老人保健施設における良質な療養上の世話の効果に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900903A
報告書区分
総括
研究課題名
老人保健施設における良質な療養上の世話の効果に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
川島 みどり(特定医療法人財団健和会臨床看護学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 陣田泰子(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)
  • 河口てる子(日本赤十字看護大学)
  • 竹森チヤ子(老人保健施設千寿の郷)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1. 老人保健施設における高齢者中心のケアモデルの開発。1) 老人保健施設本来の目的である「在宅に向けた自立支援」を可能にする高齢者中心のケアモデル開発の研究。2.老人保健施設における看護の専門性の追究。1) 高齢者の自立を促す看護・介護職者の教育的関わりに関する研究。2) 痴呆性高齢者への看護治療的アプローチに関する研究。3) 徘徊する痴呆性高齢者の「帰りたい家」の特徴と対応策の検討。
研究方法
参加観察・介入・半構成的面接等によるデータ収集により、質的・帰納的デザインにより行った。対象の施設は、東京都内の何れも開設4年目の都市型老人保健施設A、Bに働く看護・介護職者ならびにA施設の利用者らである。
結果と考察
1.高齢者中心のケアモデル開発のために行った研究では、都市型の1老人保健施設で延べ25日間199時間の参加観察による、364の場面の中心的意味(キーワード)をラベル化し、共通メッセージから構造的意味を抽出した。その中から良質な療養上の世話ないしは高齢者中心のケアモデルに影響する構造・過程変数を含む代表的な7場面について、詳細に分析した。場面は、「感染対策をめぐる場面」「良心的看護婦の意識と行動」「看護管理者のジレンマとシステム上の問題」「ショートステイ利用者の入退所が長期利用者に及ぼす影響」等である。
これらの場面も抽出したキーワードも、他の老人保健施設に普遍的であると考え、これをもとに、老人保健施設における検討課題を提示した。すなわち (1) 疥癬伝播を防ぐための方策(2)人間らしい入浴介助の方法 (3) 異職種間協働に際してのチームワークを図る(4) 医療情報システムの再検討と改善 (5) 管理体制とマネジメント能力の開発 (6) 短期入所者の影響を少なくする方策等である。
また、高齢者ケアモデルの構成要素は、キーワードならびに検討課題から生まれた概念がこれに当たる。すなわち《日常性》《継続性》《安全性》《人間らしさ》《自立》《リーダーシップ》《システム化》《医療情報の活用》《個別の生活史》などである。さらに、これらを促進する因子と阻害する因子をあげれば評価指標につながると思われ、個々の指標の妥当性を検証する研究は来年度の課題にしたい。
2.看護・介護スタッフの高齢者の自立を促す教育的関わりに関する研究では、高齢者の自立を促す看護・介護職者の研修プログラム開発の基礎資料とするため、看護・介護職者らの行動の基礎となる意識の特徴を半構成的面接により明らかにした。看護・介護スタッフの考える高齢者の自立とは、<日常生活動作の中で自分で自分の身の回りのことができ>、たとえ援助が必要であっても<自分の意思でやること>であった。最終的には<サービスや家族の支えで自宅で生活する>ことで、自立を促す関わりとしては、<高齢者自身を知る><双方の理解を深めて信頼関係を築く>ことが重要と考えていた。その上で、<高齢者の意思や欲求を把握して><高齢者自身ができるところは必要以上に介護しない>で関わり、最終的には在宅に移行でき、ディサービスを<楽しみ、生き甲斐>にしながら定期的に通所できるようにと考えていた。高齢者自立に対する役割としては、介護職者は、<その人らしい自信を持たせてあげる>ことで主に日常生活面での援助を考え、看護職者は、<体調の管理><安全面>を考慮しながら<介護スタッフへのアドバイザー・支援者>と考えていた。高齢者の自立への援助に影響を及ぼす要因としては、<不本意な入所><環境の変化>による精神的な影響、<コミュニケーションが図れない高齢者への理解><高齢者自身と家族の意思の調整><多忙によるスタッフの余裕の欠如>をあげ、<高齢者の安全>を考慮しておくことも援助に影響する要因とした。以上をふまえて、研修プログラムの試案を作成した。
3.痴呆性高齢者への看護治療的アプローチに関する研究について
在宅志向を妨げる要因ともなっている痴呆性高齢者への援助技術の確立に向けて、具体的な看護治療的アプローチの検討を目的とした。方法は、老人保健施設に入所中の痴呆性高齢者2名を対象とし、対象固有の快適刺激を探り、繰り返し働きかけ、その反応を逐次記録し分析する実践的な参加観察法とした。その結果、看護治療的アプローチとして①ありのままを答える、②身ぎれいにするのを助ける、③選択する機会を提供する、④現実よりも大げさに賞賛する、⑤身体で感じてもらう、⑥向かい合って声に出して一緒に確認する、という6つを抽出し働きかけた。これらのアプローチに関して痴呆そのものを治すのではなく、機能低下を遅らせるという発想、ケアの継続性、ケア実施者の自立支援についての意識、高齢者の生体リズムを生かした環境やケア方法の検討などの重要性を示唆した。
4.徘徊行動による無断離所した事例について、彼らやその家族らと関わった研究者を含む3名の看護職者らにより、事実を確認しながらエピソード化したものを、<時間><場所><自分><帰りたい家>について分析し、家族や友人からの情報とつきあわせて比較検討した。結果は、家に向かって徘徊し続ける行動の背景には、痴呆性高齢者が抱きやすい存在不安感があると考えられる。従ってその高齢者にとり居心地よい居場所を提供・確保することによる安心感や安定感を目指したケアが望まれる。又、痴呆性高齢者の徘徊行動を理解するためには、彼らの過去の職業や価値観、生活様式や習慣、意思決定のしかたなどを、じっくり時間をかけて向き合い深める必要がある。そのためにも、効率優先のケアのありようを、高齢者中心のケアモデルに変換することがきわめて大切である。
結論
1. 老人保健施設において参加観察により得た場面分析によるキーワードの抽出から、今後の老人保健施設における検討課題を明らかにし、さらに本研究の最終目標である高齢者中心のケアモデル構築のもとになる構成要素を明らかにした。2. 老人保健施設で働く看護・介護職者らが考える、高齢者の自立やそのケアについての理解と行動の特徴を明らかにし研修プログラム作成の資料とした。3. 痴呆性高齢者への看護治療的アプローチの方法を実践的に探索した。4.「家へ帰りたい」痴呆性高齢者の求める家と徘徊要因について検討し、その対処法につての検討を行った。

公開日・更新日

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