歯科医師の資質向上を目指した臨床研修の必修化及び国家試験の実技能力判定の整備等に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199900932A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科医師の資質向上を目指した臨床研修の必修化及び国家試験の実技能力判定の整備等に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中原 泉(歯科医療研修振興財団)
研究分担者(所属機関)
  • 住友雅人(日本歯科大学歯学部)
  • 真柳秀昭(東北大学歯学部)
  • 井上宏(大阪歯科大学)
  • 櫻井薫(東京歯科大学)
  • 吉澤信夫(山形大学医学部)
  • 岩久正明(新潟大学歯学部)
  • 俣木志朗(東京医科歯科大学歯学部)
  • 久光久(昭和大学歯学部)
  • 道健一(昭和大学歯学部)
  • 作田正義(大阪大学歯学部)
  • 齋藤毅(日本大学歯学部)
  • 川添堯彬(大阪歯科大学)
  • 花田晃治(新潟大学歯学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臨床研修の必修化の実施に当たっては、臨床研修の目標(研修プログラム等)、研修実施方法、研修内容、臨床研修修了の評価基準・仕組み、研修施設などが整備される必要があるため、その基盤となる叩き台を整備し、構築しなければならない。本年度はそれらについての実態調査を目的とした。また、歯科医師国家試験も社会の変遷に対応して次々と改善されているが、最近では技術評価を導入する必要性が強く要請されている。そこで、技術評価を導入するために検討の一環として、技術研修に利用されている媒体と評価項目ならびに評価基準を調査することを目的とした。
研究方法
歯科医師臨床研修の実態調査:歯科学生に対する臨床研修必修化に対する意識調査を行った。平成10年度歯科医師臨床研修修了者に対するアンケート調査における処置項目の評価を、臨床研修1年間修了時での達成度についての5段階の自己評価法で調査した。現在、30の従たる施設との複合研修方式を実施している日本歯科大学歯学部附属病院の平成11年度臨床研修医41名に、おのおのの研修先での4ヵ月間の診療収入を自己申告していただいた。到達目標の見直しおよび標準プログラムの作成に関してのアンケートによる実態調査では、平成11年に開催された第5、6回歯科医師臨床研修指導医講習会における、複合研修方式の従たる施設の参加者を対象とした。加えて全国29歯科大学・大学歯学部の同窓会宛に、ポストグラデュエートコース等を担当されている一般開業医の先生方に、アンケート調査票を依頼した。本研究の研修到達目標の見直しや新たに作成する研修プログラムの参考とすべく、平成11年度までに公表されている資料等を極力収集し、分析した。保険診療における平均的診療項目頻度の実態を把握する目的で、1歯科診療所における平均的保険診療の内容から診療頻度を算出した。臨床研修修了の評価の基準・仕組み・評価マニュアルの検討を行うため、全国の29歯科大学・大学歯学部附属病院ならびに医学部附属病院歯科口腔外科に、現在使用中の臨床研修プログラム、研修記録、研修手帳、研修評価表、研修修了報告書を依頼した。そして第三者評価に関連し、研修施設の現状を明らかにし問題点を分析するためにアンケート調査を行った。国家試験の実技能力判定に関する研究では全国の歯科大学または歯学部に対し、実習設備、使用器具、基礎実習内容、臨床実習の内容についてアンケート調査を行った。
結果と考察
4、5学年の歯科学生に対するアンケート調査の結果、この制度の詳しい情報がほしいとする意見が多かった。これは義務が法制化されれば、各大学とも認識し、学生への説明が十分なされると思われる。また身分、給与の保証を求める声も多かった。義務となれば、平均初任給に近い給与保証が必要になる。6学年のカリキュラムの中で、現在の臨床研修制度で目指しているレベルの習得を希望する学生も多かった。平成10年度臨床研修医の76%は、歯科大学もしくは歯学部附属病院で臨床研修を行っていた。義務化に際しては、厚生省が新規参入歯科医師の80%を、これらの施設で引き受けるのが望ましいとしており、この結果では、80%は困難な目標と思われる。したがって病院歯科もしくは複合研修方式による診療所での受け入れ人数を増加させ
なければならない。処置項目の達成度は、多くの臨床研修医の受け入れ施設となる歯科大学附属病院や複合研修方式での達成度が低いことや約26%の研修修了者が現行の具体的目標を知らなかったり、約34%が手直しが必要であると回答していることから、具体的目標の見直しが必要である。研修カリキュラムの統一によって、診療収入の差は少なくなってくると思われるが、外来中心の歯科での必修化に際しては、国家財源の確保が何としても必要である。到達目標の見直しおよび標準プログラムの作成については、縦割りの講義による知識を臨床に役立てるための統合化が必要である。各大学間における卒前臨床実習の到達度に大きな差があることが、標準プログラム作成において最も大きな問題となっている。社会構造の変化、国民の歯科医療ニーズに応えるため、より専門的な技術能力を持つ歯科医師の育成が望まれているので、研修プログラム中にもオプションとして専門分野を選択できるような工夫も必要であろう。歯科臨床研修制度の一年目は、生涯研修のスタートとして位置づけ、自己学習の習慣を身につけることを目的とする必要がある。臨床研修修了の評価基準・仕組みに関する研究については、歯科大学・歯学部における臨床研修の評価に関する資料の分析結果では各大学でプログラムや評価法についてほとんど統一性が見られず、評価法が不明であったり明確に示されていないものも多く見られた。医学部附属病院歯科口腔外科における歯科医師臨床研修の評価に関する調査結果では、いまだに評価様式を模索中もしくは採用できずにいる施設も少なくない。複合研修方式、主たる施設、従たる施設などの用語の再検討も必要である。研修医の募集方法の中で、非公募とある歯科医療機関の理由を検討する必要がある。研修医の採用方法について、現在行われている方法で十分かどうかの疑問がある。研修歯科医用ユニット数など必ずしも実態が把握できたとはいいがたく、追加調査が必要である。常勤歯科衛生士・技工士を、研修カリキュラムの中にどのように組み入れるかなども今後の調査の対象になる。施設が指導上十分なレベルを維持しているかについて、指定基準と第三者による定期的評価の必要性が検討されねばならない。卒直後の歯科医の臨床教育のために十分な機能を持ちながら、申請の手続きの煩雑さなどのために申請を見合わせている施設の実態を調査する必要がある。国家試験の実技能力判定に関する研究では、実習施設の面積、実習媒体の数については既卒者分も含めて十分な設備が保有されているが、実技試験を実施するためには使用する機器等の規格の統一や実技項目に関する内容面の妥当性と評価の客観性に関する検討が必要である。
結論
歯科大学・歯学部4、5学年2,062名を対象としたアンケート調査の結果は、制度の目的が十分理解されていないので、その方略の構築をしなければならない。平成10年度の臨床研修修了者の調査では、76%の方々が歯科医師臨床研修制度は有意義であったと答えた。また、診療収入を主とした給与保証は難しく、国家財源を中心とした給与体制を構築しなければならない。卒後臨床研修では卒前臨床研修よりも一歩前進したプログラムを作成することが基本となる。そして総合治療計画に基づく歯科臨床技能を養うことが求められる。加えて、研修プログラム中にもオプションとして専門分野を選択できるような工夫も必要である。歯科臨床研修制度の一年目は、生涯研修のスタートとして位置づける。歯科大学・歯学部附属病院および医学部附属病院歯科口腔外科における歯科医師臨床研修の評価法には統一性が見られず、かつまた評価法が確定していない施設も少なかった。臨床研修施設の実態調査の結果から、第三者評価の必要性を認めた。国家試験に実技試験を導入するためには、器具や器材の統一化、既卒者の受け入れ、実習項目の調整が必要であると考えられた。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)