早期退院と継続ケアを可能にするケアプラン・システム・マネジメントに関する研究 -ディスチャージプランニングへの看護部門の再編と意識改革-

文献情報

文献番号
199900904A
報告書区分
総括
研究課題名
早期退院と継続ケアを可能にするケアプラン・システム・マネジメントに関する研究 -ディスチャージプランニングへの看護部門の再編と意識改革-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
島内 節(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 丸茂文昭(東京医科歯科大学)
  • 石井英禧(石心会狭山病院)
  • 杉山孝弘(石心会川崎幸病院)
  • 中澤典子(石心会狭山病院)
  • 設楽美佐子(石心会狭山病院)
  • 友安直子(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
石心会狭山病院では、ディスチャージプランニングを行うための看護部の組織改編の前後の変化を捉えるために平成11年度に組織改編前の以下の調査(1),2),4))を行った。さらに、看護婦の能力向上のための教育プログラムを作成した。1)組織改編前後の患者・家族の退院準備状況の変化を明らかにするために組織改編前の退院準備状況を評価した.2)ディスチャージプランニングの展開に必要な看護婦のアセスメントとケアプラン作成の能力を評価した。3)看護婦のアセスメントとケアプラン作成の能力に必要な教育の内容を明らかにし、教育プログラムを作成した。4)ディスチャージプランニングの取り組みによる、平均在院日数、病床稼働率、平均紹介率の変化を評価した。
研究方法
前年度に引き続き狭山市にある石心会狭山病院を研究対象機関とた。まず、患者・家族の退院準備状況の研究では、対象を、平成12年1月11日~同年3月10日の2ヶ月間の間に入院した全患者の中で、スクリーニング票でディスチャージプランニングが必要と判断された患者185事例の中で、調査の承諾が得られた患者54名とその家族とした。調査方法は、日本在宅看護振興財団の日本版在宅ケアアセスメントに基づいてに作成した患者・家族の退院準備状況に関する質問項目(患者に18項目、家族に4項目あり4段階で回答を求めた)で作成した自記式の質問紙を用いて調査した。質問紙は、20事例にプレテストを行った後に本調査で使用した。次に看護婦のアセスメントとケアプラン作成の評価研究では、ICU病棟を除く全病棟の常勤の看護職80名を対象にした。調査期間は、平成11年12月27日~平成12年1月4日。同上の日本版在宅ケアにおけるアセスメントとケアプランの在宅ケアアセスメント票の問題・ニーズ30領域から、「コミュニケーション・聴覚障害」「ADL・IADLの低下・リハビリテーション」「転倒の危険性」「生活用具・居住環境改善」「心理社会的孤立・生活意欲」「対人関係」「栄養状態・食事療法」「歯・口腔ケア」「排泄コントロール」「問題兆候・病状の安定性「薬の管理・服薬」「家族介護力・家族機能」「家事援助」「社会資源活用」に問題・ニーズがある事例に対して退院前の問題点及びニーズをアセスメントしケアプランを無記名自記式で作成してもらった。
結果と考察
患者・家族の退院準備状況の結果では、有効回答は44事例(回収率83.3%、有効回答率81.4%)で、対象患者の平均年齢は73.30歳±1.51、平均在院日数は、30.52日±5.09、家族形態は、2世代同居11名(27.5%)が最も多く、次に独居10名(25.5%)、主疾患はうっ血性心不全が最多で7名(17.5%)次に脳梗塞5名(12.5%)であった。患者の退院準備状況では、いずれの患者にも必要な退院準備の事項で、退院時に準備ができていた項目は、「13.搬送の手段の確保」(3.86±0.59:Μ±SD)、次は「6.人間関係」(3.77±0.56)で、最もできていなかった項目は「10.急変時の対応」(3.23±0.83)であった。年齢からみた各退院準備の事項では、「医療処置の方法」に有意な差(p<0.05)がみられ、年齢が高いほど準備ができていなかった。患者によって必要とされる退院準備の事項で、最も準備ができていたのは「生活・福祉用具の入手・利用」(3.41±1.00)で、準備ができていなかった項目は「医療・衛生材料の確保」(2.67±1.37)であった。急性期病院にとっては退院準備で急変時の対応と医療衛生材料確保のためのシステムの確立は強化の必要があ
る。家族の退院準備状況では、34名から回答を得られ、平均年齢は56.58歳±11.98、患者との続柄は、子供17名(50.0%)が多く、次に妻10名(29.4%)であった。退院準備が最もできていた項目は「患者との関係調整」(3.58±0.67)で、最もできていない項目は「介護方法の準備」(2.63±0.78)であった。結果から今後、より家族介護力を評価し、実情に合った具体的な介護教育が必要である。また、看護婦のアセスメントとケアプラン作成の評価では、対象の看護婦の平均経験月数は70.58ヶ月(SD=59.25)であった。患者の退院後の生活に対する看護婦のアセスメントとケアプラン作成能力を持っているのかを、アセスメントとケアプラン作成状況を3区分で見たとろ、①「アセスメントができケアプラン作成もできている。」問題・ニーズ領域は、「生活用具・居住環境」「社会資源活用」であった。これは、実際に全患者にフィジカルアセスメントを行っており、在宅ケアに関係する領域で、他職種と連携してケアを行っていたためではないかと考えられる。②「アセスメントができケアプラン作成ができていない。」問題・ニーズ領域は、「ADL・IADLの低下・リハビリテーション」「転倒の危険性」「排泄ケア・コントロール」であったが、ケアプランの内容は、入院中のベットサイドでの直接ケアにとどまっているものが多く、患者・家族教育や退院後の生活を考えたケアプランの作成は難しかったのでは考えられる。③「アセスメントもケアプラン作成もできていない。」問題・ニーズ領域は、「対人関係」「問題兆候・問題の安定性」「家事援助」であり、これらの領域の定義の理解や他の領域との判別が難しいと考える。今回の調査結果から、看護婦への教育プログラムの内容に、心理社会的問題がアセスメントできるように、ケアプランがベッドサイドにとどまらないディスチャージプランの作成方法を教育することで、より能力の向上が期待できると考える。具体的には、各病棟ごとに対象の病棟看護婦に、研修を行った。また、今回の調査結果を看護管理会議で提示し、教育カリキュラムの内容の検討を行った。石心会狭山病院の病院医療統計から平均在院日数は19.7日(平成10年度)から17.7日(平成12年2月現在)へ短縮し、病床稼働率は90.4%(平成10年度)から95.24%(平成12年2月現在)に、紹介入院率は32.9%(平成10年度)から41.5%(平成12年2月現在)に増加した。
結論
本年度の研究で得られた成果は以下のとおりである。1)患者の退院準備状況の評価により、「急変時の対応」と「医療衛生材料の確保」の準備に問題があることが明らかになったので、これら2点への対応は早急に取り組むこととなった。家族の退院準備では、「介護方法」の準備に問題が残っているので、看護婦への教育によりアセスメント力を養い、家族に介護方法の指導ができるようにすること、およびディスチャージコーディネーターが地域との連携によりサービス提供が受けられるようにする必要がある。2)看護婦のアセスメントとケアプラン作成に関しては、心理社会的問題に対するアセスメント能力が特に低く、ケアプランでは病院内のベットサイドでの看護計画にとどまる傾向があることが明らかになった。3)組織改編の中でも専門部門を設置するだけでなく、ディスチャージプランニングをよりよく展開できるように全看護職への教育や患者の退院準備のために行うべき事項の確認と、その行動のための能力を養う必要がある。そこで、院内での看護過程の展開を中心にしていた教育プログラムに、上記1)2)の内容を考慮した教育内容を加えることにした。4)平均在院日数は19.7日(平成10年度)から17.7日(平成12年2月現在)へ短縮し、病床稼働率は90.4%(平成10年度)から95.24%(平成12年2月現在)に、紹介入院率は32.9%(平成10年度)から41.5%(平成12年2月現在)に増加した。これらの結果には、看護部門の取り組みも寄与していると考える。

公開日・更新日

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