研究による証拠、・:結論が出ていない証拠、・:専門家の意見、等に分類し、前3者をランクA(最も質が高い)とする。症例-対象研究はランクB(次いでランクが高い)に分類される。これらにより一定の基準を満たしたものについて、データベースへの登録を行う。
本年度、本研究は以下の手順によりガイドライン素案の作成までを行った。
1. 研究班の構成とサブテーマと分担・決定:研究班を構成した後、サブテーマを設定し、それぞれにその分野を専門とする分担研究者を配した。
2.情報源と検索方法の確定:糖尿病治療ガイドラインを策定するに当たり、そのEvidenceとなる情報源として、1)過去のガイドライン(とりわけカナダ医師会ガイドライン、米国糖尿病学会ガイドライン、2)MedlineデータベースでPublication Type (PT) = Practice Guidelineとして1996年以降に検索された50件の論文、3)Medlineデータベースによる1998年以降の検索、4)医学中央雑誌データベースによる1987年以降の本邦における論文検索、以上の4つを情報源として利用することにし、2)~4)につきそれぞれ検索を行った(下記4)。
3.研究デザインに基づくevidence水準の確立:本研究班におけるevidence水準(level)表を、過去の水準表も参考にして作成した。
4.文献検索の実施:2に示した手順で、Medline及び医学中央雑誌データベースにより文献検索を実施した。Medlineによる1998年以降の検索結果からは全部で732件の研究論文が得られた。次いで、本邦の医学中央雑誌データベースによる検索では、1987年から1999年までの13年間で、糖尿病治療に関するRCTまたはメタアナリシスとして129論文が得られた
5. 検索された研究論文のEvidence水準の決定:前節で検索された研究論文の要旨(abstract)から、上述のevidence水準表に従い、それぞれの論文に暫定的な水準を付した。これが各分担研究者へ送付され、論文の通読によりそれぞれについて最終的水準を決定した。各論文をガイドラインに引用することの妥当性については各分担研究者の判断に委ねた。
6.ガイドラインのステートメント執筆:サブテーマごとに、各分担執筆者がガイドラインとして載せるステートメントを提案・執筆し、さらに解説の文章を記述した。ステートメントにはそれぞれグレードとレベル(水準)、引用文献を付記した。専門家の間でのコンセンサスと考えられる事項についても取り上げた。ステートメントとして適切か否か、真にコンセンサスといえるか否かについては、数回の班会議により十分に議論を重ねた。
結果と考察
以上の方法により、「科学的根拠(evidence)に基づく糖尿病診療ガイドライン(案)」を作成した。なお、本案はあくまで作成の過程にあるものであり、今後大幅に改変される可能性があることを明記する。最終的に研究結果は、一般に閲覧可能な形で提供される予定であり、本研究による診療ガイドラインの策定は、合理的でかつ効率的、均質な糖尿病診療を、基本的に全ての糖尿病患者が享受しうることを可能にし、患者サービスとしての医療の質の向上と均等化に資するところ大と考える。のみならず、このような治療支援システムの作成は、検査・治療の効率化の面から、医療費増大の現況に鑑みても意義深いといえる。
結論
以上、科学的根拠(evidence)に基づく糖尿病診療ガイドライン(案)とその作成過程について述べた。研究計画の2年目では、この案に対してさらに検討を加え、医療上の重要性が日増しに高まっている糖尿病の日常臨床に広く用いられ、我が国の糖尿病診療の指針となるガイドラインを作成していく。

公開日・更新日

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更新日
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研究報告書(紙媒体)