看護有資格者の動態を把握するためのシステム開発に関する研究

文献情報

文献番号
199900899A
報告書区分
総括
研究課題名
看護有資格者の動態を把握するためのシステム開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
前田 樹海(長野県看護大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 太田勝正(長野県看護大学看護学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
看護従事者届を活用することにより、看護婦確保政策の立案やその評価に資する看護有資格者の時間的、空間的な変化を捉えることのできるデータの収集システムを、実際の調査を通じて実証的に開発することである。平成11年度は、看護従事者届を想定したデータ収集法、格納法、収集したデータから得られる付加価値について評価、検討するために、N県内7医療圏に在籍する全看護職を対象としたマークシートによる履歴調査を実施した。また、看護職の就業継続の障害となるとされる出産に着目し、その支援措置や妊娠異常の実態を把握するためにN県内全病院の看護部長・総婦長を対象とした調査を実施した。
研究方法
【履歴調査】1)調査対象:N県内で10地域に区分されている二次医療圏のうちの7つの医療圏において、保健婦・士、助産婦、看護婦・士、准看護婦・士として従事している者全数(11,637名)。2)調査期間:平成12年1月14日~28日。3)調査内容:性別や誕生年月、配偶関係など現在の属性。中学卒業以降平成11年12月までの履歴。今後の看護就業の継続可能性。出産や育児に際して利用した支援措置、制度等。4)配布・回収方法:マークシート方式の調査票と質問冊子、および返信用封筒を医療機関に郵送し、その医療機関を通じて看護職個人に配布。調査票は無記名式とし、同封した返信用封筒を用いて回答者から直接調査者に返信。5)データの入力方法:回収されたマークシートは、汎用のマークシートリーダを用いて読み取りを行なった。なお、回答者のプライバシー保護の観点から、外部業者には委託せず、研究者ら自身で実施。6)分析方法:a)看護従事者の年齢変化と就職、離職、復職等の状況変化および2次医療圏間の移動という3つの動態的視点から、2つの医療圏に在籍する看護従事者の履歴を分析(分担研究報告書:「医療圏から見た看護就業動向の特性」に詳述)。b)看護従事者の出産年代コホートによる、出産・育児に際して職場から受けた、あるいは利用した支援措置や制度という観点から分析(分担研究報告書:「出産・育児と看護就業スタイルとの関係について」に詳述)。c)マークシート調査にかかわる諸問題等について、とくに返送された調査票の入力(=読取)という観点から検討(資料:「光学読み取り(OCR/OMR)方式の調査票の開発経験と使用上の諸問題」に詳述)。【看護職の出産に関する実態調査】1)調査対象:N県内全病院(140施設)の看護部長ならびに看護総婦長。2)調査期間:平成12年1月14日~28日。3)調査内容:病院の属性、在籍看護職数、1999年1月1日~12月31日に在籍した妊婦数および正常分娩・分娩異常・妊娠異常の件数、出産前後の妊産婦への支援措置、。今後の看護就業の継続可能性。出産や育児に際して利用した支援措置、制度等。4)配布・回収方法:自記、無記名式の調査票、および返信用封筒を看護部長、総婦長あてに送付し、同封した返信用封筒により返信。5)
分析方法:d)病院規模や設置主体によって支援措置に特色があるかを検討。妊娠異常・分娩異常については、他の資料との比較検討を実施(資料:「看護職の妊娠にかかわる措置および妊娠異常の実態~N県内全病院への調査より」に詳述)。
結果と考察
a)看護有資格者の就業動態および移動の状況を把握するために、N県内の7つの医療圏で就業する全看護職を対象とした履歴調査を行ない、そのうちの2つの医療圏について、看護職の加齢による就業状況の変化、およびそれら状況変化と2次医療圏内外への移動との関連を分析した。その結果、出産や育児に伴う離職や復職は、同一医療圏内で起こる場合が多く、医療圏間の移動を伴うものでは、進学に伴う医療圏外への流出、資格取得後の就職や職場移動に伴う医療圏内への流入が多いことが判明した。また、平成11年12月の年齢別の就業分布より、33歳に谷をもつ年齢分布を示すことが明らかとなったが、これは丙午による影響であることが推測された。本研究のデータより提供される履歴の変化や、出生コホートの動向、年齢別就業分布などの資料は、看護有資格者の移動や離就職等の実態の把握や将来推計等に有用性が高いことが示された。また、これらのデータの大部分は、現行の従事者届の集計方法やデータの持ち方を変えることによって、同様の情報を得られることを示した。b)看護の仕事を継続する上で出産・育児が障害となっている可能性があり、わずか数年先の就業継続の見通しもなかなか立たない現状、および、第1子出産時に看護に従事していたことが明らかであった回答者について、産休の取得は早い時期から高率であり、さらに、育児休暇は1992年以降急速に取得率が伸びている一方で、夜勤・超勤の軽減や免除、授乳時間の取得等の措置の取得率はまだ低率である現状が示された。しかしながら、法律や社会制度の整備により、超過勤務の軽減、健診あるいは病児の看護のための休暇取得等の措置は、徐々にであるが取得率が改善している様子も示された。c)光学式マーク読み取り(OMR=Optilcal Marksheet Reader)と光学式文字読み取り(OCR=Optical Character Reader)の2種類の回答方式を組み合わせた調査票を開発し、対象者1万人を超えるアンケート調査を実施した結果、寄せられた約6,000人分の回答の入力作業において、光学式読み取り方式の調査票の有用性が明らかになったが、その一方で、マークの塗りつぶし方や記入する数値の書き方などの基本的なルールが守られていない回答がある程度(全体の約2%)存在すること、人手(肉眼)による調査票の事前チェックが不可欠であること、ならびに、肉眼では読み取り可能な文字(数字)であっても読み取り装置が判読不能とするケースが予想外に多く(調査票全体のおよそ6割以上に発生し、1調査票当たり平均3文字程度)、読み取り後のデータの修正・入力作業についても十分に考慮しておくことの重要性など、今後、より信頼性が高く、さらに効率的に入力処理できる調査票を開発するための知見を得た。d)N県で就業する女性看護職の妊娠あるいは分娩の異常について、基本的な情報を得るための調査を行った結果、総分娩数389件中、「正常分娩」は313件(80.5%)であり、残りの2割が何らかの分娩異常を示していた。内訳は、「死産」5件(1.3%)、「流産」35件(9.0%)、「早産」8件(2.1%)、「鉗子・吸引分娩」2件(0.5%)、「帝王切開」26件(6.7%)である。また、妊娠中の異常として、「妊娠中毒症」が14件(3.6%)、切迫流産が45件(11.6%)という回答が得られた。これらの発生頻度は、他の調査結果や統計資料等と比べて特に高い数ではなかった。なお、これらの異常と出産や育児への支援措置との関係については、今回の調査結果からは明らかにすることはできなかった。
結論
断面的な「状態」ではなく、2次医療圏間の移動、および就学、就業などの状況の「変化」に着目するという観点、また、5歳年齢階級ではなく満年齢で就業分布をみる見方によって、看護マンパワーに関する意思決定に際し有用性が高い資料を提示できることを示した。また、本システムにより可能となる出産年代コホート間の比較により、看護従事者の年代間
の比較、推移が明らかになると同時に、母性支援のための政策や制度の実効性を評価するためのツールとしても有用性が高いことが示された。

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