リハビリテーション看護の専門性確立のための看護援助分析

文献情報

文献番号
199900922A
報告書区分
総括
研究課題名
リハビリテーション看護の専門性確立のための看護援助分析
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
野々村 典子(茨城県立医療大学保健医療学部)
研究分担者(所属機関)
  • 奥宮曉子(茨城県立医療大学保健医療学部)
  • 宮腰由紀子(茨城県立医療大学保健医療学部)
  • 土屋陽子(茨城県立医療大学保健医療学部)
  • 石鍋圭子(東京都リハビリテーション病院)
  • 川波公香(東京慈恵会医科大学)
  • 吉田真季(野村総合研究所リサーチコンサルティング部門)
  • 小林幸子(茨城県立医療大学附属病院)
  • 石川ふみよ(東京都立保健科学大学)
  • 山田京子(東京都リハビリテーション病院)
  • 斎藤みちよ(群馬松嶺福祉短期大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リハビリテーション看護の専門性、独自性を明確にするために、看護援助分析を中心に本研究を行った。
研究方法
1)スタッフナース全国調査:リハビリテーション看護の専門性・独自性、看護活動実施度及び卒後研修必要度に関する自記式質問紙を作成した。調査対象は、昨年度調査協力の得られた94施設のうち承諾の得られた、55施設の看護婦とした。そして施設毎に調査対象分の質問紙を1999年9月28日に一括送付した。回収は個別郵送とし、同年10月15日までの返送分を今回の分析対象とした。
2)看護活動調査:1999年11月の5日間についてリハビリテーション専門病院に勤務する5年以上のリハビリテーション看護経験者を対象に参加観察法による質的調査を行った。調査方法として、調査員が対象ナースに付き添い、患者に対する看護行為を遂一記録し、終了後に簡単なインタビューを行った。調査員は、看護経験の5年以上の6名で、予備調査で観察の統一性を計り、本調査では2名の調査員が30分交代で調査に当った。
3)看護基礎教育調査:専門的講義が基礎看護教育段階の学生に与える影響について、学生が抱く「障害」のイメージと、態度・行動の変化について調査した。調査目的は、看護学生が「障害」という語から想起する具体的な障害のイメージと障害状況への態度・行動が、リハビリテーション看護の授業によりどのような影響を受けるかを明らかにし、看護教育における専門看護の方向性を探ることである。対象及び方法は、某医療系大学看護学科3年生の、リハビリテーション看護(30時間)講義開始前と終了時に、障害に対するイメージや看護の役割などについて自由記載回答の質問(9項目)と、知識・態度・行動に関する選択肢回答型質問(10項目)を自記式集合調査で行った。イメージの結果は、学生が記載した表現を主な障害種別(肢体不自由、身体障害、視覚障害、聴覚障害、知覚障害、感覚障害、言語障害、精神障害、知的障害、先天異常、脳性麻痺、内部障害、その他)に分類し、自由記載回答はキーワードによって集計した。
4)本研究の分析はEXCEL97(Microsoft社製)を用いてデータ入力及び集計し、検定を行った。
結果と考察
1)スタッフナース全国調査: 55の協力施設の概要は、総合リハビリテーション施設基準をとっている施設が49であり、リハビリテーション専門ベッドを持っている施設が44施設であった。
調査の目的は、リハビリテーション看護の専門性確立のための基礎資料として、全国リハビリテーション関連病院の一般看護婦を対象に、身体障害者に対するリハビリテーション看護の役割、機能についての認識を明らかにすることである。調査方法は、平成10年度に「リハビリテーション」をキーワードに全国病院名鑑1998年版から169施設を抽出し、その施設長へ調査協力依頼書を送付し、調査協力の得られた94施設に対し、平成11年度の調査とし一般看護婦への調査協力を依頼した。協力の得られた55施設に対し合計1167通の調査票を依頼し、個別郵送による回収を行った。本研究でスタッフナース(一般看護婦)とは管理職ではない看護婦を言う。
調査票は、平成10年度の看護管理者等を対象とした質問紙調査を基に作成した。内容は、リハビリテーション看護の専門性への意識、チーム内における看護婦の役割に加え、リハビリテーション看護及び卒後研究の必要度・実施度について9カテゴリー45項目である。調査期間は、1999年9月28日から同年10月15日とし、その間に回収された看護婦927名の調査票を分析対象とした。回答者のリハビリテーション看護経験年数は3年未満が38.1%、3.0年から4.9年が11.8%、5.0年から9.9年が21.9%、10.0年から14.9年までが9.9%、15年以上が6.7%、経験無しが5.7%、無回答が5.9%であった。
現在、勤務している病院でのリハビリテーションチーム内で担っている看護の役割について(複数回答)は、上位5位が、「病棟でのADL指導」55.1%、「事故防止、環境整備」47.5%、「職種間の連絡調整」40.1%、「全身管理」39.5%、「ADL実施の動機づけ」37.6%であった。
リハビリテーションチームの一員としての役割を十分に果たすために必要な事項の上位3位は、「ADL、介護指導」52.9%、「退院後のケア調整」38.3%、「心理的なサポート」29.5%であった。
次にリハビリテーション看護の実施内容を9つのカテゴリーで提示し、実施度から結果を見ると、平均スコアによると実施度が高かった内容は、「入院環境の整備」、「セルフケアの確立促進」、「職種間の連絡調整」であった。また、経験年数別の研修の必要度では、「職種間の連絡調整」においてリハビリテーション経験年数3年未満の者が必要度の平均が高く、次いで5年から7年未満の者であった。(P<0.005で有意差有り)。他の項目では有意差はみられなかった。
2)看護活動調査:観察された場面を遂語記録に起こし、研究者らの討論にかけて看護行為を分類し、リハビリテーション専門病院において、ナースが患者のセルフケア確立にむけてどのような看護行為を行っているか明らかにした。
観察された場面は、①日常生活活動(以下、ADL)の介助・指導、②患者と付き合う、③状態、観察、測定、④装具に関するやりとり、⑤家族との対応、⑥与薬、に分類された。 これら①~⑥の場面は、装具に関することを除いてはリハビリテーション看護に独自の場面とは言えないが、その展開に一般病棟との違いが見られ、特にADLにかかわる場面では大きな違いがあった。
ADL以外の関わりの場面展開では、調査病棟には痴呆の患者やコミュニケーション障害の患者が多く、彼らとのやりとりにも時間が割かれていた。また、装具を用いている患者とのやりとりにおいて、立位・加重の装具合わせの方法をナースが知っていることが分かった。更に、家族との対応では、患者のADL介助に家族が同席して一緒に、あるいは家族のみでケアする場面が良く見られた。また、外泊中の様子や、住宅改造の進展状況を聞く場面が見られた。
リハビリテーション看護の専門性はこれらの行為を患者-看護婦関係の中でお互いの五感を、双方向に対応させ確認しあいながら展開されるという点にあるといえよう。
3).看護基礎教育調査:学生47人における授業前調査では「障害」という語で最初にイメージする具体的障害の第1位は、「肢体不自由」(40.4%)でついで「身体障害」(21.3%)「視覚障害」(17%)であった。更に、2番目に想起する具体的障害では「視覚障害」(27.7%)が最も多く、次いで「聴覚・言語障害」(19.1%)「肢体不自由」など感覚器障害で44.8%を占めた。しかし、何れの場合でも、内部障害を表現する言語の抽出はできなかった。看護学生は、内部障害を『障害』というよりも『疾患』として認識していると推測される。
授業前後の両方の回答を得られた17人については、障害者に対する態度・行動の授業前後の比較を行った。その結果、授業後の態度の目立った変化としては、“車椅子の人への関わり"で「何かお手伝い出来ることはないか聞いて見て、依頼されたことを手伝う」が講義前の70.6%から講義後には88.2%へと増加していた。また、“地域に障害者施設が出来ること"については「障害者施設ができることはいいことだと思う」が授業前の76.5%から、授業前も94.1%へと多くなる、などの変化を確認できた。授業後における学生の態度・行動は、何れも、より肯定的に変化していた。
結論
平成11年度の本研究の結果、確認できたことは、以下に記した通りである。
1.スタッフナース全国調査から
1)スタッフナースが考えるリハビリテーションチーム内における看護の役割は、「病棟でのADL指導」「事故防止、環境整備」「職種間の連絡調整」「全身管理」「ADL実施の動機づけ」の順で優先度が高かった。
2)リハビリテーションチームの一員としての役割を十分に果たすために必要なことの項目の上位3位は、「ADL、介護指導」「退院後のケア調整」「心理的なサポート」についてであった。
2.看護活動調査から
リハビリテーション専門病院の看護婦が患者のセルフケア確立のために行っている看護行為として、日常生活活動の介助・指導が最も多く観察された。一般病棟との違いは、絶えず頻回の言葉かけがなされ、その過程に生活の再獲得のために主体性を尊重する態度が多く見られたことである。また、多様なコミュニケーション方法を用い、家庭をチームの一員として処遇していたことに特徴が見られた。
3.看護基礎教育調査から
学生が「リハビリテーション看護」の授業前に障害に対して抱いていたイメージは、「肢体不自由」が最も多く、「身体障害」を合わせると約6割を占めていた。また、「リハビリテーション看護」の授業を受講することにより、学生の障害者に対する態度・行動に変化が見られ、授業の影響が示唆された。

公開日・更新日

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