災害の種類別シミュレーションモデル作成とその意義の研究 

文献情報

文献番号
199900890A
報告書区分
総括
研究課題名
災害の種類別シミュレーションモデル作成とその意義の研究 
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
辺見 弘(国立病院東京災害医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 友保 洋三(国立病院東京災害医療センター)
  • 原口 義座(国立病院東京災害医療センター)
  • 加来 信雄(久留米大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
災害への医療対応は、自然災害と人為災害とで大きく異なるが、 更に各災害毎にも種々の局面によって医療対応には、特殊性が出てくる。当研究班は、5つの分野にわかれるが、各種の災害のシミュレーションモデルと災害対応マニュアルを作成し、災害訓練を行って、大災害を含めた各種の災害時に適切な対応を行うためものである。災害が内外に多発する現在、有効性が実証されつつあり、災害時の危機管理策定に極めて有用と考えられる。今回更にその意義につき検討を加えることを目的とした。
研究方法
検討方法=当研究班は、広範囲にわたる研究テーマを扱い、各々の災害の特殊性に基づいて、シミュレーションモデルと災害対応マニュアルを作成し、災害訓練につなげることとした研究である。 また具体的に施行あるいは作成してきたシミュレーションモデルと災害対応マニュアル、災害訓練の意義についても検討した。検討方法は、実際に現場に携わった従事者への意見を聴取する方法をとった。それゆえ、必ずしも科学的に裏付けはとれてはいないし、また十分な統計学的処理は現時点では、困難であり、主観的な判断も含まれている。各班毎に検討方法を述べると、
①熱傷患者発生時の対応に関しては、阪神大震災をモデルに熱傷患者数の推定、平時における熱傷患者数、必要な医療資源等、広域搬送(航空機搬送)の必要性、情報体制、凍結保 存皮膚・スキンバンクネットワークに関する正確なデータを集積して、実際に活用できるようにする上での必要な準備を研究してきた(担当 辺見 弘班長)。
②NBC disasterに関しては、1997年度に本研究班が中心となって作成した核災害シミュレーションモデルとマニュアルに基づき災害訓練を行い、核災害の専門家とのネットワークの意義を検討した(担当 原口 義座班員)。なお災害訓練として、本年度合計6回の原子力災害訓練を行った。
③自然災害に関しては、トルコ第2回目の地震と阪神大震災から災害医療を見直した(友保 洋三班員担当)。すなわち大地震の際に被災状況に影響を与える因子を考慮したシミュレーションモデルの作成を行い、実際の地震(例えば、トルコの地震等)との比較を行った。
④輸送機関災害への対応のシミュレーションに関する研究(加来 信雄班員担当)では、大火災時の患者搬送とも共通する項目として、患者搬送方法の検討、特に分散して医療施設へ搬送する方法を重視し、東京消防 庁等との関連施設とも連携をとっており、その意義を検討した。
⑤離島・過疎地における災害医療展開として自然災害のみならず人為災害も検討対象として、シミュレーションモデル構築の原案を作成することとした(辺見 弘班長、原口 義座班員 担当)。
結果と考察
検討結果と考察=各班別・災害種別に示す。
具体的に成果につながったあるいはつながりつつあると考えられた項目を列挙する。
①熱傷患者発生時の対応に関しては、既に昨年度迄に実際に活用できるような準備を行った。今年度は、大量熱傷患者発生の可能性として有珠山噴火がみられたが、その際に限局した火砕流に限らず、火砕サージ(600℃の熱風)により広域に熱傷患者が大量に発生しうる状況下で、十分な情報交換、搬送体制、医療資源、入院体制の準備が円滑になされており、班研究の意義が確認できた。 すなわち、熱傷患者大量発生時の特徴として、平時の重症熱傷患者発生数が少なく、治療の特殊性から重症熱傷に対応できる施設が少なく、北海道内全体でもわずか10名であるため大混乱が予測される。地域で対応できない時は広域搬送の必要性があることから ヘリコプター搬送の有用性検討、航空機搬送の基準および訓練を実施することを検討してきたことが、有珠山噴火に対する 情報交換、搬送体制、医療資源、入院体制の準備につながったと考えられる。
②NBC disasterに関しては、1997年度に本研究班が中心となって作成した核災害シミュレーションモデルとマニュアルと災害訓練、核災害の専門家とネットワークが、1999年9月に発生した東海村臨界事故では、多くの医療施設で用いられ、機能したと考えられた。特にマニュアルは医療施設への指導・教育的役割をもった文書として広く活用される機会を与えられた。
サリン災害等の特殊災害に対して作成されたシミュレーションモデル、マニュアルも作成されており、今後災害訓練に生かす方針である。
③地震等の自然災害のシミュレーションは、大地震の際に被災状況に影響を与える因子(地理的条件、病院の被災程度、火災の有無、季節・時刻・天候等)を考慮したシミュレーションモデルの作成を行ってきた。その際に指摘できた、災害医療の役割として、災害発生直後のみならず、中期的な対応も含め、不利な自然条件下(例えば、トルコ第2回目の地震は、降雪の条件下でテント生活を余儀なくされている負傷者の多発状態)でも、幅広い医療対応を行うことの必要性・有効性を具体的に確認できた。すなわち、多くの精神科的対応を要する患者や小児への対応等、従来見落とされがちな疾患・傷病へも有効に医療対応ができ、効果が得られたことは画期的であると考えられる(これには外務省・JIC A等の功績も大きい)。
またトルコ地震では、病院被災も極めて高度であり、阪神大震災に基づいたシミュレーションモデルにより仮設テントでの医療のあり方(患者の流れ、全体のレイアウトの作り方など)、物品準備の検討に有効であった。
④輸送機関災害への対応のシミュレーションに関する研究では、特に分散して医療施設へ搬送する方法を重視し、東京消防庁とも連携をとってきたが、東京での3月の地下鉄災害での患者搬送が比較的円滑に行われたことの一助につながった可能性があると考えられる。なお医療内容には輸送体種類別 の特異的な要素は少なく、むしろ災害の規模や災害発生場所の地理的状況、自然環境ならびに 災害発生地区医療圏の状況に強く依存する。従って、輸送機関災害のシミュレーション訓練には、各輸 送機関共通の設定項目として、災害規模の設定に加え災害発生場所の地理的状況、自然環境、ならびに災害発生周辺地域の医療圏を考慮したモデル化が必要である。
⑤離島・過疎地における災害医療展開として都市部にはない離島・ 過疎地特有の諸問題や情報伝達や患者搬送の面で都市部にはない問題点を踏まえ、自然災害のみならず人為災害として例えば僻地にある原子力発電所災害での対応のためシミュレーションモデル構築の原案を作成した。 離島の場合は初動に時間がかかるため搬送手段の高速化で低下しう る Preventable deathは数%のオーダーと考えられるが、搬送だけでなく初動にかかる時間を短縮することも重要である。
結論
以上、国内では、有珠山噴火、東海村臨界事故、東京地下鉄災害、等、また国外では、トルコ地震等で明らかになりつつある如く本研究は、本邦における災害危機管理の策定に役立っていると思われた。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)