新技術媒体を利用した医療等に関する情報の提供と利用の現状分析についての研究

文献情報

文献番号
199900925A
報告書区分
総括
研究課題名
新技術媒体を利用した医療等に関する情報の提供と利用の現状分析についての研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大櫛 陽一(東海大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 辰巳治之(札幌医科大学医学部)
  • 春木康男(東海大学医学部)
  • 岡田好一(東海大学医学部)
  • 田中忠一(神奈川県医師会)
  • 遠藤郁夫(神奈川県医師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、インターネットをはじめとする新技術媒体を利用した医療情報の提供についての現状を把握し、近い将来における情報提供手段として活用する際の問題点を明確にすることを目的に行った。その背景には、開かれた医療を目指し医療情報公開の必要性が認識されてきていること、それを支える社会的基盤の一つとしてインターネット等の新技術媒体が注目・期待されていること、医療施設側がこの要求に応えるためには支援を必要としていること等がある。本研究の成果は新技術媒体を医療情報提供の手段として有効に活用するためのガイドライン策定の基礎資料となる。これにより医療に関する広く正確な情報が入手可能になれば、患者にとって医療機関や医療技術を選択する際の指針となり、医療の質の向上が期待される。
研究方法
(1) 国内外のホームページ上で提供されている医療情報内容についての調査を実施した。対象は、日本、アメリカ合衆国、イギリス、オーストラリアの主要ポータルサイトの「健康と医学(Health)」から直接リンクをたどれる無料利用が可能なページとした。国内の医療機関のうち516施設のホームページについては、複数の専門医による評価も行った。(2) 医師のインターネット利用による医療情報公開についての意識調査を行った。対象者は市販の医師名簿から無作為に抽出した5,680人とし、郵送法による質問紙調査を実施した。質問項目はインターネット上で公開してもよいと考える情報内容、インターネットの利用状況等とした。(3) 患者のインターネット利用による医療情報公開についての意識調査を行った。対象者を研究協力者の所属する医療機関に通院または入院中の患者あるいはその家族1,842名として、質問紙調査を実施した。質問項目はインターネット上で公開を希望する情報内容、インターネット利用状況等とした。
結果と考察
(1) 医療関係ホームページの現状調査の結果、アメリカ合衆国では、医療機関名、所在地、電話番号、診療科名等の基本的な情報以外に、代表的な病気についての平均治療・在院日数や平均的な治療費の総額、専門とする病気についての治療・手術等の実施数および成功率、医療機関の収入・利益額、第三者機関による病院評価の結果等が一覧できる医療機関リストに容易にアクセスできた。また、医師個人の情報も、出身大学・卒業年を含め公開されていた。日本を含めた他の国では、ポータルサイトから直接リンクをたどる簡便な方法では、医療機関に関する基本的な情報のみが入手可能であった。国内の医療情報サイトの評価では、8%が「やや問題あり」、1%が「問題あり」とされ、利用者によい影響を与えると評価されたものが44%、悪い影響を与えるとされたものが2%であった。
(2) 医師アンケートの結果、病院・診療所の名称、電話番号、所在地、診療科名、診療(休診)日、診療時間については30%以上の医療機関が既にインターネット上に公開しており、公開してもよいと答えた医療機関を含めると、これらの項目については回答者の90%以上が公開に同意していた。質問した55項目中、過半数の医師が公開に同意したのは51項目であった。過半数の医師が公開を認めなかったのは、医療機関の医業収益・利益額、代表的な病気についての平均治療日数(通院日数)、代表的な病気についての平均的な治療費の総額、第三者機関による病院評価の結果の4項目であった。医師自身の情報についての質問8項目では、70%以上の回答者が、特に専門とする分野、学会認定医、出身大学、学位、卒後年数、理解できる外国語について公開を認めた。過半数の医師が公開を拒否したのは、自宅住所及び自宅電話番号の2項目であった。医療機関の情報公開によって患者が期待できる利点として、78%の医師は医療機関の選択に役立つと、また70%の医師は医療機関へ行きやすくなると答えた。患者が自分の病気についての情報を得ることにより、医師患者関係はどう変化すると思うかの問に対し、患者の自己決定権がより活かされるようになると答えた医師が62%、共有できる情報が増え、より信頼関係が増すと考える医師は59%であった。
(3) 患者アンケートの結果、過半数の患者が公開を求めている医療機関についての情報は、患者・家族への病気の説明、診察・診断・治療に関する事項、診療時間、診療(休診)日、診療科名、医療機関の名称、所在地、電話番号であった。医師に関する情報では、医師が特に専門とする分野、診療科目、氏名であった。医療機関の情報公開によって期待できる利点として、65%の患者は医療機関の選択に役立つ、また60%の患者は医療機関へ行きやすくなると答えた。インターネットによる医療機関情報の利用価値については、かなり高いとした患者が15%、やや高い39%、高くない46%であった。
アメリカ合衆国では、医療機関や医師に関する様々な情報がインターネット上で公開されている。一方、日本ではインターネット上で既に公開されている情報は、医療機関の名称、所在地、電話番号、診療科名等の基本的なものに限られている場合が殆どである。今回の調査の結果、医師の過半数は所属する医療機関に関する情報のうち多くの項目を公開してもよいと考えており、インターネット利用者、若い医師、規模の大きい施設・個人以外が開設した医療機関に所属する医師は、さらに広い範囲の情報公開を認めていた。患者側は、医師の過半数が公開を認めなかった、代表的な病気についての平均治療日数(通院日数)、代表的な病気についての平均的な治療費の総額、第三者機関による病院評価の結果といった、より多くの情報の公開を望んではいるが、一方プライベートな情報に関しては、知りたいとする回答者は少数であった。
患者は医療機関に関する情報を得ることにより利益を受けることを期待しており、医師側も情報公開により、患者にとっての利点があることを認めている。情報公開のための媒体として、医師側は現時点ではインターネットを有効利用しいているとはいえないが、患者はインターネットで提供される情報を重要視している。
以上のことから、インターネットによる医療情報の公開は、今後さらに進む可能性は大きい。ただ、現状の国内医療施設のホームページでは、優れた情報が容易にアクセス可能な方法で提供されているものがある一方、内容に問題があると考えられるものも存在しており、この点に関しては何らかの対策は必要であろう。
結論
インターネット等の新技術媒体を利用した医療情報公開については、各方面からの意見を集約して適切なガイドラインを定めることが必要である。また、現状では医療提供側、利用者側とも、新技術媒体を十分に利用しているとはいえず、情報が活用される方向に持っていくことも必要である。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)