臨床倫理の実践システムに関する研究 - 効果的に運用するための基盤(職員の意識,ツール,ガイドライン,組織)の整備 -

文献情報

文献番号
199900921A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床倫理の実践システムに関する研究 - 効果的に運用するための基盤(職員の意識,ツール,ガイドライン,組織)の整備 -
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
濱口 恵子(医療法人 東札幌病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療従事者は,日常の医療・ケアを行う上で様々な意思決定を行っており,医療の質をあげるためには,医療の科学性(EBM)と倫理性を配慮することが求められる.そこで,本研究において臨床倫理を取り上げた.今年度(研究2年目)は,昨年度の結果をふまえて以下のことを研究目的とした.①臨床倫理に関する本研究1年目の活動を通して職員の意識の変化を明らかにすること,②臨床現場で患者の情報を整理・分析し倫理的問題を同定するためのツールとして「Jonsenらの臨床倫理を検討する4つの枠組み」を提示し,その運用を試みたことに対して,ツールの有用性と問題点を検討すること,③臨床倫理委員会が作成したセデーションガイドラインが臨床現場でどのようにとらえられているのかを検討すること,及び臨床現場で生じる頻度が比較的高かったインフォームド・コンセント(以下IC)に関するガイドラインを作成すること.
研究方法
①臨床倫理及び臨床倫理委員会(以下委員会)に関する職員の意識調査の対象者は,H病院の全職員(平成10年度は222名、平成11年度は勤続2年目以上の166名)を対象者とし,平成10年度と11年度に同じ質問紙を用いてアンケート調査を行い,結果を年度間及び,職種間,看護婦・士の経験年数間で,χ2検定,Man-Whitney及びKruskal-Wallisの順位和検定を用いて比較した.
②-1)「Jonsenらの臨床倫理を検討する4つの枠組み(以下「4つの枠組み」)」に関する職員の意識調査は,H病院の医師及び看護婦・士の全員130名を対象に,「4つの枠組み」の使用経験、活用しようと思った理由、使いやすさの程度などに関する質問紙を作成しアンケート調査を行った.なお、「4つの枠組み」とは「医学的適応(Medical Indication)」「患者の意向(Patient Preferences)」「QOL」「周囲の状況(Contextual Features)」の4つの枠内に各々小項目が設定され、患者の情報を整理し、考えられるすべての問題点を出し、何を優先すべきか、何が最も適切かを考えていくものである。②-2)「4つの枠組み」の実態調査は,平成11年5月から12月末までに使われた用紙すべて42症例分を対象とし,項目別に記載されているかどうかを判定し,用紙の改訂前後でその頻度を比較検討した.
③-1)セデーションガイドラインに関する意識調査は,H病院の医師及び看護婦・士全員121名を対象とし,アンケート調査を行い,看護婦・士に関しては,緩和ケア病棟,外科,内科,外来,訪問看護ステーションの病棟別に分けても検討した.③-2)ICのガイドラインは,医師及び看護婦・士等の6職種計12名が,文献検討後討議しながら作成した.
結果と考察
①臨床倫理及び委員会に関する職員の意識調査の分析対象者は,平成10年度は175名(回収率78.8%),11年度は135名(回収率81.3%)であった.委員会の「存在」について,11年度は全体の94%が知っており,昨年度より増えていた.「設立目的・活動内容」についても知っている者が増えていたが約半数にとどまっていた.職員がイメージしている委員会の活動内容は,両年とも①倫理的問題について検討し方向性を出す,②医療の質をあげるような活動,③臨床倫理を実践する基盤づくり(職員への教育・啓発,ガイドラインづくり),④患者の権利擁護であり,11年度は⑤臨床現場での意思決定のサポートという内容が新たに加わっていた.委員会を活用しようと思ったときの理由は,「医療における意思決定が困難なとき」や「患者に不利益が生じたとき」であり,昨年度より活用しようと思った人が増えていた.委員会が活用されない要因は,①委員会の活用方法や手続きについて相変わらず職員に知られていないこと,②臨床倫理に対する職員のイメージが「難しい」「かたい」などなじみがうすいこと,③委員会に出す問題なのかどうかの判断ができないこと,④委員会を活用すると人間関係が気まずくなるのではというような躊躇があること,などがあげられた.
職員の意識に変化がみられた理由として,臨床倫理や委員会に関するアンケート調査を行ったことで委員会の存在を職員に知らせたり,臨床倫理を検討するツールを院内で運用したことで臨床倫理に対する職員の関心・意識が高まることにつながったこと,などが考えられた.一方,臨床倫理および臨床倫理委員会に関する啓発活動を積極的にしてこなかったことが委員会を活用されにくい状況のままにしていると思われた.
②-1)「4つの枠組み」に関する職員の意識調査の分析対象者は医師12名,看護婦・士100名の計112名(回収率86.2%)であった.「4つの枠組み」は全体の90%以上の人に使用経験がみられたが,使用動機は,「書くように言われたから」「医療の目標が共有されていないために,患者に行われている医療・ケアが現状のままでよいのか疑問に思ったから」「患者の情報整理として」が50~60%であり,本来の目的である「患者の医療行為などの新たな意思決定(判断)をするためのツール」としては25%と少なかった.「4つの枠組み」を使おうと思ったときに実際に使ったのは80%の人であり,そのうちの75%がメリットを感じていた.
「4つの枠組み」を使うメリットは,患者の情報整理や,医療・ケアを行う上での患者の問題点・目標の明確化が進むなどと答える人が多かった.
意思決定のツールとして使われていなかった理由として,①臨床倫理が職員に知られていないこと,②ツールの目的・使い方が職員に浸透していなかったこと,などが考えられた.また,用紙が使いにくい,使い方がわからないという意見もみられたことから,今後,用紙の改善・工夫とともに,本来の目的・使い方などについて教育・啓発していく必要があると思われた.
②-2)「4つの枠組み」の実態調査の結果は省略する.
③-1)セデーションガイドラインに関する職員の意識調査において,セデーションガイドラインの「存在」を知っているのは約80%であり,多くの人がガイドラインは必要であると答えていたが,実際にガイドラインを利用しているのは半数以下であった.セデーションの内容に関する理解,たとえば,セデーションの種類及びその目的,最終的セデーションの適用用件を理解している人もそれぞれ半数以下であった.またガイドラインの利用状況及びガイドラインの内容の理解については病棟間で違いがみられた.これらのことから,ガイドラインの簡略版や具体的な使用方法のマニュアルを作成したり,院内での勉強を開催するなどして,ガイドラインの内容を院内に普及・定着させ,実際の医療に反映させることが必要であると考える.
③-2)インフォームド・コンセントに関するガイドラインについては省略する.
結論
今回の調査結果から,今後の展望として,臨床倫理及び委員会に対する職員の意識を向上させ,「4つの枠組み」というツールの目的及び使用方法の理解を促すために,事例検討会など,職員への教育・啓発活動を地道に積極的に行っていくことが求められる.また,セデーションのガイドラインが院内で活用させるために,ガイドラインを普及・定着させる活動が必要である.
今後,臨床倫理を配慮した実践を行うための基盤を整備しつつ,臨床倫理委員会のメンバーが臨床現場に出向いていくような臨床倫理委員会のシステムをつくり,臨床倫理委員会の機能を果たしていきたいと考えている.
引用文献・参考文献は省略した。

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