高血圧と関連疾患の疾病管理の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900906A
報告書区分
総括
研究課題名
高血圧と関連疾患の疾病管理の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 一夫(秋田県立脳血管研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川敏彦(国立医療・病院管理研究所)
  • 上島弘嗣(滋賀医科大学)
  • 坂巻弘之(国際医療福祉大学研究所)
  • 福田吉治(国立医療・病院管理研究所)
  • 高本和彦(国立医療・病院管理研究所)
  • 久保内智子(国立医療・病院管理研究所)
  • 斎藤郁夫(慶應義塾大学医学部保健管理センター)
  • 田中繁道(手稲渓仁会病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高血圧を中心にそれに続く脳卒中や虚血性心疾患、さらには腎不全等の疾病管理をそれに関連する糖尿病、高脂血症、肥満、ストレスや種々のライフスタイル関連で捉え、最も効果が高く効率の良い診療と技術を持つ疾病管理システムを確立することを目的としている。今日、循環器疾患は金銭面においても障害面においても最も大きい疾患であり、高血圧はその中でもこれら関連疾患の核となる疾患である。高血圧の診療のみでも多量の医療費が費やされている一方、分担研究者長谷川らによると、未治療の患者が300万~900万人存在することが示唆されている。この研究により高血圧並びに高血圧関連疾患のシステムとして有効な管理法が確立し、全体としての医療費の削減と診療効果の向上がもたらされることを目指したい。
研究方法
まず、高血圧に対する検討を行うため、研究班では日本高血圧学会会員2200人と開業医師4800人を対象に、高血圧治療に関するアンケート調査をおこなった。斉藤は、高血圧の治療実態について1998年から2000年までの3年間高血圧治療を継続した187人の血圧の推移を検討した。鈴木は、血圧測定が十分になされないときに起きる、見せかけの高血圧を血圧測定記録で5回以上血圧を測定した人を対象に、その平均値を真の血圧とし、最大血圧で90mmHgから10mmHg間隔で群を作り、群ごとの標準偏差から各群で160mmHg以上の値を示す確率を求め定量的に検討した。次に、脳卒中発症、機能予後推測モデルの作成とその応用に関しては、鈴木が対象集団の5歳年齢階級、男女別人数があれば、脳卒中に関連する発症数、有病者数、障害者数の推計値を年齢・病型・性別に算出できる方法を秋田県の脳卒中発症登録データを利用し、日本人人口の将来推計データから脳卒中の推移を2050年まで予測した。また、脳卒中の1次予防対策の定量的評価に関して、上島らは体重、運動、NaとK摂取の血圧に及ぼす影響を推測し、鈴木は集団の血圧が1mmHg低下すると脳卒中発症が5%低下する事を明らかにした。このデータを利用し、地域における脳卒中低下目標値の設定と、それに伴う生活習慣への介入方法を検討した。最後に、JNC IVによる高血圧治療へのインパクトに関しては、国民栄養調査、社会医療診療行為別調査および国民医療費をデータソースとして、新たな診療ガイドラインとして米国合同委員会第6次報告(JNC IV)による血圧分類をもとに、高血圧診療に関する治療実態、治療効果、ならびに高血圧診療へのインパクトを推計治療対象者数、医療費の面から再検討した。
結果と考察
高血圧治療の問題点として、アンケート調査から以下の問題点が明らかになった。1. ガイドラインの臨床での利用が始まっているが、ガイドラインに沿う治療が困難であると考えている医師も多い、2. 薬物療法に頼りがちで、降圧の目標値が高めに設定されている、3. 使用薬剤は新薬が圧倒的で、薬剤に合わせた医学的使い分けに乏しい、4. 安定した高血圧でも頻回の通院を求め、高血圧治療がうまくいかない場合の対策はもっぱら医師の注意と血圧測定であり、チーム医療のなかで解決する試みは極めて少ない。わが国ではガイドラインとは異なる高血圧治療が多く行われている。高血圧治療の新しい考え方については、医師に対する普及に加え、利用者にあたる国民全体に対しても行うべきである。生活習慣の変化で血圧上昇が予防できることを広
く国民全体が知り、実践すれば高血圧の一次予防対策に結びつくと思われる。
次に、1回測定血圧値と高血圧診断に関する検討を行い、健診受診者の血圧割合から1000人の血圧分布モデル集団では真の血圧で160mmHg以上を示す人は81人(8.1%)であるが、この集団の1回測定で160mmHg以上の値を示す人は96人(9.6%)になり、真の高血圧より約20%過剰に高血圧と判定することを明らかにした。このような誤診断を回避するためには、家庭血圧の導入が必要であろう。
高血圧治療の実態に関しては、1998年は40%が治療目標値以下の良好なコントロールを示し、1999年は47%、2000年には70%に改善した。この背景には、1998年の米国高血圧合同委員会および1999年のWHOの高血圧治療ガイドラインの影響に沿った治療がなされたと思われる。しかし、降圧薬を2剤以上使う割合も36%、40%、48%に増加した。この結果は降圧がもっぱら薬物療法によることを示唆している。
JNC IVによる高血圧治療へのインパクトについては、1986年の国民栄養調査をもとに、JNC IVの基準による高血圧治療を受けていないものの高血圧治療対象者数を推定した結果、正常高値血圧(130-139/85-89mmHg)は約18百万人、ステージ1(140-159/90-99mmHg)約 17百万人であった。薬物治療対象とされるステージ2および3(≧160/≧100mmHg)およびリスクグループC(糖尿病のみを計算)の合計は約10百万人であった。これらを新たに治療対象とすることによる新たな医療費負担は、約15,000億円と推定され、新たな高血圧疾病管理システムの構築の必要性が示された。
最後に、脳卒中発症、機能予後推測モデルの作成とその応用に関して、人口減少は2007年から始まるが、脳卒中発症者数は高齢化のため2025年まで増大し年間33万人に達する。高齢者の生命予後が悪いために有病者数は2020年でピークを示し、280万人を超えるがその後は減少する。しかし、脳卒中関連の寝たきりの人数は2025年まで増大して25万人となり、その後の減少も緩やかである。さらに全体の寝たきり数は2035年まで増大し61万人に達することが予測される。そして、脳卒中の1次予防対策の定量的評価の結果、脳卒中を15%減少させるには、男で喫煙者の25%が禁煙し、飲酒者の30%が日本酒1合相当の節酒を行い、運動不足の人10%が運動を開始し、食事について30%の人が野菜を従来の2倍取り、食塩摂取を7g/日以下にする必要があった。
結論
これからの4半世紀、脳卒中は大きな介護負担をもたらす疾患であり続ける。予防の要は血圧のコントロールである。高血圧治療に対する考え方は確立されたが、その実施においては多くの困難が予測された。最も深刻なのは非薬物療法が臨床の場で効果的に実施できないことであり、高血圧治療においては非薬物療法を基礎とした新たな診療体制を作らなくてはならないことが明らかとなった。ガイドラインに添った合理的治療は、医療費の適正な支出にもつながると予測された。

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