看護の質の確保に関する研究-プライマリヘルスケアに基づく看護モデルの開発:都市型プライマリヘルスケア看護モデルの評価

文献情報

文献番号
199900901A
報告書区分
総括
研究課題名
看護の質の確保に関する研究-プライマリヘルスケアに基づく看護モデルの開発:都市型プライマリヘルスケア看護モデルの評価
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
菱沼 典子(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 和子(千葉大学看護学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における地域看護活動の歴史から、健康転換相による時代分析を行い、各相における看護活動の内容を明らかにすること、また、昨年度の研究成果から得られたPHCの概念の中で特に重要であった4つの点(a.住民主体であること、b.Health Workerとなる住民への教育、c.その土地、その文化の中で許容され、かつその地域の資源で行える活動であること、d.その地域のすべての人が容易に手に入れられる活動であること)から、過去の健康転換第1相(感染症、母子保健)、第2相(慢性疾患)における看護モデルを評価し、今後の第3相(高齢社会)(広井,1997)の看護モデルを開発する。
研究方法
都市型PHC活動のモデル地区として東京都中央区を調査の対象地区とした。歴史的アプローチを用いて、中央区中央保健所や中央区役所に保存されている、1935(昭和10)年から1999(平成11)年までの過去の健康問題や保健活動について書かれた諸史料や日本の公衆衛生活動及び保健婦活動の歴史的事項を記した諸文献を基に、中央区のPHC活動の変遷を記述・分析した。それをもとに、各健康転換相における看護モデルを作成した。
結果と考察
中央区における地域保健、看護活動の変遷は、健康指標、活動内容、法令などの特徴から、1)1900年代初期から1945年まで(戦前)、2)1945年から1955年まで(第2次世界大戦後10年)、3)1956年から1974年まで(高度経済成長期)、4)1975年から1988年まで(人口の高齢化)、5)1989年から1999年まで(高齢化社会インフラ整備)の5つの時代区分に分けることができた。戦前は、乳幼児の健康増進と疾病の予防を目的とした活動が発端となり、中央区に地域保健看護活動が導入され、その後結核、感染症、乳児死亡に重点を置いた活動が展開されていった。第2次世界大戦後は、取り締まり行政から始まった衛生行政が予防に重点が置かれ、戦後GHQの指導のもと、保健行政システムが整備された。中央区では、結核に重点を置いた地域看護活動が行われ、結核感染者の成人病相談や家庭訪問に看護職は大きな役割を果たしていった。高度経済成長期に入ると、中央区の人口は昭和29年を境に減少し、特に20-24歳層において減少が顕著であったことから、出生率、乳児死亡率ともに低下していった。一方死亡率は、悪性新生物など昭和30年代より全国平均より高く、成人病相談や慢性疾患学級などの健康教育に力が入れられていた。人口の高齢化が叫ばれるようになると、国民健康づくりや老人保健法公布などの施策が次々と出され、それにつれて中央区での地域看護活動も成人・老人に対する事業の充実が図られたが、同時に都会に住む母子に対する支援も行われるようになった。高齢社会インフラ整備がされた最近の10年間は、生涯を通じた健康づくり体制も推進されているが、高齢者保健教室や中高年を対象とした運動教室、痴呆老人の自主グループ育成などが行われ、国の施策に沿いつつ高齢者が多い地域の特性をつかんだ活動がなされている。これらの時代を社会背景、地域保健看護活動内容等から分析すると、第2次世界大戦をはさんだ20年間の1935年から1945年が健康転換第1相、高度経済成長期から人口の高齢化に向かった1956年から1988年が第2相、高齢社会となりそれを支えるためのインフラに目が向けられている1989年から現在が第3相に相当することが明らかになった。第1相の活動は、保健婦が健康問題を見つけ、指摘して、啓蒙し、指導するという保健婦主体の活動のモデルで表された。第2相では、保健婦から住民へという看護モデルでは対応できなくなり、保健婦と住民が横に並び相談するモデルから、住民を支える複数の援助者
の1人として保健婦が活動するモデル、さらに第3相では援助者をコーディネートするモデル、その地域全体の保健に関する調査、企画、システム構築をする保健婦の活動のモデルが考えられた。これら活動モデルの拡大から、今後の課題として、住民や他職種とのパートナーシップ、保健婦のコーディネーターとしての役割、地域の査定ができ政策を立てられる力を高めること、また、そのための看護教育の在り方として、パートナーシップに関する教育や大学院教育の充実の必要性が示唆された。
結論
都市における地域保健看護活動の歴史をPHCの概念を用いて分析した結果、PHCは我が国における公衆衛生・地域看護活動の要素にほぼ合致していた。高齢社会における看護モデルには、住民が主体であることと住民のパートナーとしての専門職のあり方が、最も基本となることが不可欠になり、また、看護職のあり方ならびその教育についても、有益な示唆を得ることができた。

公開日・更新日

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