中毒発生時におけるインターネットを活用した中毒原因物質同定のための情報提供体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
199900929A
報告書区分
総括
研究課題名
中毒発生時におけるインターネットを活用した中毒原因物質同定のための情報提供体制の構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
屋敷 幹雄(広島大学医学部法医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 吉岡敏治(大阪府立病院救急診療科)
  • 福本眞理子(北里大学薬学部臨床薬学研究センター)
  • 奈女良昭(広島大学医学部法医学講座)
  • 植木真琴(三菱化学BCLドーピング検査室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬毒物による中毒事件が発生した際、日本中毒情報センターにおいて中毒起因物質の推定や治療法の情報を得る一方、厚生省が平成10年度予算で高度救命救急センターおよび各都道府県の救命救急センターに配備した分析機器により中毒起因物質を特定(同定)して治療に役立てることができる。本研究は如何にすれば中毒起因物質の解明に貢献できるかについて以下の5項目について検討した。
①診断補助システムの再構築と中毒起因物質別専門家データベースの追加登録及びその利用方法の検討   
②インターネットを利用した分析評価システムの構築
③分析情報提供システムの構築
④簡易スクリーニング法の整備および同定・定量法の整備
⑤中毒起因物質の同定・定量法の整備
研究方法
①臨床症状および異常臨床検査結果を入力することにより、中毒起因物質を対話式で推定するシステムである。今年度は、対象とした毒物・劇物75物質群(488種類)全てについて、臨床症状83項目(約500の臨床症状を83項目に集約した)と異常臨床検査値40項目(約120の異常臨床検査結果を40に集約した)に0~9点を配し、重み付けを行った。
②ヒト血清に薬毒物を添加した試料を配布し、原因不明の中毒が発生したと仮定して、実際に配備された分析機器を使用し、模擬的な薬毒物検査(薬毒物検査トライアル)を実施した。すなわち、実際に起こった薬物による中毒例を参考にして、以下の3つの血清試料を冷凍状態で配った。・)未知試料:血清1mlあたりペントバルビタールを8μg/mlとなるように調整したもの。・)標準試料:血清にペントバルビタール、セコバルビタール、フェノバルビタールをそれぞれ5μg/mlとなるように調整したもの。・)ブランク:血清のみで薬物を添加しないもの。ただし、・)の血清試料は未知物質を混入したとして、添加した薬物名を伏せて、薬物名と定量値を求めた。
③23項目の基本情報データ(中毒物質名、一般英名、一般和名、別名、CAS-RN、示性式、構造式、分子量、UV吸収毒性など)を収集し、基本情報データシートに整理した。
④分析対象薬毒物は、科警研報告や日本中毒情報センターへの受信状況などの資料を参考とした。簡易検査法や機器分析法は、広島大学医学部法医学教室において、実際に薬毒物分析に使用し、実用に耐えうると考えられる方法をリストアップした。
⑤諸外国の代表的薬毒物検査ラボラトリー品質規格である国家検査機関認定プログラム(アメリカ薬物乱用研究所)、米国臨床病理医協会薬毒物学認定基準(アメリカCAP)、豪州試験所認定協会(オーストラリアNATA)、国際標準化機構試験所認定規格(ISO/IECガイド25)、IOCドーピング検査所認定基準(国際オリンピック委員会医事規程)などを参考に、海外の薬毒物検査の品質基準を調査し、中毒起因物質検索の品質指針素案を示した。
結果と考察
①正答・誤答数(症状の有無)のみによって中毒起因物質の推定を行っていた昨年度のシステムでは、少数項目の入力では同一順位となっていた中毒起因物質も、明らかな順位付けがされるようになった。さらに、特異性の高い異常臨床検査値を入力することにより、はっきりと一つの物質への絞り込みができるようになった。なお、絞り込まれた中毒物質の毒性や治療法などは日本中毒情報センターの保有するオリジナルファイルを同システム上で、one touch 参照できるようにした。
②薬毒物検査トライアルに参加した分析者は、42名であり、39名より何らかの検査結果が返送されてきた。予めヒト血清に添加した薬毒物を同定・定量できた分析者は20名(51.2%)であった。また、薬毒物を推定できなかった分析者も7名いた。薬毒物を同定・定量するにはそれぞれ化合物の標準品が必要であるが、標準品を入手することは困難な状態である。また、分析にかかる費用を保険によりまかなうことができれば検査依頼件数が増し、分析体制の充実が図れるものと考える。検査結果を集計した資料などを参加者に配布する際、インターネットが利用できる環境にある者は25名であり、他の参加者にはファクシミリと郵送手段を用いた。中毒情報ネットワークを充実させるには、各施設のインターネットが利用できる環境にしなければならない。
③検索者は、中毒物質名を入力することにより、その概要(毒性、体内動態、構造式)、基本情報(pH, 溶解性、UV吸収等)、可能な分析方法一覧、分析文献リストと抄録を随時検索することができるデータベースを構築した。これから分析を始めようとする人に基礎的な分析情報を提供できるようになった。
④薬毒物の同定・定量法として、20種類の薬毒物群(アルコール類、一酸化炭素、シンナー、石油成分、アセトアミノフェン、オピエート類、覚せい剤、コカイン、三環系および四環系抗うつ薬類、バルビツール酸類、ブロムワレリル尿素、ベンゾジアゼピン類、有機リン系農薬、カーバメート系農薬、酸アミド系農薬、フグ毒、キョウチクトウ、チョウセンアサガオ、銀杏)をマニュアル化した。これらの化合物は中毒例が多く、長年、広島大学医学部法医学教室で鑑定に用いてきた分析法である。死体や生体試料中の薬毒物の分析には欠かすことのできない情報である。
⑤確認分析では分析結果の信頼性は高いが人的エラーの入り込む余地もあり、スクリーニングに置き換わるものではなく、相補的に専門機関などで熟練者が実施して行く形態が想定される。このような検査システムにより迅速かつ正確な検査情報の提供が可能となる。また、既知の分析データベースを利用して起因物質を検索するライブラリーサーチにより、検索の範囲と時間を大幅に効率化することができるが、その成否はひとえにライブラリーへ登録するデータの品質と、実際に検索を行う分析データとライブラリーとのトレーサビリティーに依存している。検査機器が配備された全国救命救急センターの一層の強化を計る上で、以上の各点についての情報提供・支援が必要である。
結論
中毒起因物質の検査体制の裾野を広げ、今後発生が危惧される大規模化学災害や薬毒物中毒事例への迅速な対応を図るうえで、診断システムや分析方法データベースの充実、薬毒物分析の訓練、さらに海外のシステムを参考に継続的に国内の検査実施機関への情報提供を行い、中毒情報(分析)ネットワークの充実を図っていくことが必要と考える。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)