マネジドケアにおける医療システムの経営管理技法の導入効果に関する研究

文献情報

文献番号
199900924A
報告書区分
総括
研究課題名
マネジドケアにおける医療システムの経営管理技法の導入効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小山 秀夫(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 島津望(国際医療福祉大学医療福祉学部)
  • 筒井孝子(国立公衆衛生院、国立医療・病院管理研究所)
  • 杉山みち子(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,940,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
欧米で注目を集めているマネジドケアは、最近もその動向が各方面で注目されており、論文も数多く発表されている。本研究は、マネジドケアという観点から、医療システムにとって最適な経営管理手法を構築することを目的とする。本研究は、①医療システムにおける経営管理手法は、医療機関全体にとって重要な課題であり、医療部門、看護部門等セクション別の評価をいかに統合するかの検討が必要であること、②医療システム全体で単一の経営管理手法が決定されるのではなく、それぞれの医療施設の特性にあった手法によって実施されるべきであること、③医療経営の評価は明確なものでなければならず第三者による評価が必要であること、の3点を踏まえて実施した。また、各分担研究者は、クリティカルパスを使用した患者への情報提供のあり方に関する組織的対応の必要性を明らかにすること(島津)、一般急性期病床内の入院患者に対してのケアの難易度及び門性に着目した業務標準化指標を開発することに資する資料の収集とその要因の分析(筒井)、病院平均在院日数の短縮に資する栄養管理システムの構築(杉山)であった。
研究方法
研究方法については、医療における経営管理手法について、産業分野における経営管理手法の把握と医療で活用されている経営管理手法に関する文献検索、医療の質の指標となりうるクリニカル・インディケーターの検討(小山)、文献レビュー実施後に看護婦220名、患者135名に対する自己記入式アンケート調査の実施(島津)、研究委員会による入院患者に対するケアの難易度等の検討(筒井)、米国における栄養管理マネジメント技法の発展の歴史的展開、管理技法の導入、医療経済的評価についての文献検索(杉山)であった。
結果と考察
小山は、「医療技術評価研究会」を15回にわたって開催し、産業界における経営管理手法、医療の質、EBM(Evidence Based Medicine)のそれぞれの整理と、クリニカルインディケーターの開発を行った。その結果、EBMには科学的根拠に基づく臨床ガイドラインや疾病管理の活用で経営管理手法の確立が望まれ、クリニカルインディケーターにおいては、その指標の信頼性や妥当性の検証を行う必要があることを明らかとした。
島津は、クリティカル・パスの活用目的の一つであると言われている患者へ情報提供することで患者の治療過程への参加意識の向上という情報提供の側面において、情報と知覚コントロールに関する心理学理論、情報と状況適応に関するマネジメント理論についての文献レビューと、大阪の私立総合病院において統計調査を行った。その結果、文献レビューにより、医療提供者とそれを受ける側との間に、情報の授受が行われていること、またそのあり方が、両者の間のストレス増減に関係することを示唆するものであるという結論を得た。また統計調査により、患者と看護婦の意見が多くの点で食い違いをみせており、情報をめぐっての患者の不満と看護婦の役割葛藤の姿が浮かび上がった。これより、患者側からの医療評価を向上させるためには、情報の2側面、すなわち静的情報と動的情報の違いを患者の視点から捉え直す必要があり、また看護婦が患者との関係を効果的に取り結ぶためには、情報創造サイクルにしたがって情報収集体系を組織的に作り直し、これに沿った教育体系を整備する必要があることがわかった。           
筒井は、一般急性期病床内の入院患者に対してのケアの難易度および専門性に着目した。業務標準化指標の開発に資する資料を収集し、ケアの難易度やケアの専門性を規定している要因を検討することを目的に研究を行った。標準化を行う際に必要と考えられる看護における難易度、その業務を行なう専門性についての取り組みが多く行われているアメリカ合衆国でも現在も様々な評価システムの構築の試みが報告されているが、いずれもまだ蓄積がなく、情報不足のため、その内容についての評価判断は行われていない状況である。わが国においては、わが国の実態に合った実証的な研究が必要であることがわかった。
杉山は、マネジドケアの先進国である米国における栄養管理マネジメント技法の発展の歴史的経過、管理技法の導入、医療経済的評価についての文献研究を行った。その結果、これまで行ってきた高齢患者の低栄養状態改善を有効に推進するための Nutrition Care and Management(NCM)のシステム化のための研究結果もふまえ、一連のNCMを病院に導入するにあたっては、CQI技法にもとづいて、病院内栄養部門をはじめとした専門家スタッフ参加型の業務改善を推進しながらシステム化していく必要があること、またCQI手法の活用法について確認することができた。
結論
日本の医療にマネジドケア体制が導入されることを前提として、最適な品質管理手法を構築することを目的とした本年度の研究結果の結論として以下のことが明らかになった。
1(小山) EBMは、専門職の経験・技量と、入手可能な時点における最良の科学的根拠を統合し、患者の価値観を組み込んで、保健医療上の問題を解決する意志決定の方法である。最前線の医療において、科学的根拠に基づくCPGやDMの開発と利用可能な経営管理手法の確立が望まれる。
2(小山) 医療の質の向上のための指標であるクリニカル・インディケーターに対し、その指標の信頼性と妥当性の検証を行う必要がある。信頼性とは、危険性のあるすべての事例のどれほどを同定しているかの信頼性であり、再テスト信頼性と評価者間信頼性があげられる。妥当性とは、レビューする事柄がどの程度質を反映しているかである。
3(島津) 患者情報は静的情報というよりも動的情報であり、患者側からの医療評価を向上させるためには、情報の二側面、すなわち静的情報と動的情報の違いを患者の視点から捉え直す必要がある。また、看護婦が患者との関係を効果的に取り結ぶためには、情報創造サイクルに従って情報収集体系を組織的に作り直し、これに沿った教育体系を整備する必要があることが判明した。
4(筒井) わが国では米国のように看護業務の標準化が行われておらず、米国の先行研究を参考にしながら試行錯誤を続けているという状況であるが、今後は看護評価システムの現場での妥当性や有効性について、わが国の実態にあった実証的な研究が必要である。5(杉山) 栄養スクリーニング、栄養アセスメント、栄養ケアプラン、モニタリング、評価などの栄養管理技法に関する研究は、わが国の医療の質とコストの効率化に寄与するものである。CQI手法に基づいて、病院内栄養部門を初めとした専門家スタッフ参加型の業務改善をシステム化していく必要性がある。
6(全体) 本年度における課題に基づき、今後モデル病院において実施可能性研究を行う予定である。モデル病院で実施・評価することにより、①現場における医療評価等に対する問題点・疑問点の明確化とその解決策の提示、②医療システムにおける適切で効果的な経営管理手法を構築すること夜、現場における混乱の解消、③的確な対応による医療改革実行時における経済的影響への対応につなげることを検討する必要があると考える。

公開日・更新日

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