理学療法士等リハビリテーション関連職種の適正配置に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900897A
報告書区分
総括
研究課題名
理学療法士等リハビリテーション関連職種の適正配置に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
信川 益明(杏林大学医学部総合医療学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成9年度厚生行政科学研究事業「理学療法等リハビリテーション関連職種の就業の実態と需給予測」(主任研究者 信川益明)では、PT,OTの養成校数、定員、医療施設調査を基に現状を把握し、中長期的なPT,OTの需給の動向について重回帰分析を用いて推計した。しかし今後、平成12年度から実施される介護保険の導入等の環境の変化が予測される。
このため全国の関連施設におけるPT,OTの就業人員数、勤務形態、業務内容などの実態調査を行うことが必要である。さらに、これらに基づいた中長期的なPT、OTの需要について試算を行い、質の高い人材確保、効率的な人的資源の配分の観点から、PT、OTの需要のあり方について検討を行うことが必要である。
研究方法
PT、OTの配置基準積算基礎の検討を行うために、平成10年度厚生科学研究事業では、全国1,050ヶ所の医療機関および社会福祉施設等に対して、PT、OTの就労実態を調査した。平成11年度は、全国 250ヶ所の医療機関および300ヶ所の老人保健施設における就労実態、不足する人材量、チーム医療などの連携の状態、対象疾患に対する病期(急性期、回復期、維持期)の業務分析などの調査、分析を行った。郵送質問紙法によるアンケート調査(調査票C)を行った。119ヶ所から回答を得た。(回収率21.6%)
調査Cは、医療機関および施設におけるリハビリテーションに関連する基本情報、他職種および他機関との連携、各疾患区分の急性期・回復期・維持期の評価項目・治療目標・治療項目について質問しており、理学療法担当者、作業療法担当者に調査票Cの記入をお願いした。主な質問項目は基本情報(医療施設の種類、当該医療施設の理学療法士・作業療法士の数、理学療法士・作業療法士の増員希望数)、他職種および他機関との連携(患者の退院時期についての医師から理学療法士・作業療法士への事前相談、理学療法士・作業療法士による、外部の施設・家庭に対しての連絡書作成、当該施設内でのチーム連携、チーム連携の改善希望、ケースカンファレンスの実施状況、入院・入所の転帰、退院・退所の転帰)、各疾患区分の急性期・回復期・維持期の評価項目・治療目標・治療項目である。
結果と考察
施設種類の結果から、46施設のうちの67%が痴呆療養棟を有しており、この点、痴呆性老人に対する老人保健施設の役割期待の反映と考えられる。理学療法士,作業療法士の配置数については、今回の結果では作業療法士が若干多かったが,平成9年厚生省の老人保健施設実態調査結果(施設総数;1,853施設、専任理学療法士数;1,048人、専任作業療法士数;856人)と比較すると、今回の結果は偏りがある可能性が考えられる。しかし、増員希望の結果では殆どの施設の理学療法士、作業療法士が自らの職種増員を望んでいるのと同時に、相手の職種増員を望んでいる結果が見られた。この点は、本来の職種役割が異なるにもかかわらず、一職種で対象者が抱える問題への解決を求められており、提供内容の質の維持に疑問を感じている現れとも考えられよう。
他職種および他機関との連携の結果では、特に、医師との関係とチーム連携に関して検討すべき結果が得られた。医師と理学療法士・作業療法士との連携については、特に退院時期の相談が少ない。これは退院時期の事前相談は入所者と家族面談により決定することが多いことや、退所の時期に関しては、各職種間による判定会議にて決定することがあり、医師と理学療法士・作業療法士との連絡は病院・診療所などの医療機関に比べ密でないことがうかがえる。また、チーム連携についてあまりとれていない(27.8%)と感じており、チーム間の連携について改善を望む(非常に強く望む:48.9%,少し望む:47.8%)ことから専門職における連携が不足している現実を反映しているものと考えられる。
14疾患それぞれの時期に対応した評価項目・治療目標・治療項目の結果では、理学療法士,作業療法士ともに同じような項目を選択する傾向が見られた。脳血管障害の例では、寝返り・立位・歩行・起居・移動等の基本的動作能力に関する項目選択が上位を占める傾向であった。極端な例では、作業療法士が理学療法的業務を主たる内容にしている場合もあった。この点、「理学療法士及び作業療法士法」(昭和40年制定)によれば、基本的動作能力への対応は理学療法士の業務とされているが、作業療法士も対応が求められているのが現状であろう。しかし、それと同時に作業療法士は、生活関連動作訓練,知的機能、心理的問題,生活時間・習慣、などの応用的動作能力又は社会的適応能力に焦点を当てた評価、目標、治療も選択している。このような理学療法士と作業療法士の業務の現実を考えると、それぞれの本来業務を効率的に組み合わせて対象者に対応する事が出来ているか疑問が残る。つまり、運動機能面が主たる問題の対象者であるとしても理学療法士の基本的動作能力への関わりと作業療法士の応用的動作能力又は社会的適応能力への関わりが必要となる。しかし、理学療法士または作業療法士の配置が「入所者数と通所者数との合計を100で除した数以上」という現行の人員配置基準では、結果的に提供内容の偏りや不十分さが表出してしまう可能性が高いと考えられる。
結論
従来より経験的に指摘されてきた理学療法・作業療法の課題(理学療法士・作業療法士の配置数が未だ不十分であること。理学療法・作業療法それぞれの本来的な役割が十分に機能していないこと。施設によっては、業務の混乱を来している可能性があること。現場での他職種連携が円滑に実施されていないこと)が実態調査結果より確認できた。老人保健施設等の人員配置基準の見直しとそれに基づく需給計画の再考が必要と考える。また、それと同時に理学療法士・作業療法士の養成段階における教育の再考、具体的には臨床実習の内容検討なども再検討する必要があろう。
今後は、関連施設と担当者本人に対するPT,OTに関する実態調査に基づき、介護保険制度による影響を踏まえたPT、OTの将来的な需給を推計することが必要である。

公開日・更新日

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