保健医療情報モデルの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900930A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療情報モデルの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 豊田建(国際医療福祉大学)
  • 岡田美保子(川崎医療福祉大学)
  • 坂本憲広(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
情報システム分析に用いられるオブジェクト指向モデリング手法、すなわち情報システムや社会システムを構成する構成要素(組織、期間、人、機会、システムなど:主体という)とその関係およびその間の情報の役割を整理し「モデル」として表現する手法を用いて、日本の医療と医療情報システムにおける情報の役割を分析することによって、保健医療において役割を果たす主体(行政機関、医療機関、医療提供者、患者、家族、地域社会、医療情報システムなど)の抽出とそれらの相互関係の分析とそれにもとづく情報モデルの構築を行ない、広汎かつ妥当な日本の保健医療情報モデルを構築し供することを目的とする。
研究方法
研究対象を、1)日本の保健医療システムのモデリング、2)保健医療領域において集積される情報のデータモデリング、3)保健医療情報分野の情報処理システムのモデリング、4)保健医療情報システム間の情報交換モデリング、の4カテゴリーに分けて分担し研究を進めた。それぞれにおける方法は初年度は以下のように行った。
1)欧米の保健医療モデルの現状調査と相互比較を行う。それをもとに日本の保健医療システムのモデリングを進める上でのアプローチ上の問題点を整理する。2)保健医療におけるドメイン(構成領域)を設定し、そのうちのひとつのドメインを対象として分析を行い、モデリングの基礎となるデータ辞書作成を行う。3)オブジェクトモデリングの手法を適用し、現在の医療情報システムの利用場面をユースケースとして一定様式で記述し、それをUML(統一モデリング記述言語)で記述することを試みる。そのために必要な記述方式の開発と記述支援ツールの開発を行う。4)外来・入院における診療をユースケースとし、情報システム間のデータ交換のサービス機能の分析とモデリングを試みる。
結果と考察
1)保健医療システムのモデルの調査にあたっては、次の3つの既存モデルが調査対象として有用と考えられた。英国のモデルHcMは、モデリングの技法として構造化技法の1つであるSSADMを用いてNHS(National Health Service)が構築し発表したものである。オーストラリアのモデルNHIMは、オブジェクト志向型技法を用いてAustralian Institute of Health and Welfareが1998年にVersion 2.0を発表した。カナダのモデルは、これらのモデルを参考にして、Canadian Institute for Health Informationが構築し1999年6月にDraftとして発表したものである。これらのモデルの比較をするにあたり直接3つのモデルを比較するのは、手法と観点の違いから困難であった。3つの中で中間的な位置を占めるHcMとNHIMの比較では、HcMでのLevel1と2はObject、Percept、Conceptのように非常に高い抽象的なLevelであり、オーストラリアのLevel1は英国のLevel3に相当することがわかった。欧米の医療モデルの比較では、3つのモデルはその構築の目的やモデルを利用する対象が異なっており、そのため相互の関係を理解するのは困難であり、これらをもとにして日本のシステムをモデル化できるかは今後の分析が必要である。
2)医療情報の共有化については、二つのレベルを明確に区別する必要があると考えられた。1つは直接的な診療行為の支援を目的とする情報の共有化である。もう1つのレベルとして、疫学や医学研究における利用や、国・地方自治体による医療行政のための利用に代表される二次利用適な情報共有の在り方がある。前者は診療現場のユースケースと密接に関係し、いわゆる電子カルテや診療情報交換の場面での情報共有モデルに関係するものである。したがって、別の分担者の対象とオーバーラップするレベルと考えられた。そこで、ここでは後者のレベルを対象として、実際に二次的に情報交換される例として各種の統計報告や帳票を対象として、そこに用いられているデータ項目の洗い出しと整理、分析を行い、データ要素辞書をまず構築することが妥当であるとの結論に達した。更に、データ要素辞書の開発においては、XMLを用いてデータ要素を記述する方法を採用し、データ要素は、現在は単純に目次から閲覧するのが妥当という結論になった。これらの結果にもとづき、データ辞書も試作とWWWでの閲覧可能なデータベース化を行った。今後、更に実用的に意味のあるデータモデルの開発を進めることが必要であるが、モデル開発は一方向に進むものではなく、ドメインを記述する情報の入力、データ要素の特定、モデル化の間を行き来する作業であると考えられた。
3)ユースケースの記述形式として、保健福祉医療分野の様々な要求を取り入れ、独自にユースケースの記述形式を考案し、XUC (eXtended Use Case)と名付けた。さらに、ユースケース記述言語XUCを用いて、保健福祉医療ドメインのユースケースを関連するドメインエキスパートが記述しやすくするために、ユースケース作成支援ツールを開発した。次に開発したツールを用いて、医療情報のセキュリティ要求に関する要求モデルを構築したが、ワープロを用いて作成するのに比較して、容易にかつ短時間で正確なユースケースを作成することができることが分かった。また、作成した16のユースケースには、類似した機能や、ユースケース同士が関連するものもあったが、そうした情報の管理も自動的に行えて、多数のユースケースの作成管理には、非常に有効であるとともに、必須のツールであることが実感された。
4)日常診療におけるユースケースの分析を現状の病院情報システムのおけるシステム機能の振る舞いと利用者との関係分析を行い、前述のデータモデルに適用できる15個以上のクラスからなる情報交換サービスモデルを構築した。具体的には、1)電子カルテサービスクラス、2)患者情報サービスクラス、3)カルテサービスクラス、4)受診記録サービスクラス、5)診察記録サービスクラス、6)オーダ情報サービスクラス、7)検査オーダ情報サービスクラスなどが含まれた。このモデル構築過程において、異なるベンダーの電子カルテシステムにおいては標準的なAPIを定義する必要があり、その基礎となるモデルが必要で、今回得られたサービスモデルを発展させることによち、そのモデルとなることが示唆された。
結論
保健医療システムのモデル化については、欧米3つのモデルも対応比較が困難なことがわかった。保健医療情報の利用においては、1次利用レベルと2次利用レベルを分離してモデル化を進める必要がある。そして、それぞれにおいて利用されるデータ項目辞書を整備することが、実体関係モデル構築に先立つ重要な基盤である。一方、医療情報システムのモデル化においては、ユースケースの記述方式とその記述ツールが開発され、試用することができた。また、情報システム間のデータ交換サービス機能の視点から15のサービスクラスが抽出された。今後、これらをさらに発展させ、統合していく必要がある。

公開日・更新日

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