新しい災害医療教育プログラムの開発研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900913A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい災害医療教育プログラムの開発研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
鵜飼 卓(兵庫県立西宮病院)
研究分担者(所属機関)
  • 杉本勝彦(昭和大学救急医学)
  • 石井 昇(神戸大学災害救急医学)
  • 甲斐達朗(大阪府立千里救命救急センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
阪神・淡路大震災以後、関係各方面の努力もあって徐々に各都道府県の基幹災害拠点病院を中心として災害医学・医療研修会が開催されるようになった。しかし、これらの教育を担当する人材も乏しく、包括的体系的な災害医学教育がなされるまでにいたらず、それぞれの研修会では個人の体験談と総論的な講話がなされる段階にとどまりがちである。また、医療従事者はそれぞれに多忙で災害医療研修に割ける時間も限られている。したがって、体系的な災害教育プログラムと学習者が自由な時間に楽しみながら効率的に学べる災害医学教育プログラムを開発する必要がある。
研究方法
①国立大阪病院で行われる病院災害訓練において、同一仮想災害について、机上訓練をした上で実働訓練をするという組み合わせ方式を試みた。また、START式のトリアージを実際の訓練で取り入れてその実用性を検討した。
②1998年度にひきつづき研究協力者やシステム開発技師とともにbrain stormingを行い、自己学習の目的に適う災害教育プログラムを検討した。十数回におよぶ研究打合せ会議を開催し、結果を各自が持ち帰って内容を再検討し、再度改訂した資料を少人数で検討するという作業を繰り返し、災害医学教育用CD-ROMの概念設計を行った。
③災害教育については抜きんでた先進国である北欧二カ国(ノルウエイとスエーデン)を訪問し、その災害対応資機材の管理や災害医学教育の実状を視察して今後のわが国の災害医療教育の向上への指針を探求した。
④兵庫県の基幹災害拠点病院で過去3年間に行われた災害医療コーディネーター教育研修および災害医療従事者研修会の開催時期や参加者・内容を振り返り、アンケート調査結果と比較してより参加者に喜ばれ、且つ効果的な研修プログラムのあり方を検討した。
結果と考察
①国立大阪病院において実施した災害訓練では、まず机上訓練により災害時の医療従事者の役割について自分ならどう動くかを発表討論させ、その後模擬患者を使って実働訓練を実施して、机上訓練で考えたことをどれだけ実行できたか評価し合った。机上訓練と実働訓練とを組み合わせて実施すると、受講者へのインパクトも大きく、高い教育効果を上げることができた。いわば概念教育と実習の組み合わせであり、両方とも参加的プログラムであって、今後各地で行われる病院災害対応訓練で実施する訓練プログラムとして推奨できる。また、試みに取り入れたSTART方式のトリアージは、比較的短時間内に特別な救急医学の訓練を受けていないものでもある程度活用できると思われた。
②災害医学訓練用CD-ROMのソフトウエア開発は当初の予測をはるかに超えた困難な作業で、システム開発費用も考慮すると、研究協力者が提供する資料をすべてデジタル化してシステム開発会社(業務委託先)に提供する必要があった。多額のシステム開発費用をつぎ込めば理想的なゲーム感覚のソフトウエアを作成することが可能であるが、若手医師や看護婦、救急救命士などへの普及を考慮すると、高価なソフトウエア開発は非現実的である。また、仮想災害として地震や洪水、津波、火山爆発などの自然災害から工場爆発、地域紛争と難民など多くの種類の災害が想定できるが、あまりに複雑な要因が絡み合う災害では、プログラムが煩雑になりすぎて教育メディアとして適切でなくなる。これらを勘案して研究打合会で合意に至った災害教育用CD-ROMの内容は、前半のテキスト部分と後半の列車事故を想定したシミュレーション部分とで構成し、1)災害医学の実際(テキスト)、2)災害医学用語集、3)災害現場編、4)搬送・トリアージ編、5)基幹災害拠点病院編とするのを適当とした。このように、災害教育用CD-ROMの概念設計はほぼできあがったので、これをもとに医療関係者に普及させられる形のものを完成させる必要がある。
③ノルウエイでは政府の支援も受けつつノルメカ社が種々の災害救援用資機材の製作・販売・管理などの業務を一元的に行っており、国内のみならず全世界の災害時に対応すべく準備されている。また、ノルウエイの救急医療体制は基幹病院がイニシアティブを握っており、救急指令センターも基幹病院内にあり、災害時にも同じメカニズムが稼働する。
スエーデンリンチェピン大学災害教育研究センターは世界でも希有な災害医学トレーニングセンターで、災害医学教育方法の研究にも熱心に取り組んでいる。医師や看護婦の他、警察官、救急隊員、行政官などが職種の壁を超えて一緒に災害訓練に参加する。しかし、大がかりなショーのようなデモンストレーションは一切なしで、参加者が想定災害によってリアルタイムでそれぞれの役割をこなしていくという訓練方法である。最後の負傷者がクリアされると訓練終了である。しかし、基本的にはこの演習は机上訓練であり、研修参加者が考え、判断して実行するというリアルな想定で行われる。このような訓練手法にわが国の災害対応訓練も学ぶところが大きい。平成11年秋に外国人研究者招聘事業により米国連邦緊急管理庁などの専門家4名を招いて東京と神戸において緊急事態管理セミナーを開催し、好評のうちに終了したが、同様の企画を継続してわが国の災害医療コーディネーターの育成を急ぐ必要がある。スエーデンは自然災害・人為的災害が少ないにも拘わらず、相当な国費を投入して危機管理教育を行っており、特別な訓練を受けて国内の災害のみならず海外の災害救援にも出動するSwedish Trauma Teamの訓練コースは、1週間の国内訓練の後に米国のLevel 1 Trauma Center(Pennsylvania)で1ヶ月間、さらに北アフリカで1ヶ月間の実習のプログラムというものだそうである。災害多発国である日本として、また、災害時の緊急国際協力のためにもわが国にとって学ぶべきでところが多い。
④兵庫県の基幹災害拠点病院で過去3年間に実施してきた災害医療コーディネーターや災害医療従事者研修会では、回を重ねる毎に参加者主体的なプログラムを取り入れて一応の成果を上げてきたが、体系的取組みに乏しかったきらいがあり、今後更に充実させねばならない。また、同じ兵庫県内の災害拠点病院でも地域により災害に対する関心の大きさにかなりな温度差があり、研修会開催場所も巡回して行うなどの工夫が必要である。
結論
①基幹災害拠点病院などで実施する災害医療研修会においては、講義主体の参加者に負って受動的なプログラムをできるだけ少なくし、受講者が主体的に判断、行動するなかで学習を深めていく方法をとるのが望ましい。そのために、同一仮想災害を主題として机上訓練を行い、引き続き実働訓練を行うと教育効果を上げることができる。
②災害医療教育用CD-ROMのソフトウエア開発をほぼ終了することができた。これを実用的な形に完成させ普及させるのが課題である。
③北欧の災害準備体制は日本にとって学ぶところが多く、専門家間の交流を更に深めていくべきである。 

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)