医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
199900931A
報告書区分
総括
研究課題名
医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
川村 治子(杏林大学 保健学部)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川敏彦(国立医療病院管理研究所)
  • 原田悦子(法政大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大量の看護のヒヤリ・ハット事例を分析し、エラーや事故の発生要因を具体的に明らかにし、現場や医療関連メーカーの事故防止対策に貢献する。さらにヒューマンエラーに関する研究者(認知工学、ヒューマンファクター、安全心理学)や産業事故防止に関する実務者の研究メンバーとの検討により、医療と産業現場の違いを明らかにし、産業事故防止の応用範囲と新たな医療事故防止モデルの研究の必要性について明らかにする。
研究方法
ヒヤリ・ハット事例は全国777施設(300床以上の一般病院と一部精神病院)の看護部長宛に協力を依頼し、応諾を得た218施設から看護業務に関する11,000事例を2ヶ月間で収集した。本研究は発生頻度などの疫学的研究を目的とせず、発生要因の定性的分析に主眼を置いていることから、体験期間を限定せず、患者背景と発生状況に関して詳細な自由記載を求めた。こうした事例検討に加えて、実際の看護現場を17時間にわたってビデオ撮影を行い、看護業務と周辺状況について検討した。
結果と考察
事例の領域別内わけは、転倒転落を代表とする療養上の世話関連が31%、医師の診療の補助業務関連が61%で、後者の約3/4が与薬(内服と注射)で、全事例の約47%を占めていた。中でも注射事例は全体の31%を占めた。注射事例のうち分析可能な2,800事例を注射業務6プロセス(A.医師の指示 B.指示受け~申し送り C.注射準備(混注など)D.実施 E.対象患者 F.実施後の観察・管理)とエラー6内容(①患者、②投与薬剤 ③投与量 ④投与方法 ⑤投与速度 ⑥その他)からなる36のマトリックスに整理した。その定量的分析結果では、患者エラーが全体の37%(その90%以上がD.実施段階)、薬剤エラー24%(2/3がC.準備段階)、量エラー12%(2/3がC.準備段階)、速度エラー12%(1/2がD.実施段階(医療用ポンプの操作時))であった。 一方、各マトリックス毎に事例の自由記載の内容から発生要因に関して定性的分析を行い、171項目の具体的な発生状況・要因を明らかにしマップ化した(「与薬エラー発生要因マップ:注射編」の作成)。さらにそれらを集約して、①情報伝達の混乱、②エラーを誘発する「モノ」のデザイン、③患者誤認を誘発する患者の類似性、同時進行性、④業務途中の中断 ⑤不明確な注射準備区分と狭隘な作業空間 ⑥時間切迫、⑦薬剤知識の不足 ⑧急性期医療へ対応困難な新人の知識・技術)の8要因を主たる注射エラー発生要因として挙げ、組織、組織以上のレベルでの事故防止対策のあり方について考察した。
①情報伝達の混乱に対し、手書き伝票を媒体とする情報伝達では、正確さに限界があり、病院情報システムの普及の必要性が示唆された。②「モノ」のデザインの類似性・不統一性では、メーカーでの薬剤・機器のデザイン設計の改善、行政認可の段階でのチェック、院内では新規薬剤採用時のエラー誘発性からの検討が必要と思われた。③患者誤認対策には、自動認識機器の導入を検討すべきと思われた。また、⑤業務途中の中断では、医療業務と事務業務の分担が必要で、④注射準備区分や狭隘な空間に関しては、作業手順の改善、作業室の拡大、レイアウトの改善が必要と思われた。⑥時間切迫では、業務密度・量と労働力ンバランスの是正がマネジメント上重要と思われた。⑦薬剤知識不足は、看護婦と薬剤師の与薬業務の分担と協調、危険な薬剤知識の院内研修が重要と思われた。最後に、⑧の卒前教育の問題では、卒前・卒直後教育システムの改善や事故防止の教育ツールの開発の必要性が示唆された。
結論
ヒューマンエラーに関する研究者や産業事故防止実務経験者を交えて、注射業務に関する看護のヒヤリハット2,800事例を業務プロセスとエラー内容から分析し、171の具体的なエラー発生要因を明らかにし、「与薬エラー発生要因マップ:注射編」を作成した。さらにこれらの要因を集約し、主たる8要因(①情報伝達の混乱、②エラーを誘発する「モノ」のデザイン、③患者誤認を誘発する患者の類似性、同時進行性、④業務途中の中断 ⑤不明確な注射準備区分と狭隘な作業空間 ⑥時間切迫、⑦薬剤知識の不足⑧急性期医療へ対応困難な新人の知識・技術)を挙げ、組織および組織レベル以上での事故防止対策について検討した。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)