救急救命士の需給に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900916A
報告書区分
総括
研究課題名
救急救命士の需給に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
信川 益明(杏林大学医学部総合医療学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
救急救命士は救急業務の高度化の進展等を背景として、需要、供給ともに急速に増大し、養成校の養成枠も増加している状況である。しかし、今後、救急救命士の専門性、養成校の養成定員、国家試験の合格率、救急救命士の求人状況等の環境の変化が予測される。このため中長期的な救急救命士の需給について試算を行い、質の高い人材確保、効率的な人的資源配分の観点から、救急救命士の需給の在り方について検討を行うことが必要である。
研究方法
救急救命士の需給計画づくりに必要な方法論について検討した。特に、政策科学の理論について、方法論、モデル分析、政策プロセスと政策決定、政策分析と政策評価、救急救命士の需給計画の策定上のモデル化、政策分析の評価等について検討した。
結果と考察
今日の医療問題、福祉問題、環境問題等は、政策(行動の指針)の探求が強く求められている。保健医療福祉関連の計画がどの程度合理的なものであるかを検証するためには、政策として行われる事業が合理的に行われているか、問題・課題の捉え方が適切かを判断するための一定の方法論が求められている。このような状況を解決するためには、政策志向の強化が求められ、政策科学が必要となってきている。
政策科学は「政策問題の解明と合理的解決のために政策プロセスおよび政策決定の方法とシステムを研究する科学」であると定義されている。政策科学は学際的な科学であり、経済学、経営学、政治学、行政学、財政学、社会学等の社会科学、その他の諸科学が関係する。
政策立案では、問題を解決、実現するための手段としての政策があり、その政策を作る手段として科学を利用する。政策形成では、多元的な解決したい問題があり、科学の立場から一元的に政策を立案しても、受け入れられにくいことを認識、理解しており、政策を科学的な手法によって分析することになる。政策立案では工学、経済学や統計学の科学的理論や計量データ、計量分析があり、それを立案に応用する。
科学的政策研究は、政策問題に関する調査、調査データの整理分析、問題の把握、問題の改善案、問題解決の方針としての政策の決定に従って行われる。分析の手順は、問題の把握、問題の定式化、目標の決定・前提条件・効果尺度・評価基準の明確化、政策の探求、政策代替案の構想、モデルの構成、効果分析、費用便益分析、副次効果分析、代替案の比較評価と順位付け、解釈と再検討、結論、提言作成、実施者への伝達である。
政策決定を分析するためにモデルを用いる。政策決定の理論モデルは、政策決定に関わる事象間の諸関係を論理的の捉え、言葉や数式などで表現したものである。これらの理論モデルの中の政策変数、制約条件等を変化させてモデル分析を行う。その際、シミュレーションなどの手法を用いて数量分析を行う。
政策科学の研究課題は、政策及び政策プロセスの改善を図ることである。そのためには現在行われている政策、政策を支援している政策プロセスの実証的研究を行い、これらの問題点を把握、指摘して、改善するための方策を提示することが必要である。
政策プロセスは、政策決定、政策実施、政策評価の3段階からなる。政策評価の結果が政策の変更となって次の政策決定へと結びついていく政策プロセスのサイクルを形成している。政策決定の段階は、政策問題の確認、政策機関の検討議題の設定、政策案の生成、政策案の選択からなる。政策の実施は政策決定と政策結果の評価とを結び付けるものであり、よい政策決定が行われても、それが実施され成果をもたらさなければ意味がない。
政策分析では、モデル、シミュレーション等の手法が大きな役割を果たしている。政策評価は政府の行う公共政策の内容及びプロセスについて、その利点、欠点について判断することである。政策評価は事前評価、事後評価があり、事前評価においては予測モデルの妥当性、政策結果、費用等に関する不確実性が問題となり、事後評価においては結果データの利用可能性や正確性が問題となる。
救急救命士の需給計画づくりにおいて踏まえておかなければならない科学的な点について考えてみる。救急救命士の需給計画づくりにおける科学的政策研究の方法論は分析の手順に従って考えられる。
救急救命士の需給計画は地域住民に対し、救急医療を提供する最適システム及び質の高い人材の確保、効率的な人的資源配分の観点からの救急救命士の将来計画などを策定することを目的とする。最適システムは医療を構成する医療関係者、医療関係施設、医療経済、医療行政などとこれらの背景となる社会経済システムの分析に基づき検討されるべきである。救急救命士の需給計画を推進するためには、圏域の設定、救急救命士の需給計画に関する組織、救急救命士の需給計画のための基礎資料、施設計画等が重要である。救急救命士の需給計画を行うには、需要分析、費用便益分析が必要である。
システムを計画するに際して既存技術を予測しながら最適システムを開発設計する方法がPATTERN法である。また、計画を実行する段階で合理的な方法で計画を最も早く実行するための日程計画に役立つPERT (Program Evaluation and Review Technique) 手法がある。その他にORの手法として線形計画法、整数計画法、動的計画法、Goal Programming、ゲームの理論、シミュレーション等がある。
救急救命士の需給計画の策定上のモデル化
理論モデルは、現在の意思決定が将来においてもたらす結果を予測するために、多くの政策現場において利用されている。モデルは将来の状況を予測するために、複雑な情報を処理する理性的で客観的な方法として考えられている。社会経済的モデルに関して、政策研究者は、モデル化のプロセスにおいてモデル分析者の判断が組み込まれていることを考慮して、モデル分析が行われていないことを理解しており、意思決定者が予測を利用することが難しいことを理解している。
救急救命士の需給計画の策定上の意思決定のためのモデルの利用において、社会経済的モデルにおける政策研究者の科学的な点が意味するものは次のようなことである。例えば、単純化されたモデルにはモデルの選定、変数、利用の判断が取り入れられている。より複雑なモデルは意思決定の際の選択をも含んでいる。意思決定プロセスにおいてモデルの結果が適切に利用されるためには、モデル利用者、調整者、行政担当者などが救急救命士の需給計画の策定上のモデル化に含まれる判断と不確実性を理解していることが重要である。
評価の要素としては、インプット、プロセス、アウトプットの3つの方式と多元的な評価基準がある。
今後、計画づくりに携わる政策関係者等は政策科学の理論を踏まえ、膨大な情報処理と数量分析のための手法に習熟し、諸学問領域にまたがる広い知識を持ち、問題を提起しそれを分析する能力を持つことが必要である。これにより計画をこれまで以上に効果的に実施することが期待できる。
結論
今後、需要と供給に関連する因子のデータの整備を進めると共に、政策科学の理論に基づく、モデル分析による需給バランスの分析、評価、検討を行い、社会的要請による救急救命士の将来的な需要を踏まえた需要の推計と、需給バランスについて、政策的な観点から検討することが必要である。

公開日・更新日

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