少子化時代における小児救急医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900935A
報告書区分
総括
研究課題名
少子化時代における小児救急医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田中 哲郎(国立公衆衛生院母子保健学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤本 孟男(愛知医科大学小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子化に伴う小児医療の不採算問題、医師の高齢化をはじめとする小児科医のマンパワー不足の問題は今後ますます深刻さの度合いを増すことが予想される。中でも困難な状況にあるのは、時間外や夜間の診療を中心とした小児救急医療の現場である。本研究では2つの大きな関連するテーマを各分担研究とし、それぞれ実体調査を行って今後の相応しい小児救急医療体制の構築を目的に検討を行った。小児科医の絶対数不足に対処する試みとして、小児初期救急医療を内科医や救急医療に携わる全医師に依頼し、小児科医は二次救急から参加するという意見が小児科医の間に見られるが、これに対しより多くの医師の考え方を知ることを目的に実施した意識調査の検討が第1点。もう1つは、厚生省が平成11年度から小児救急医療の充実を意図してスタートさせた小児救急医療支援事業に関し、現時点における実施状況と運営上の問題点等について知見を得るための実態調査である。これらの調査結果に基づき、今後の小児救急医療の相応しいあり方について検討することが全体的な研究目的である。
研究方法
小児救急医療の担い手に関する調査は、全国の急患センターに出務している2,110名の非小児科の専門医に対してアンケート調査を行い、小児救急の現状と今後に関する意識調査を実施した。また小児救急医療支援事業に関しては、全国の自治体、日本小児科医会、日本小児科学会地方会を対象に実態調査を行った。主な検討課題は以下の3点である。①小児救急医療に関係するマンパワーを効率よく活用するため、内科医など小児科専門医以外の医者による小児救急疾患への対応力について検討すること。②小児病院や小児医療センター等における初期・二次・三次の小児救急医療への取り組み現状について検討すること、③小児救急医療支援事業に関し現時点における実施状況と、運営上考慮または改善すべき点について検討すること。④小児専門の医療機関と地域病院との救急医療におけるより効率的な連携のあり方について検討すること。
結果と考察
1.初期小児救急医療の担い手に関して
小児の初期救急を行っている全国の急患センター出務の小児科非専門医(内科医または内科小児科医)2,110名に対して、小児診療の現状と今後についてのアンケート調査を行った。その結果、急患センター小児科出務の小児科非専門医は、時間内は過半数が自院で子どもの診療を行っていたが、時間外診療は41.7%と半数未満であった。また、66.0%が急患センター小児科出務における子どもの診療に何らかの不安を抱え、子どもの年齢が低いほど不安の度合いが高いという傾向が見られた。さらに、今後の急患センター小児科への出務に関しては約半数がしたくないと回答し、58.7%が医師会の決まりで仕方なく出務していると答えた。子どもの初期救急医療は誰が担当すべきかの質問に対して、小児科医が理想と答えた割合が61.0%で、多くの非小児科専門医はこれ以上子どもの診療はできないと考えていた。
同じく日本救急医学会名簿から無作為に抽出した208名の救急医に対する調査の結果によると、3/4の施設で小児救急が実施されていたが、救急外来で小児内科の診療を行っている回答者は30%であった。また87%の救急医が小児の診療に際し何らかの不安を感じ、約70%の救急医が小児救急医療は小児科標榜医が行うべきであると考えていた。44%の救急医がマンパワー不足を指摘し、現状以上の小児患者の受け入れが可能と言う回答は12%に過ぎなかった。
2.小児救急医療支援事業について
平成11年度から実施された小児救急医療支援事業の実施状況について、全国自治体、日本小児科医会、日本小児科学会地方会を対象に調査し、問題点の指摘と今後の方向性について検討を行った。47都道府県12政令指定都市の合計59の自治体にアンケート調査を行い49(回収率83.1%)の回答を得たところ、本事業を実施したのは8自治体(16.3%)、二次医療県では23医療圏(全国355圏中の6.5%)であった。実施が可能だった理由として、①以前より地域の救急医療体制が検討されていたこと、②小児科医の中に調整役がいること、③輪番体制の中心となる施設があることなどが挙げられた。こうした地域では、実施により体制が明確になったことで、実施前に比較して患者及び医療施設の双方で無駄や混乱がなくなった点が評価された。一方、実施できなかった地域では①小児科医不足、②小児科を標榜する病院が少ない、基幹病院がすでに救急を行っている、③小児医療の不採算性などが主な理由であった。
全国の43地方会にアンケートを送付し28地方会(回収率65.1%)から回答を得た結果によると、本事業の開始を知っていたのは51.9%と情報伝達が不十分であった。小児救急医療体制の現状に関しその厳しさを認識している地方会は81.5%と高かったが、小児科医会は41.8%と低く、二次救急に関しては基本的に病院小児科の問題であることがこの差になっているものと考えられた。地方会の立場からの小児救急医療への提言では、17地方会から大変熱心で真摯な意見が寄せられ、この問題に対する関心の深さを感じさせた。小児科医の絶対数不足、小児医療の不採算性についての意見が多かったが、小児救急医療体制を構築する上で地方会の役割についての提言も見られた。
結論
初期小児救急の担い手に関する検討では、過半数の地域で現状の小児救急医療体制が厳しい状況に陥っていることが本研究によっても明らかとなった。その主な理由は小児科医不足と小児科不採算の問題である。しかし、小児初期救急医療において、非小児科専門医の協力を仰ぐことは、小児医療の特殊性などの面から難しく、やはり小児科標榜医による対応が望まれているという結果になった。今後は現状の小児科医マンパワーの有効活用のため、地域輪番の確立や小児診療報酬の見直し等の条件整備が課題である。しかし、一部の非小児科医で小児診療の希望者に対しては、小児科トレーニングプログラムを開発し研修を実施することで人材確保を行うべきである。その際に研修補助金についても検討すべきだと考える。
次に小児救急医療支援事業の実施状況に関してであるが、初年度ということもあって事業の意図が医療サイドに充分理解されておらず、実施率が低かったことが課題である。したがって、今後はより積極的に事業に関する情報を普及させる努力を要する。事業の効果に関してみると、固定輪番の基幹病院と周辺の病院小児科を輪番病院として組み合わせることで、小児科医のマンパワーを効率的に活用し小児救急患者の一極集中を回避できる例が示された。このモデルケースを全国的に拡大すれば、医療、行政、そして住民にとっても多大な利益となる。もし一医療圏での実施が困難であれば、広域医療圏で行うことも可能である。病院輪番以外によるマンパワーの活用案としては、まず現時点で小児科医を標榜している医者に対し、時間帯によって医療費に差額をつけ、準夜帯における診療施設の参加数を増やすことが一点。もう一点は健康保険医に対し在宅当番医制度への参加義務化を検討することである。後者に関しては医療法の改正に関する検討も必要である。

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