かかりつけ歯科医と地域医療支援病院等の連携推進に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900915A
報告書区分
総括
研究課題名
かかりつけ歯科医と地域医療支援病院等の連携推進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
坂井 剛(愛知県歯科医師会)
研究分担者(所属機関)
  • 梅村長生(愛知三の丸病院歯科)
  • 竹内学(名古屋第二赤十字病院口腔外科)
  • 佐野晴男(東京都立荏原病院歯科)
  • 江面晃(日本歯科大学新潟歯学部歯科保存学I)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年度の研究では、第4次医療法改正の内容を加味し、歯科医療からみたかかりつけ歯科医と地域医療支援病院の2次医療圏ごとの連携推進のあり方を政府指定統計の詳細な分析に求め、地域医療支援病院等を中心とした医療提供体制のあり方の全般にわたる研究を目的とする。
研究方法
1.モデル地区における地域医療支援病院の承認要件に該当する病院の短期歯科入院の実態、救急歯科医療支援体制の実施実態、教育研修等の調査結果を分析し、必要とされる人員、施設整備要件の研究を行った。
2.平成8年度の医療施設調査および患者調査を分析し、全国の医療圏ごとの地域医療支援病院承認要件に該当する施設の実態を把握し、歯科医療からみた医療提供体制のあり方の研究を行った。
3.歯科大学病院等、200床未満の施設が地域医療支援病院として地域特性を加味して都道府県知事が承認するにはどのような要件を具備すべきかの研究を行った。
4.かかりつけ歯科医の機能支援にあたっては、医療計画上の医療施設の整備目標をどのようにすべきかの研究を行った。
5.かかりつけ歯科医と一般診療所との連携推進が進展しつつある現状を考慮し、地域医療システムの上で歯科を設置していない病院とのネットワークの構築はどうあるべきかの研究を行った。
(倫理面での配慮)
政府指定統計および研究上行ったアンケート、実態調査の取扱いに関しては統計法上の規則を遵守し、適正に管理するとともに、個人の秘密の保護に遺漏なきようにした。
結果と考察
病院歯科から見た医療圏との地域歯科医療システムの特徴としては、調査結果からも分かるように地域医療支援病院の候補施設の充実しているのは全国の13大都市が存在する医療圏である。候補施設が存在しない過疎地域(町村)が含まれる医療圏には地域特性が顕著に認められる.これらの過疎地域については、全国の自治体病院でもある国民健康保険病院、診療所などを活用していくことで地域の連携推進を補っていくことが必要になってくると思われる。したがってこれらの医療圏の病院歯科においては、救急医療、在宅医療支援、研修機能の充実のためには人員の確保が重要であり、少なくとも最低3名の常勤歯科医師が必要であると思われる。とりわけ地域歯科医療の公共性を確保するためにも公的病院などの中から、仮に1医療圏1施設の設定(人口にすると人口30万に対して1施設)で核となる病院を選出し、そのまわりのサテライトとなる病院や全国歯科医師会主体の口腔(歯科)保健センターや固定診療所(全国261施設 平成8年4月1日現在)などを活用することで、診療所間の連携の充実をはかることが必要になってくる。
また、連携のシステム化は情報基盤によるネットワーク化で可能になると考えられ、共同利用施設として病院の窓口を一本化したり、病院をオープン化してかかりつけ歯科医に対する登録医制度を導入してシステムの促進をはかるべきである。かかりつけ歯科医に対する機能面からみた実際の病院歯科のあり方としては、紹介性専門外来や救急医療の提供、研修機能など病院機能についての関連情報を広く地域に公開していくことが不可欠である。また、病院からの患者の逆紹介システムの促進を図るには地域医療のネットワーク化のための情報室の設置が重要な課題となってくる。
しかし、全国の病院歯科1,750施設のうち4条件を満たす施設は200床以上の要件でみれば444施設にすぎず、200床未満の109施設を加えても全体の31.6%にしかすぎない。これを医療圏ごとにみた場合、200床以上の施設(地域医療支援病院の候補施設)が1施設でも存在する医療圏は、全国の医療圏347(平成8年現在)のうちの194医療圏にすぎず、200床未満の施設を加えても215医療圏のみである。したがって二次医療圏ごとでの保健・医療・福祉システムづくりにおける連携促進には、病院歯科を持たない施設での地域ネットワークの形成が不可欠である。地域内の保健・医療・福祉関係者および関係施設が協力できる情報サービスや移送システムを提供していくシステムづくりが、かかりつけ歯科医機能を支援していく上で重要である。その基礎となるのが、過疎町村地域にあっては国民健康保険病院の歯科であり(全国で47施設)、「かかりつけ歯科医」が地域医療圏で連携の必要性を感じている内科および耳鼻咽喉科診療所との連携促進である。内科診療所は医療圏ごとにみると、歯科診療所とほぼ同数存在しており、診診間の連携促進は在宅医療やケアを拡大するための条件ともいえる。したがって、地域特性を配慮したシステムづくりの具体的方策については、地域医師会および歯科医師会をはじめとする地域関係者が協力して検討することが大切である。
「患者調査」からみるかぎり、歯科珍療所と病院歯科ともに外来診療が主体となっており、入院の患者数は病院歯科の9.5%に過ぎず、その実数分布でも都道府県レベルでの地域格差が認められた。また、全国の人口対比の患者数では人口10万対3.4人であり、入院機能を重視した病院の役割は、歯科医療でみるかぎり医療圏ごとの基幹病院を設けることで対応できる実態が明らかとなった。
しかし、高齢社会の進展に伴って全身疾患を有するため医科との連携において歯科治療を行う必要性のある患者は増えると思われる。平成8年の患者調査からはその実状が明らかにできないので、病院歯科の機能をみるために今後はこのような統計調査項目が加えられるべきであると考える。
病院の機能連携の指標とすべき患者紹介率は全国平均で14.7%にとどまっており、地域格差も顕著である。紹介先は、歯科診療所、病院、一般診療所となっているが、数値でみるかぎり相互の連携が行われているとは考えにくい。したがって、病院の機能・役割分担を推進するには患者紹介のシステム化とネットワーク化といった情報基盤の整備が重要である。
最後にこれらを実現させるための財政面での工夫として、安価な経済投資で社会的効率化を達成するために、急性期病院にあっては年間予算の設定を行い、医療産業都市構想の中で医学・歯学・工学の連携により研究事業の推進を行っていくことが望まれる。
結論
21世紀少子高齢社会における歯科医療が住民の健康保持および要介護高齢者のADL、QOLに資することの重要性は、厚生科学研究「口腔保健と全身的な健康状態の関係」により明かとなりつつある。
今回、モデル地域での「かかりつけ歯科医」および「病院歯科」の調査と「医療施設調査」、「患者調査」の分析を通して明らかにされたのは、地域完結型歯科医療を目指すには、地域特性を配慮したシステム作りの堆進目標と具体的方策を早急に検討すべきということである。そのためには、地域歯科医師会および医師会等を中心に関係者・関係機関の相互信頼を確立し、歯科診療所と一般診療所との診・診連携を基盤とした紹介システムの確立を図る必要がある。その基盤の上に立って病診連携システムの構築を行い、行政の協力を得て情報提供ネットワークの基盤整備を図ることが重要である。医療圏における病院(歯科)施設の機能役割分担によるシステム化にあたっては、今回の調査・分析からすれば以下のごとくと考える.
病床規模での区分では、49床以下の施設においては、医科との連携が必要な歯科患者の外来治療や地域とのネットワークを活用した専門外来を主体とする。50~199床以下の施設にあたつては、施設の検査・診断機器を利用した総合診療機能による短期入院治療および寝たきり老人や障害者の入院歯科治療等の在宅歯科医療支援機能を主体とする。200床以上の施設にあたっては、紹介外来制による特殊外来診療および高度先進医療、救急医療、教育・研修の提供等の機能を主体とする。
公・私の役割分担の上からは、過疎地域における国民健康保険病院を活用し、在宅歯科医療の充実を図る。また200床以上の公的病院を2次医療圏ごとの基幹病院と位置づける。大学の附属病院は高度先進医療の提供と研修の実施、高度医療技術の開発と評価といった面での教育病院と位置づける。
これらの機能分担を住民・患者の参加型による情報網整備や保健・医療・福祉を包括した地域社会づくりの中で推進することが求められていると結論する。

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