電子診療録の医療連携への応用と普及における問題点の検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900927A
報告書区分
総括
研究課題名
電子診療録の医療連携への応用と普及における問題点の検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 昌範(国立国際医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中村靖彦(博愛医院・新宿区医師会)
  • 加藤正一(東京厚生年金病院)
  • 中山健児(なかやまクリニック・新宿区医師会)
  • 高梨一雄(矢来クリニック)
  • 執行友成(医療法人執行クリニック)
  • 田中 博(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
包括的地域ケアの要となる地域医療システムを運用する際、運用組織作りや患者のプライバシ保護のための運用指針を作成することが重要であると考えられる。本研究により、病院、診療所の連携による医療の分業、一般病院と長期療養型病院の連携による医療・福祉の一貫性の確保、2次医療圏における患者カルテの共有化(1患者/1カルテ/1地域)を促進することが予想される。運用する上で、診療情報をどこの病院からでも閲覧、参照を可能にする事ためには、保険証番号と家族内個人識別番号の組み合わせにより、1患者1カルテを実現する。
研究方法
研究は、1)患者のプライバシー保護のためのネットワークや情報技術や運用面を中心に検討するセキュリティ研究、2)利用者の立場からの利便性の検討、3)効率的医療のための高度情報ネットワークに関する研究、に分担される。
1)患者のプライバシー保護のためのセキュリティに関する検討
地域医療支援病院と医師会館の間は専用線を用いたクローズドなネットワークを利用しているが、診療所と医師会館の間はデジタル公衆回線を利用する。回線には登録された電話番号間のみでしか通信できない様に設定する他、暗号化や認証の技術を用いて、患者のプライバシー保護を図る。暗号化と認証は一般的なWWWの技術を用いても、利用できるように開発し、使いやすい環境を開発する予定である。初年度は専用ソフトの使用と運用指針を定め、分担研究者施設間の運用を図り、次年度にはWWWなどの普遍的な技術を導入し、異機種間の運用を目指す。最終的には、医療の情報化に普遍的に寄与できるインターネット上でセキュリティを保持した情報基盤技術の確立を目指すものとする。また、最終年度では、実地臨床に利用する際の汎用的な運用指針の作成も目指す。
2)利用者の立場からの利便性や運用面での検討
実際に利用する医療従事者達からみた問題点や改善点を検討する必要がある。初年度、次年度、最終年度と技術的および運用面での検討を受けて、利用者の立場からの検討を行い、導入後に定着するための普及・啓蒙活動へと広げる予定である。
3)効率的医療のための高度情報ネットワークに関する研究
実験的に医療系のバックボーンとして省際ネットワーク(IMnet)を使い、各地域の実験拠点を接続し、VPN(Virtual Private Network)により仮想的に閉じたネットワークの実験をこのオープンなインターネットを使い全国規模で行う。
結果と考察
1)患者のプライバシー保護のためのセキュリティに関する検討
診療所と医師会館の間のデジタル公衆回線を利用した通信における暗号化や認証の実証実験を行った。暗号化と認証は一般的なWWWの技術を用いても、利用できるように開発し、使いやすい環境を開発した。統合型セキュリティ通信規格(ISCL: Integrated Secure Communication Layer Protocols)と呼ばれるこの規格は、共通鍵暗号を用いて3Pass4Way認証を行うことで、セキュリティを担保している。本システムでは、この技術を採用した。診療所と医師会間は公衆回線を使用するため、ハッカーやクラッカーなどによる盗聴、改ざんなどが起り得るために、暗号化や電子認証といった技術を用いた。初年度は、各診療所向けの専用ソフトで分担研究者施設間の運用を始めた。このシステムにおいて、安全性に現時点では問題は出ていない。今後はWWWなどの普遍的な技術を導入し、異機種間の運用を目指す。
2)利用者の立場からの利便性や運用面での検討
1)の検討は利用者ではなく、専門家集団による技術的および運用面での研究を行うが、実際に利用する医療従事者達からみた問題点や改善点を検討する必要がある。診療所の医師側からの利便性を検討すると、本年度は72歳、77歳と高齢の医師でも使用可能なことが実証された。また、月一回の講習会を開催し、普及啓発に努めた。一方、支援病院側では、国立国際医療センターに院内システムが整備されており、各外来や各病棟で使用できるため、連携に支障を来さなかったが、東京厚生年金病院では、院内LANがなく、病診連携室でしか使用できないことから、利便性に問題があることが指摘された。院内のオーダリングシステムが未整備であるため、本システムを院内ネットワーク型の電子カルテシステムの必要性が指摘された。今後、導入後に定着するための普及・啓蒙活動へと広げる予定である。
3)効率的医療のための高度情報ネットワークに関する研究
実験的に医療系のバックボーンとしてIMnetを使い、各地域の実験拠点を接続し、VPN(Virtual Private Network)により仮想的に閉じたネットワークの実験をこのオープンなインターネットを使い、安定性、セキュリティなどを検証し、実証実験を行った。とくに、現在使用されているIP(IPv4)で爆発的に利用が進んでいるNAT/IP masquaradeとよばれるアドレス変換技術は、その仕組み上VPN(Virtual Private Network)、およびIPsecと呼ばれる技術と相性が悪く、ネットワークの設計をシンプルにすることを阻んでいる。また、IPv4上で実装されているIPsecのシステムは現状ではまだまだ高価であり、広く普及を目指すシステムの為にはコストダウンが待たれる。本年度は、NORTH(北海道地域ネットワーク協議会)において、IPv6の実証実験を行い、運用可能なことが分かった。
本システムにより、病院、診療所の連携による医療の分業、一般病院と長期療養型病院の連携による医療・福祉の一貫性の確保、二次医療圏における患者カルテの共有化(1患者/1カルテ/1地域)を促進することが予想される。また、かかりつけ医制度の普及、同一地域での医療の重複を省くことによる医療費の抑制、同時併用薬の相互作用による薬害の予防、1患者/1カルテ/1地域の実現による患者の利便性の向上、情報の一元化による災害時の医療行為の円滑化を図ることが可能になった。これにより、包括的地域ケアの要となる地域医療の仕組みを、わが国ではじめて構築することを目指している。また、災害時には、救援物資や薬剤の在庫、各避難所の避難者名簿などの情報を提供し、災害時のパニックの抑制や救援物資の適切な配分を実施することが可能となる。また、避難所として利用される学校にTV電話を設置することで、避難所同士の情報交換が可能となり、避難生活における物資の融通やボランティアの適切な配置が容易になる。学校に設置されるWWWサーバは、災害時の情報発信の場となるように設計している。一方、病病連携・病診連携に利用する場合、相手の医師は外来にいるときに連絡してくるとは限らない。外来以外にも、病棟や手術室、検査室、医局等で、紹介を受けられるシステムが求められる。したがって、地域医療支援病院には院内においてネットワーク型の電子カルテシステムが必要になってくることが指摘された。それを、実現化するためは、施設内での患者ID管理の一元化と共に施設間でもID番号を一元化することが必要であり、統一化されたID管理体系が必要となる。新宿区では、医師会事務局で保険書番号を拡張して、1患者1IDとした。さらに、各施設の医師のアクセス権限管理なども、事務局で行うこととした。その上で、中核病院と医師会事務局間は専用回線で結び、診療所と事務局間は公衆回線を使用した。公衆回線の部分は、ISCLというセキュリティ技術を用いることにより、プライバシー保護に対応した。このシステムの構築によって、単一の地域医師会を越えて、第二次医療圏の各医師会の連携のもとに活用され、より一層の医療機能の分担と連携を図り、良質な医療の提供が可能になる。
結論
近年、医療の世界も患者の人権を尊重するQOL重視の考えが浸透してきている。これまで閉鎖的であった医療情報も情報公開が進み、患者サイドに医療情報を理解してもらう努力もなされなければならない。周知のように、カルテ開示の法制度化は見送られたが、厚生省の検討会や日本医師会から報告書が出され、すでに一部の期間では現実化している。今後、新宿区のように地域単位での電子カルテシステムを構築することによって、1患者/1カルテ/1地域という試みが増えてくるであろう。インターネットの技術を応用することにより、全国レベルの連動や、医療・福祉・介護の統合や災害システム、教育システムとも連動させることが可能である。このように、地域医療において、電子カルテは情報ネットワークと併用することで「情報の共有」という面で、大きな役割を果たすと思われる。その「情報の共有」は、医療に限る必要はなく、新宿区の取り組みのように、連動するものが多いほど効果は大きく、ハードウェア面での共有もでき費用対効果も大きくなることが期待される。このことは、カルテ開示の動きにも貢献でき、セキュリティ対策さえ解決すれば、各家庭から自分のカルテを閲覧することも可能になるであろう。セキュリティを維持するためには、技術的な対策と運用面での対策の両面が備わっていなければならないが、ネットワークの分野における守秘義務の問題は技術面ではほぼ解決されている。その一方で、運用面に関しては、利用者側の情報リテラシーの問題があって、情報漏洩の危険が皆無とはいえない。新宿区医師会では、本システム専用の委員会で、運用するための運用指針を定め、漏洩のないように努めているが、全国レベルでの指針が必要になると考えられる。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)