医療施設機能別にみた看護職員の配置と業務(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900936A
報告書区分
総括
研究課題名
医療施設機能別にみた看護職員の配置と業務(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
菅田 勝也(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤鈴子(大分県立看護科学大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,290,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療施設機能別の看護職員の配置と業務に関する検討の一環として、老人保健施設における看護職員配置状況、介護職員等との業務分担、および看護職への役割期待を明らかにすること、療養型病床群における看護職員配置状況と患者の転帰および在院日数との関係を検証することの2点を目的とした。
研究方法
老人保健施設の看護職員配置の検討では、社団法人全国老人保健施設協会会員名簿(平成11年8月末日現在)収載の老人保健施設2,244施設を対象に質問紙郵送調査を行った。調査時期は平成12年2月である。調査票作成にあたっては先行研究の看護業務分類や介護業務分類を参考にして、老人保健施設において看護職が行う可能性がある業務を「入所の対応」、「入所者のアセスメント・施設内ケアプランの作成」、「状態観察」、「処置行為」、「診療の介助」、「リハビリ」、「生活介助」、「環境整備」、「記録」、「退所の対応」、「全体の業務」の11項目に整理し、さらに各項目の下位項目としてより具体化した業務内容を挙げて計35項目の業務カテゴリーを作成した。郵送調査では、施設管理者に対して、施設の特性と業務カテゴリー毎の職種別業務分担状況を質問した。さらに、施設管理者、看護責任者、介護責任者の3者に対して看護職に期待する役割について業務カテゴリー別に0~10点のmodified VAS法を用いて調査した。また、各施設で標準的な1日(平日)を調査日として設定してもらい、各勤務帯における看護職・介護職の各1名に、業務カテゴリー毎にその日実際に行った時間を分単位で記入してもらった。一方、療養型病床群の看護職員配置と患者の転帰および在院日数との関係の分析では、まず「平成8年医療施設調査調査票」、「病院報告調査票」を用いて、療養型病床群を有す病院を抽出し、病院の特性、療養型病床群への看護職員配置状況、平均在院日数などを施設別に算出した。次に「平成8年患者調査病院(奇数)票」、「同病院退院票」を用いて、入院患者の状態別割合や退院時の状況別割合などを施設別に求め、これらの手続きで作成した変数間の関係を調べた。
結果と考察
老人保健施設の調査では479施設(21.3%)から有効回答が得られた。回答があった施設のうち設置主体が医療法人である施設は72.6%(平成10年全国値73.9%)、市町村である施設は5.9%(同5.1%)であった。平均入所定員は87.4人(同87.2人)、平均デイケア定員は28.9人(同25.4人)であった。入所定員100人あたりの平均職員配置数は、看護婦・士4.3人(同3.8人)、准看護婦・士7.4人(同7.1人)、介護職員(介護福祉士・認定ヘルパー・無資格介護職員の和)33.1人(同31.7人)でいずれも全国平均とほぼ一致していた。また、入所者の年齢は全国平均(平成10年)が男80.4歳、女82.5歳で、本研究でも80歳以上が一番多いと答えた施設が9割以上を占め入所者の高齢化が窺える。入所者のADLは、「食事」は自立している者が一番多いと回答した施設が過半数だったが、他の「移動」、「排泄」、「入浴」、「着替」、「整容」に関しては部分介助の者が一番多いと回答した施設が過半数で、「排泄」と「入浴」に関しては全介助が一番多いと回答した施設も25%以上あった。これらも全国的な傾向と概ね一致しており、本研究で分析した施設の特性には大きな偏りはないと思われる。さて、現状では老人保健施設からの退所先のうち家庭への割合は45.8%(平成10年)にとどまっており、中間施設として十分機能していないことがしばしば指摘されている。今回の調査では、併設施設数が多い施設、特に在宅介護支援センターや老人デイサービスセンターを併設する施設では退所前訪問指導・退所後訪問指導が多く実施されていた。併設施設をも
たない老健施設においてもこれらの指導を促進するような努力が必要で、また、併設でなくても近隣の在宅介護支援センターや老人デイサービスセンター等と連携することが効果的かもしれない。看護職に期待する役割については、施設管理者等・看護責任者・介護責任者の3者に全体として同じ傾向があったことから期待されている役割はほぼ明確で、最も期待されている業務は医学的処置、点滴・注射の施行、内服薬の分包・管理、健康状態の観察等であるといえる。また、退所者や家族への指導、管理日誌の記録やカンファレンスの参加など全体の管理や運営に関することも期待されている。逆に看護職が行う必要性が低いと考えられている業務は環境整備やレクリエーション、訓練室内のリハビリ等である。実際にもこのような役割の期待に近い形で分担が行われていることが業務時間調査から明らかになった。看護職が行う必要性が少ない業務を他職種に移し、分担を明確にすることで看護職がやるべき業務を行う時間を確保する必要があるといえるだろう。また、施設管理者等・看護責任者・介護責任者の3者が看護職に期待する役割は、細部については微妙に期待が異なっていた。今後役割分担が円滑に行われるためには3者が共通の認識をもつよう努力していく必要がある。介護責任者は他の2者よりも看護職に対して入所者の身の回りの世話を期待し、逆に入退所に関することや観察や日常の処置については期待が小さいことがわかった。これは、介護責任者が他の2者よりも介護職と看護職の機能分離意識が低いことを表していると思われる。業務時間の分析結果では、看護職が生活介助に費やしている時間の割合は、介護職/看護職の比が低い施設で高い傾向があった。実際の業務が分離できていないことが介護・看護の機能分離意識が低いことの一因として考えられる。さらに、介護責任者は看護責任者に比べると、看護職が他職種・ボランティアの教育を行うことは適切とはいえないと考えていたが、質が高く効率的なケアを提供するために介護職は看護職のもっている知識と経験を積極的に利用する意識を持つ必要があり、同時に看護職は介護職や他職種の専門性を認め一方的な指導とならないよう配慮することが求められる。一方、看護責任者は入退所の管理や他機関との連携を他の2者よりも自らの役割として捉えていたが、相談指導員の役割等も含め施設ごとに適切な分担を検討する必要があると思われる。次に、療養型病床群の看護職員配置と患者の転帰および在院日数との関係の分析では以下のことが明らかとなった。退院可能な患者の割合が高い施設(上位1/4)、入院患者あたり夜間看護要員配置数(三交替以外)が多い施設(上位1/4)の方が死亡退院患者の割合が低かった。しかし、家庭に戻った患者の割合との関係は認められなかった。入院患者あたり看護要員配置数および夜間配置数(三交替以外)の多寡(上位1/4と下位1/4)は、平均在院日数や退院患者平均在院日数と関係があった。また、看護要員の中の有資格者割合の高低(同上)は平均在院日数との関係が認められた。このように看護職員の配置状況は、長期療養の患者群においてその転帰や在院日数と関係している様子が窺われた。
結論
老人保健施設において看護職員に期待されている業務は、医学的処置、点滴・注射の施行、内服薬の分包・管理、健康状態の観察等で、逆に看護職が行う必要性が低いと考えられている業務は環境整備やレクリエーション、訓練室内のリハビリ等で、業務時間調査でもこのような役割の期待に近い形で分担が行われていることが明らかになった。しかし期待の程度については施設管理者等・看護責任者・介護責任者の3者間で差があり、施設管理者等は観察やアセスメントや記録を、看護責任者は入退所に関することや相談や他機関との連携を、介護責任者は入所者の身の回りの世話を、それぞれ他の2者よりも多く看護職に対して期待していた。業務時間の分析結果では、看護職が生活介助に費やしている時間の割合は、介護職/看護職の比が低い施設で高い傾向があった。また、長期療養患者の多い療養型病床群において、看護職員配置状
況は患者の転帰や在院日数と関係があることが示唆された。

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