痴呆性老人グループホームの適正かつ効果的な運営とケアスキル開発に関する研究

文献情報

文献番号
199900900A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆性老人グループホームの適正かつ効果的な運営とケアスキル開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中島 紀恵子(北海道医療大学看護福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 北川公子(北海道医療大学看護福祉学部)
  • 太田喜久子(宮城大学看護学部)
  • 大久保幸積(特別養護老人ホーム幸豊ハイツ)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度の研究目的は、第1に、痴呆性老人のためのグループホーム1施設に対する継続的な介入と評価を行い、入居者の変化と、プログラムならびにスタッフ教育の充足の過程を追求すること、第2に、わが国のグループホームの現状と発展過程を分析し、介護保険制度下におけるグループホームのあり方を考えることである。
研究方法
本研究は3つの調査研究で構成されている。第1は、北海道虻田郡豊浦町にあるグループホーム「幸豊ハイツ」を対象とした介入・評価である。入居者の評価には、GBSスケールを用い、1997年8月の開設以降、定期的に入居者の評価をおこなった。また、運営の充足過程の把握するために、調査者らによる観察記録、事業計画書、事業報告書から、ケアプログラムとスタッフ教育に関する情報を分析した。第2は、介護家族に対する意向・実態調査である。「ぼけ老人をかかえる家族の会」会員4,000名に対して1999年10月に実施し、1,896通の回答を得た。質問項目のうち、グループホームの利用実態及び利用への意向に関する5つの設問への有効回答を分析に用いた。第3は、グループホームに関する2種類の資料収集・分析である。1つは、「全国デイホーム・宅老所・グループホーム案内Ⅱ」の巻末に掲載されている全国名簿から、設年、運営主体、サービス内容の3つの情報が明示されている452施設について分析を行った。2つは、書籍、雑誌、ホームページ、講演会等で情報を公開しているグループホーム・宅老所、及び調査者らが訪問・聞き取りを行ったグループホームの情報をカード化した資料、69施設分。
結果と考察
「幸豊ハイツ」の継続評価から、次のようなことがわかった。開設当初から1999年11月現在まで入居を継続しているのは、女性4名、男性1名の計5名である。この5名のGBSスケールによる評価をみると、入居から約2年半を経ても、5名中4名でせん妄や不安などの痴呆に伴う精神症状の評点が安定して推移しているものの、運動機能、知的機能、感情機能の項目では、低下を示す入居者も複数名みられた。慢性進行性に経過する痴呆疾患の特性をふまえると2年にわたって評点が維持されていたことに大きな意味がある。こういった経験の蓄積の中で、「幸豊ハイツ」の運営手法は徐々に充足し、インフォメーションシートの活用、担当制の施行、生活リハビリプログラムの多様化、オンザジョブ・トレーニングなどのスタッフ教育の充実が認められた。次に、「家族の会」に属する介護者のグループホーム利用の意向と実態調査からは、以下のことがわかった。デイサービス、ショートステイ、グループホームの各サービスの利用経験をみると、デイの利用経験者は78%、ショートでも65%と高い割合であるが、グループホームは9.2%とわずかであった。しかし、グループホーム利用経験者は少ないものの満足度は3つの中で最も高く、利用者の半数以上が「満足」と答えていた。また、民間有料でもこられのサービスを利用したいかどうかという意向をみると、いずれのサービスも、半数の介護者が「使いたい」と回答しており、通所型サービス利用に対する意向の強さが伺えた。最後に、資料分析からみるグループホーム・宅老所の動向分析からは、次のようなことが明らかになった。452の名簿掲載グループホーム・宅老所の運営主体は、社会福祉法人などの公益法人が184施設、株式会社など私的法人が30、行政が20、個人や住民組織などの未法人が218施設であった。1994年までは、公益法人が最も多いが、それ以降は公益法人を追い越す勢いで未法人による開設が増
えていた。各施設が提供しているサービス内容をみると、公益法人による施設では、「デイ単独」「居住単独」など単品メニューが多いが、私的法人は「デイ・ショート・居住」の3つの組み合わせが最も多い。行政はほとんどが「デイ単独」であり、未法人でも「デイ単独」が多いものの、「デイ・ショート・居住」や「デイ・ショート」を組み合わせた複数の機能を有する施設も比較的多くみられた。さらに、未法人組織から現在はNPOなどの法人格を取得した経過をもつグループホームを事例的にみると、病院や特養などでの勤務経験のある看護職や介護職が開設者となっている施設が少なかずあることや、当初デイサービス単独でスタートしたが、利用者のニーズに応えながら、多機能化のプロセスをたどっていること、サービスの継続性を保証するために法人格取得に至っていることなどが確認された。
結論
本年度の調査研究から、①「幸豊ハイツ」入居者には長期にわたって増悪が認められなかったこと、②介護家族のグループホーム利用実績は乏しいものの、満足度や期待が高いこと、③全国的な動向をみると、未法人組織によるグループホーム・宅老所数は非常に多く、その中から利用者中心のニーズに応えながら多機能化、組織化を推進している施設が少なからずあること、が明らかになった。以上から、今後、各種法人組織によるグループホームの増加と共に、未法人組織の法人格取得が進み、小規模ながらも法人格をもつグループホームも増加すると予測される。グループホームの増加に伴い、ケアの内実の多様性もさらに増すものと推察される。質の低下を防ぐためにも、グループホーム運営ならびにスタッフ教育のためのマニュアル作りは急務であり、来年度はその完成を目指す。

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