震災後の診療機能の回復手順に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900896A
報告書区分
総括
研究課題名
震災後の診療機能の回復手順に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
河口 豊(広島国際大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
震災直後から診療機能を回復させるために、どのような手順で行動すべきかを示すことによって、各部門の災害対策マニュアル作成の際の参考に供するとともに、平成9年度研究で作成した日常点検チェックリストの重要性を理解し震災に対応する整備指針を作成する。本年度は3年の研究計画の2年度目であり、3~4日位から後の診療機能の回復継続をいかに行うかという視点から、病院が外部からの応援を受け入れる際の方法についてマニュアルを作成することを目的とした。
研究方法
①研究班は阪神・淡路大震災時に、被災地中心地区の病院で医療活動に携わった、内藤秀宗(甲南病院副院長)、松山文治(甲南病院事務部長)、山田鈴子(六甲アイランド病院手術婦長)、菊池正幸(鐘紡記念病院臨床検査部科長)、川端和彦(鐘紡記念病院中央放射線部技師)で構成した。②阪神・淡路大震災の後に出された各病院の報告から、外部の応援をどのように受け入れたかを文献調査した。③昨年度の研究において防災マニュアルの整備状況をアンケート調査した際に、提供を受けた各病院の防災マニュアルのボランティア関連事項を調査した。④研究班員が、阪神・淡路大震災時の状況で自分たちの職場に応援を受け入れる際に、どのような応援者が必要であり、どのような事項を知る必要があったかを検討した。⑤その結果を各職種共通な事項とその職種個別の事項に分けて項目の整理をし、シート状に表現して最終調整した。⑦応援者の派遣について、主たる情報の担い手となる都道府県や政令指定都市の自治体担当部局および震災時医療に関係が深いと思われる学会に対して、震災時の応援体制があるかアンケート調査をした。
結果と考察
①阪神・淡路大震災の後に出された各病院の報告には外部からの応援について記述はあるものの、どのような受け入れ体制を有していてどのような問題が発生したか、という見方はない。実際、阪神淡路大震災の時に多くの病院で外部からの応援を受けたが、その方法は決まっておらず一部の病院側では混乱を招いたことも事実である。
②各病院の防災マニュアルは、ボランティア受け入れ用紙を掲載しているものでも簡単に触れているに過ぎない。外部からの応援受け入れについて震災時の状況を把握し実状に沿う形で検討した様子が見られない。理由として考えられるのは、阪神・淡路大震災を経験した病院では乗り切れたという自信と考えられるが、不眠不休の活動はほんとうに評価できる活動だったのかという検討がなされていないからといってよい。もう一つの理由は被災を受けなかった地域の病院で実感が湧かない、つまり想像力の希薄さにあるといえる。
③第1年度は、震災直後から2日目位までの間の緊急医療体制を敷くのに、病院で指揮を執る者が診療機能の水準を評価する方法を開発したが、本年度は、その後3~4日位から後の診療機能の回復継続をいかに行うかという視点から、病院が外部からの応援を受け入れる方法について検討した。その時期は病院職員の疲労が高まり効果的効率的医療提供が難しくなる。一方、職員の健康と共に誤診などが懸念される時期、48時間以降2週間程度である。そこで各部で受け入れる際の応援者の身元や技術を確認し、最も応援を受けやすい体制をとれるようなマニュアルを作成した。
④マニュアルは次のような条件を設定して作成した。対象時期は大震災発生後48時間以降2週間程度で、この時期が病院職員の疲労がピークに達し、最も外部から人材支援を求めたい時期となる。被害状況は、一部にあっても緊急医療のための外来診療機能に影響するほどの建築被害はなく、またライフラインも不完全ながら機能しており入院患者や緊急収容者のための診療機能は維持している。職員の勤務状況は、各職場とも一応職員は数名出勤しているが、緊急入院患者の増加により絶対数が不足し、また大震災直後から連続勤務のために職員の疲労が蓄積している。対象部署は、一般の労務提供ではなく、専門的人材を必要とする部門で看護部、医師(診療部)、臨床工学士、放射線部、検査部、薬剤部である。診療機能は、通常レベルより下がるが、最小必要限度の診療機器は稼働できる状態にある。
⑤マニュアルは、各部署から院内対策本部に提出する「緊急人材支援申請書(必要人数、配置場所、宿泊場所など)」、院内対策本部が院内の状況を包括して自治体やその他の団体の外部機関に要請する「緊急人材支援要請書(宿泊場所、寝具、給食提供、交通手段、ライフラインの現状、外部からの連絡手段など)」、支援に来た人材の適正を把握するために自己申告してもらう「人材登録リスト(体力、災害保険、活動可能期間、ボランティア経験、希望業務、実務歴、得意分野、宿泊の場所など)」、その人材をどこに配置したかを記録する「人材配置リスト(配置場所、配付資料、実働開始日など)」、支援者に対する文書による指示書に相当する「業務委託書(主たる業務、部署責任者、宿舎、給食方法、配付資料、外部連絡手段など)」からなる。
⑥このようなマニュアルは各病院の防災マニュアルではほとんどなく、本マニュアルはこれから防災マニュアルを作成したり、見直す際に十分参考になると考える。
⑦一方、応援者の派遣について、主たる情報の担い手となる都道府県や政令指定都市の自治体担当部局や震災時医療に関係が深いと思われる学会に対して、震災時の応援体制があるかをアンケート調査した結果、58自治体担当部局に依頼し、41部局から、また35学会に依頼し、19学会から回答を得た。自治体では阪神淡路大震災でほとんどの自治体が応援をし、今後も応援するとしているが、今後も医療技術者を派遣する体制があるのは半数で、あらかじめ登録しているのは1割であった。学会の方も関心は高いものの、阪神淡路大震災の時に救援に取り組んだのは2割に満たなかった。また、今後大震災が起きたときには救援に取り組むのは3割弱、検討中などを含めても5割強であった。事前登録を行っている学会は2割強である。
結論
不眠不休で活動することが賛美されるという誤った状況はただす必要がある。職員の負担も大変であるが、誤診等が発生すれば被災者や患者が犠牲になる。しかし、自治体担当部局や学会のアンケート調査結果のような状況の中では、阪神・淡路大震災時のように多数の非組織応援者が病院に駆けつけることになる。その時にどのような人かわからずに専門業務を委託するわけにいかない。応援というボランティア行為ではあるが、医療行為という免許取得者に業務独占されている行為で、かつ緊急時にも誤ることがないよう質が問われる時、本マニュアル作成の意義が十分あると考える。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)