医療計画の評価に関する研究

文献情報

文献番号
199900933A
報告書区分
総括
研究課題名
医療計画の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
  • 川村治子(杏林大学)
  • 工藤裕子(早稲田大学)
  • 高本和彦(国立医療・病院管理研究所)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部)
  • 久保内智子(国立医療・病院管理研究所)
  • 藤田尚(板橋中央総合病院)
  • 松本邦愛(国立医療・病院管理研究所)
  • 近藤久禎(国立医療・病院管理研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
19,915,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各県で地域医療計画が策定され始めてから10余年を越し、後数年で第3回の改定の時期を迎えようとしている。医療計画が目標とした病床数の適正化は一定の成果を収め、かつ、その他の医療資源も充実した。しかし、介護保険制度の成立や健康日本21計画の開始とともに日本の医療供給体制の現状と背景は大きく様変わりしてきている。医療計画当初の政策課題からは大きく変わっているといえよう。このような状況下で、確保された医療資源を有効的効率的に使って行くためにも、医療の機能は一旦分化し、そしてもう一度連携することが強く求められている。日本の医療供給体制は、外来と入院、一次と二次・三次機能、長期と急性期、医療機能と福祉機能、薬局と医療機関の機能が未分化である。これらの背景や現状を踏まえて、医療計画の諸側面を総合的且つ系統的に評価することにより都道府県の医療計画策定を支援するとともに、今後の医療計画の在り方の検討を行うことを目的とする。
研究方法
1.社会学的評価1)法律的分析 医療計画に関連する医療法、通知、各都道府県の実際の計画を法学的側面から分析した。2)研究の文献的レビュー 1977年から2000年までの医療計画の評価に関する論文をJICSTや医学中央雑誌を用いて抽出し、文献を検索し、さらにその文献に現れる主要なキーワードを抽出し、キーワードマトリックス分析を行った。個別の論文については1977年から医療法成立までの1985年、1986年から2000年までの2時期に分けて分析した。評価のレベルとしては政策レベル、方法・技術論レベル、および結果レベルで分析を行った。3)他分野での計画との比較 医療計画と類似の行政が関与し、かつ専門性を要する計画として都市計画を取り上げ、特に都市計画の国際的な動向を文献的に考察し、医療計画との相違を浮き彫りにした。4)国際比較研究 日本が当初参考としたアメリカの地域医療計画を行政学的ならびに戦略的計画法の観点から歴史的に分析した。2.必要病床数の算定1)一般病床 患者調査1979年から1996年まで3年ごとのデータを用い、年齢階級を5歳階級ごともしくは10歳階級ごとに10階級に分類し、性年齢階級の人口10万人あたりの入院回数と平均在院日数を別途に算出し、対数近似から2010年の予想を年間入院回数ならびに平均在院日数を算出して人口に掛け合わせ入院患者数を推定した。2)長期療養病床 患者調査入院票1996年より老人及び療養病床さらに3ヶ月以上入院者を、老人保健施設、特養入所者を社会福祉施設調査1996年から、在宅分は国民生活基礎調査1995年から県別に算出した。3)精神病床 精神病床についてはうつ病、アルコール依存症、覚せい剤依存症について文献的検索による発症数、有病数の検討、ならびに患者調査の総患者数の分析法により、入院患者数ならびに有病者数の推計を行った。3.公平性の研究1)公平性の概念文化、哲学的手法を用いて、日本の公平性概念に関する歴史的な変遷、ならびに経済における公平性の検証、そして経済、教育、健康について歴史的にその変化をジニ係数等により、県別の格差を分析することにより、健康の基本概念の検討を行った。2)所得別健康格差の研究1995年の国民生活基礎調査を用い、その世帯票より所得を、個人票より健康状態を抽出し、治療を要する症状の発症頻度を取得し、所得階級を10に分けて受診率を算出した。3)地域格差の研究県別レベルとの所得格差と傷
病数並びに入院回数に関する研究の分析を、県民所得、国民生活基礎調査、患者調査から抽出し、性・年齢階級で調整してその相関をみた。4.医療に関する効率性・経済性の分析1)若年者医療費の供給要因分析 二次医療圏及び県レベルで65歳以下の医療費を国民健康保険から若年者の医療費を用いて抽出し、説明変数を医療機器、病床数、医師数、地域の課税対象所得額、1Km2あたりの病院数など従来医療費に影響を与えると考えられる諸変数で多変量解析を行った。2)老人医療費の供給要因分析 同様に、老人医療費について国民健康保険の費用から抽出し、説明変数は若年者と同様の変数を用い、二次医療圏並びに県別の多変量解析を行った。3)病床数規制が入院医療費に与えた影響―都道府県パネルデータを活用した分析 若年者と老年者を分けて、都道府県レベルで全2論文と同様の医療費並びに説明変数を抽出し、1983年から96年まで3年毎、5点に渡って変数を抽出し、パネルの多変量解析によってこれらの変数がどのように医療費に影響を与えるかを分析した。さらに時期をそれぞれ3区間に分けて、それぞれの影響を分析した。5.医療機器に関する分析1)医療機器に関する公平性と効率性の分析1990年と1996年の医療施設調査の個票を用い、公平性の指標としては二次医療県単位としての医療機器の存在数、効率性に関しては機器1当たりの使用頻度を病床の規模別に集計した。2)病院システム医療機器の分析 薬事工業生産動態統計と医療施設調査を用いて、日本の医療機器が病院にいかに普及をしてきたかを歴史的に分析した。3)日本における高額医療機器普及の歴史と現状医療施設調査から全身用CTの保有数を抽出し、1971年から96年の保有数を抽出し、また医療機器システム白書から累計出荷数を抽出し、その差を廃棄分と定義して、医療費に関連した資産・資本、キャピタルコストの分析を行った。4)医療機器の評価前回の研究に引き続き、社会保険病院の診療科の医長に国立病院医長に配布したものと同じアンケートを配布し、診療科毎の治療技術及び医療機器を二次医療圏に複数、二次医療圏に一つ、三次医療圏に一つ、8地方に一つ、国に一つの順位の元にあらまほしき台数を選択してもらい、平均値を集計した。これらの平均値を国立病院医長を対象に行った前調査と比較検討し、それらの機器の高度性を評価した。
結果と考察
1.医療計画の社会学的評価に関する研究1)法律的側面からの研究 戦後の医療法以来、一次、二次、三次改正にとどまっている医療法の法律的意味合いは変化しつつある。法律的には、保険医療機関の指定が契約上の行為であることを前提に、遵守しなければ指定しないということで契約拒否手法をリンクさせているが、解釈上の疑義が存在する。また形式的には団体に義務をとっているが、医療法第30条4の厚生大臣の助言に見られるように国が思想的な原理を示す内容が多く、実質的には委任契約的な内容を有し、地方自治推進の妨げとなる可能性もはらんでいることが判明した。2)地域医療計画をめぐる文献検討からの評価分析 まず222文献のうち、論評・解説114、実証定量分析が61、事例報告が27、意見等が21であり、論者が病院管理学等の研究者が半数。病院の医師が4分の1、残りは行政官であった。数も1985年をピークにその後減少し、近年ではあまり医療計画自身の分析論文は認められない。前期の論文が抽象的議論があり、修正議論並びに反対論が中心であったのに比して、近年具体的な医療計画の影響や逆に必要性を論じた論文が増えている。3)都市計画とその変遷 ヨーロッパ的文脈での計画論はヨーロッパ的文脈では都市計画のプランニングの危機がいわれて久しい。近代化の中の公私の利害の矛盾、専門家と市民の意識のずれがその原因と考えられるが、近年プランニング自身の概念の変化と共に戦略的な計画が提案されている。その累計としてシステム論、企業経営、ネットワークがその3累計と提案され、近年双方向コミュニケーションを中心とするネットワーク型のプランニングが推奨されてり、医療にも応用可能と考える。4)地域医療計画の役割と行政戦略計画・アメリカの医療計
画の国際比較 日本が手本としたアメリカの地域医療計画は、1974年から連邦政府の法律として州によるCertificated-of-Needを義務化したものである。米国の場合は、病床及び医療機器や技術の規制を同時に行った。1987年にはこの禁止が独占法に禁止するとして撤廃されたが、現在も多くの州では医療機器の規制だけは継続している。今日、CONのアプローチは不成功であったという認識が一般的ではあるが、その失敗の原因が理念や概念の誤りか手法の誤りか政治的コミットメントの欠如かについては、研究者の間で意見の一致を見ていない。多くの研究者は手法や理念に誤りがあったと指摘しており、実際に計画に携わっていたデイビッド・ヘルムズ氏によると、多くの地域で条件を欠いていたことがその原因と指摘している。一方、近年、医療の質が課題となるともう一度、地域医療計画を結果マネジメントの手法として位置づける可能性が検討されている。米国では政府全体に、行政的な戦略計画の必要性が提唱され、古典的な規制の方法論を新たな政府の役割に置き換えて実行することの可能性が示唆されている。2.必要病床数に関する分析1)一般病床の将来必要推計 2010年における入院患者数は入院を1カ月以内に入院患者に限ると、30.03万人、3カ月以内になると70.71万人で、今日の必要病床数を大きく下回っている。入院回数は人口の老齢化と共に増加している一方、平均在院日数は近年の減少傾向を対数で普遍すると短くなっており、高齢化による回数の増加を上回って減少しているので、大きく減少した推計となっている。2)長期病床長期病床は15.54万人が在宅で、21.88万人が特別養護老人ホームで、13.40万人が老人保健施設、残りの39.92万人が病院に収容されている。各県の病院における長期病床ばらつきを分析すると、相対的には特養や老健の収容率の多い施設ほど少ない傾向が認められた。これらの知見は老人病院ホーム代替説を示唆するものである。3)精神疾患の必要病床数の算定 精神疾患の必要病床数を算定するにはその有病率を分析する必要がある。うつ病、アルコール依存症、覚せい剤依存症の有病者数。しかし米国のNIHの有病率と比較すると二桁の違いが存在している。その原因はうつ病患者が医療機関を受診しないという可能性も示唆される。アルコール依存症については2.6万人で、一般には1日5合以上の飲酒のアルコール依存症が220万人と推計されるので、治療を受けているアルコール依存症の患者は極めて少ないということができる。覚せい剤依存症については、厚生省の調査では覚せい剤依存症の入院患者は600-700人とされている。しかし一般の有病率を用いると、10-15万人が覚せい剤依存症とされ、治療を受けているのは極めて少ない。これらの分析により、覚せい剤やアルコールの依存症の治療者は現状より少ないため、必要病床数は多いと考えられる。今日疾病像の変化と共に精神分裂病の患者の平均在院日数が低下し、従って必要病床数が低下しているのに比して、うつ病や依存症の必要病床数は増加していると考えられる。一般に精神分裂病の場合の診療の人材投入は依存症よりも少なくても済むことから、今後は人材の厚い精神疾患病棟の運営が求められている。3.公平性の評価1)日本文化から見た公平さ・公正さ 日本は一般に公平な社会と考えられ、過程のプロセスを追求する西洋と比較して結果の公平さが求められる社会といわれている。その歴史文化的なルートは文化人類学者・中根千恵らによると、縦社会の構造、すなわち水田耕作における村落の人間関係に由来していると考えられる。村落共同体における同一性が日本的公平さの原点といえるのではなかろうか。2)日本の所得格差と地域間格差の長期的動向 ジニ係数で日本の所得格差を測定すると、日本は決して所得においては公平な社会ではなく、米国とほぼ同様で、北欧や東欧より大きい。しかし教育や医療における平等性は経済とは異なっている。3)健康と公正―日本における死亡の地域格差の変遷 1999年のデータを用いて、日本の小児死亡率、新生児死亡、乳児死亡、5歳未満死亡を、沖縄を除く47都道府県で算
出し、ジニ係数を用いて、その県別ばらつきを分析した。すると1924年まで、24年から45年まで、51年から54年まで、55年から65年まで、65年から84年まで、85年から95年までの6期に分類され、1期は増加、2期以降は減少、6期には減少の鈍化が認められる。しかし県間格差は近年に近づくに従って低下し、子供の死亡率の平等化が認められた。4)健康教育・経済から見た地域格差の歴史的変遷 経済的には現実のごとく地域格差が大きかったが、教育、次いで健康において不平等性が改善されている。特に平均寿命は1920年代には47都道府県間でひどいバラツキがあり、男女の格差があったが、1995年にはバラツキが少なくなり、女性の平均寿命が高くなっている。5)所得階級からみた健康の公平性の分析 診療を必要とする傷病の保有率は低所得者層に多く、所得が多くなるに従って改善されている。一方、実際にそれらの人々のうち、実際に診療を受けた人の割合は低所得者層で高く、第3階級でよくなって、それ以上では再び多くなっている。このことから日本は医療へのアクセスビリティが高く、公平性の高い社会と言うことができる。6)地域における日本の公平性 県レベルの傷病の保有率は県民所得当たりとの相関をとると、男性の場合には女性に比して強い負の相関を認めた。女性に関してはほとんど相関を認めなかった。このことから県民所得が低い地域ほど一般に疾病の保有率が高いことが考えられるが、退院回数との相関を見ると、県民所得が高いほど低く、比較的貧困な地域においても入院が保証されていることが認められた。4.経済効率ならびに経済性の分析1)若年者医療費の供給要因分析 二次医療圏単位で若年者との相関が深かったのは、病床数、医師数、医療機器の評価、価値額が共に有意の差を示した。しかしその中でも入院医療費では、病床数が最も強い相関を示し、次いで医師数、そして医療機器が認められた。外来医療費では病床数は相関を認めず、医師並びに医療機器で高い相関を示している。2)老人医療費の供給要因分析 老人医療費の場合は若人に比して、入院医療費はさらに病床数と強い相関を認め、外来医療費においても病床数との相関が認められた。さらに外来医療費では医療機器との強い相関が認められた。これらのデータを用いて都道府県レベルでパネル分析を用いた結果、若年医療費で病床数が最も強い相関を示し、次いで医療機器、そして医師数の順であった。老人医療費では病床数がさらに強い相関を示し、医療機器との相関は認められなかった。これらの結果から、若年層、老年層共に病床数が強い影響を与えることが示唆されたが、若年層では医療機器、医師数が次いで関係が深いと認められた。3)医療機器に関する分析 90年と96年の変動係数の変化を見ると、デジタルラジオグラフィを除いて90年より変動係数が低下しており、バラツキが低下していることが示唆される。従って医療計画導入後、アクセスアビリティが改善されたことが示唆される。一方、病床規模別に、種々の医療機器の使用頻度を見ると、一般に300床までは使用頻度は低く、300床を超えるとフラットになる傾向が認められ、小規模病院においては医療機器があまり使用されず、非効率であることが示唆された。4)病院システムと医療機器 医療施設調査による時系列分析によると、70年代後半から医療機器が普及し始め、特に80年代後半、全国に普及していったことが認められる。OECD諸国と比較しても、日本は米国に並んで医療機器の普及率が高い。改めて医療機器の計画的な配備の必要性が示唆される。5)日本における高額医療機器普及の歴史と現状 CTの耐用年数に関して、日本におけるCTの平均耐用月数を計算したところ、106.88ヶ月となった。これは約9年ということであり、日本においてCTは約9年で廃棄処分になっていることが分かる。さらに、CTの現在の資産価値については、CTの耐用年数を9年として定額法によって減価償却費を推定した結果をもとにCTの現在の資産価値を計算したところ、日本国内におけるCTの資産は着実に積み上がってきていることが判明した。一方、一年の減価償却費はここ数年
一定となっており、CT資産の原価の寄与度は一定であることが分かった。6)医療機器・技術のエキスパートオピニオンによる評価 社会保険庁病院の診療科の評価は順位において、前年度に行われた国立病院医長に対する調査と同様の結果を示した。二次医療圏を人口規模から二次医療圏に複数を10の4.5乗、二次医療圏に一つを10の5.5、三次医療圏、県レベルを10の6.5、地方レベルを10の7.5、国レベルを8.5とし、その乗数の平均値をとった。結果、6以上の医療技術や機器が高度なものと考えられる。これらによって得た評価は地域医療計画によって得た医療技術や医療機器の高度性を示唆すると共に、病院の機能評価の方法としても使えると考えられる。
結論
地域医療計画は多分野や国際的かつ国内の研究の評価によると開始当初の目的を終え、その有効性にも問題があり、新たな方法的な変化が求められている。アメリカの地域医療計画やヨーロッパの都市計画の分析から企業で使われてきた戦略計画を政府戦略計画として応用することの展望が示唆される。必要病床数の再計算でも、高齢社会の本格的突入と医療実践パターンの変化と共に一般・長期・精神共算定方法や捉え方に大きな変化が必要と考えられる。また、医療システムの結果の評価として、公平性の課題が重要で、概念的な整理と実際上の測定が課題であり、日本は比較的公平と分析された。経済的な分析では、種々の分析、特にパネル分析によって病床が供給を生んでいる可能性が強く示唆された。今年度は医療機器を取り上げ、その普及度や効率性、有効性を検証した。日本の場合、病院の未分化性の問題点が浮き彫りとなった。次年度はシステムの産出の評価に焦点を移して研究を行う。

公開日・更新日

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