患者満足度の向上を目指したネットワークによる医療情報提供体制の検討

文献情報

文献番号
199900885A
報告書区分
総括
研究課題名
患者満足度の向上を目指したネットワークによる医療情報提供体制の検討
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
谷水 正人(国立病院四国がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 高嶋 成光(国立病院四国がんセンター)
  • 江口 研二(国立病院四国がんセンター)
  • 久野梧郎(久野内科院長、松山市医師会)
  • 末光 清貞(末光耳鼻咽喉科院長、松山市医師会)
  • 松坂 俊光(松山赤十字病院外科部長)
  • 秋山 昌範(国際医療センター内科医長、情報システム部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者満足度の向上は,医療者の判断や治療の方針をわかりやすく説明することから始まる.インターネットは医療機関間連携と同時に患者への情報の開示にも有用な手段である.我々は患者満足度の高い病診連携推進のためにインターネット(含イントラネット)を利用した医療情報提供体制のあり方を検討する.
研究方法
愛媛県医師会では平成7年より愛媛県医師会地域医療情報ネットワーク(EMAネット)が構築され,平成12年1月現在,県医師会員の797名(県医師会員の28%),松山市医師会員の328名(市医師会員の35%)が加入している.このEMAネットを活用し,ネットワークによる医療情報提供体制を整え,病診連携を進める.
本研究では,
1.医療機関間で,電子メールを活用し,患者情報の提供,交換をおこなう.
2.情報端末を診察室の患者の見えるところに設置し,医療の情報を患者に示しながら説明する.
3.医師会ホームページに医療機関情報マップ(クリッカブルマップ)をおき,各診療科、疾患ごとの医療機関情報を提供する.
の3項目を目標に掲げ,研究を推進する.医師会のインターネットによる情報発信のための基盤整備,連携のための情報発信を行う.これらが実効性をもつためには地域の病院と開業医がインターネット(EMAネット)に参加しなければならない.インターネットの有用性を啓蒙し,会員間にインターネットに対するニーズを創出する.またインターネット入門の援助,各医療機関にはネットワーク管理者が必要であり,その養成を支援する.
結果と考察
結果=
1.システムの基盤整備:
愛媛県医師会のEMAネットから松山市医師会に専用線(64K)を敷設し(平成11年3月),松山市医師会独自イントラネットサーバーを立ち上げ,アクセスポイント(アナログ,デジタル回線)を設けた.EMAネットワークは設立当初(平成7年)から国立病院四国がんセンター,国立がんセンターを経由してインターネットへ接続されていたが,平成11年6月に医師会のインターネット接続の実験的な意義は終了したとし, EMAネットはがんネットから独立,独自にインターネットに出口を持った.松山市医師会の情報発信基盤整備としてメーリングリストの運営,イントラネットWebサーバーの運営,FAXサーバーによる情報発信機能の強化,症例検討用のWeb掲示板,医療機関データベースサーバーを導入した.
2.病診連携ガイドの作成と公開:
かかりつけ医へ患者の移行を進めるためには,各医療機関における対応可能な医療の内容に踏み入った情報が必要である.松山市医師会病診連携小委員会と在宅医療部が中心となって,松山市医師会所属の医療機関の対応可能な医療をアンケート調査し,これを医療機関マップにまとめ病診連携ガイドとして医師会イントラネットホームページ上に公開した.平成10年度に緩和医療,在宅医療,後方病院(入院受け入れ医療機関)に関するマップを公開し,平成11年度に脳血管障害に関するマップを公開した(脳血管障害対応表明は403中158医療機関).初年度はhtmlファイルの集合として作成し公開したが,医療機関データベースと統合し,ウィンドウズNT,IIS4.0(Internet Information Server4.0),MS-AccessによるWeb連携データベースへと機能強化した.またインターネット整備の遅れている医療機関に配慮してこれらのマップは印刷物としても配布した.
公開ページへの情報発信:松山市医師会ホームページは民間プロバイダに設けていたが,県医師会が公開サーバーを立ち上げたのを機会にそちらに移行した(URL<http://www1.ehime.med.or.jp/mma/index.htm>).市民への一般公開情報として,地区別および診療科別に松山市医師会医療機関案内を公開した(URL<http://www1.ehime.med.or.jp/mma/koukai/annai-indx.html>).1医療機関1ページを設け,アクセス情報,診療科案内,診療時間案内,入院の可否を掲載し,ホームページを持つ医療機関のホームページへリンクを張った.
3.患者アンケート調査:
患者の医療機関受診の実態と意識を調査にする目的で,通院中のがん患者にアンケート調査を実施した.【結果】現在の患者紹介制はまだ不十分である.病院がかかりつけ医機能を担いすぎており,患者は病院志向が強い.病診連携には患者側も期待する声が多かったが,かかりつけ医と病院主治医の判断の相違や,医療レベルに漠然とした不安を訴える声が指摘された.(平成10年度報告)
4.医師会員インターネット利用状況調査:
松山市医師会員のインターネットに関する実態調査を実施した.【結果】医師会員のインターネット加入率は46.9%であった(EMAネット参加33.3%,民間プロバイダ参加13.6%).40代までの会員の加入率(70%)と,50代以上の会員の加入率(30%以下)の間に開きが認められた.(平成10年度報告)平成11年度には病院のLAN化が急速に進んだので現在は確実に60%は超えていると推定される,12年度調査で実態を明らかにする.
5.医師会員対象ネットワーク講習会:
医師会員のインターネットへの参加を促進するためネットワーク講習会を開催した.松山市医師会医療情報委員とパソコン業者との合同講義とし月1回定期的に開催,受講者は1回8人まで,パソコン一人一台の環境での講習とした.始めは医師会理事,役員を対象に講習し,その後一般会員,医療機関職員へも拡大した(平成12年3月までの受講者数は110名).人気が高く順番待ちである.今後も続けていく.
6.ネットワーク管理者講習:
ネットワーク普及には,医療者側にネットワークが理解できる人間が必要である.医療者のネットワーク管理者養成を目的に"愛媛医療情報ネットワークの集い"を平成11年8月から毎月1回定期開催した.情報通信分野の専門家を招き,聴講勉強する.毎回30から40人参加している.3月までのテーマは以下の通りである.
第1回(8月):ネットワーク入門セミナー
第2回(9月):ネットワーク機器セミナー
第3回(10月):E-mailセキュリティ
第4回(11月):ネットワーク構築術入門
第5回(12月):ネットワークと医療情報
第6回(1月):病院ネットワーク構築術
第7回(2月):電子カルテ入門
第8回(3月):情報通信最新技術の動向
7.暗号化メールの検討
松山市医師会員はEMAネット,病院独自のメールサーバー,自主的な民間プロバイダ参加など,インターネット利用環境はまだ統一されていない.現時点でインターネット利用形態を選ばずセキュリティを確保する唯一の方法は暗号化メールである.デファクトスタンダードであるPGP暗号を検討した.
医療者が利用するメールとして満たすべき要件は,
a)医師会員のパソコンユーザーに占めるマッキントッシュ(マック)ユーザーは60%,マックは無視できないこと(Winユーザーは45%,重複あり,松山市医師会 平成11年2月調査),
b)メールソフトのプラグインとして簡単に暗号化署名,復号化できること(会員が簡単に使えること),
c)添付書類(画像,検査データなど)の暗号化ができること,
d)インターネットのルール(FRC)に沿ったメールソフトであること,
である.それらの基準を元に検討すると,
i)メールソフトによりJIS(ISO-2022-JP)変換への対応がまちまちで,特にマックにはJIS(ISO-2022-JP)変換に対応した暗号化ができない(利用者環境により文字化けしてしまう),
ii)添付ファイルの暗号化への対応ソフトが限られている,
iii)プラグイン機能をもつメールソフトは重く,バグエラーが起こりやすい,
などの問題点があり,ごく限られた条件でしか暗号化メールの交換は行えないことが明らかとなった.これらの点についてメールの開発業者に指摘し,今後の対応を促している.8.病診連携実地医学講座の開催:
医療機関,医療者の病診連携意識改革,医療技術のレベルアップを目指して,医師会員,医療関係者を対象とする医師会主催の講習会を援助した.平成10年度から緩和医療実地医学講座4回,脳血管障害実地医学講座が1回開催されている.
9.病診連携のためのその他の対応:
病診連携室等医療連携のための部門が基幹3病院に設けられ,FAX(電話)紹介予約制が稼働した.このためのインターネットの利用はまだ実験段階に止まっている.
平成10年から11年にかけて病院のネットワーク化が急速に進行した.松山市内の基幹6病院では4病院で平成11年度までに院内LANが敷設され12年度には1病院を残すのみとなる予定である.中小の私立病院でもLAN化が急速に進行しており,12年度に調査報告の予定とする.
松山私立病院協会が平成12年1月詳しい医療機関機能を冊子として自ら公表するなど,情報公開への動きが急速に広がっている.これらは平成10年度からスタートした本研究による情報公開,ネットワーク活動の波及効果と捉えている.
考案=
旧来の施設内完結型のサービス,非効率な患者対応や人的な繋がりのみを頼りにした連携では医療ビッグバンの時代を乗り切ることは不可能である.情報通信ネットワーク技術の発展,基盤整備,進み始めた高速ネットワークの低料金化などを背景に,情報通信ネットワークへの期待は高まるばかりである.本研究ではEMAネットワークを活用し松山市医師会を中心に情報化を推進してきたが,今や医師会員のコンピュータアレルギーは影を潜め,爆発的な勢いでネットワーク化が進み始めた.本研究の果たしている役割は大きい. 松山市医師会の病診連携ガイドは項目が限定されてはいるが自らによる医療機関機能評価であり,医師会内部の抵抗がなく進んだことに関しては他の郡市医師会から驚きの声が寄せられた.ガイド作成の推進要因は,
1.愛媛県では医師会の高い組織率(県内の医師3050人中2850人が医師会に加入)があり,医師会への協力姿勢,病診連携を必要とする認識の共有ができていた,
2.早くから医師会ネットワークが導入され,その活動が会員から評価されていたこと,が挙げられる.松山市私立病院協会が医療機関機能を公表したことには,病診連携ガイドの作成が大きな契機となった.平成11年度には公開ページに地区別,診療科別に医療機関案内を掲載し,1医療機関1ページに情報を掲示した.各医療機関がホームページを持つ場合にはそのホームページをリンクしたことから会員間に情報発信の機運が高まっている.病院における院内LAN敷設の動きも急速に進んでおり,12年度に予定する医療機関のネットワーク化進捗度調査には期待したい.
ネットワーク時代の病診連携を考えると,
1.情報化は医療機関の差別化である.
2.情報化に関する正しい認識とスタンスが必要である(業務の見直しの中から情報化の必然が生じる).
3.情報化の波に遅れた医療機関は生き残れない.
今後はネットワーク化への対応で地域格差さえも生じて来るであろう.本研究では情報化を推進し,患者満足度の向上を目指した情報化のあり方を提案していく.
平成12年度(3年目,最終年度)の目標は,以下の通りである.
1.インターネット,イントラネットホームページ,掲示板機能,医療機関マップ,Faxサーバー,メーリングリストなどの情報伝達手段の効率的な活用と切り分けを検討し,会員のネットワーク活用を進める.
2.ネットワークの利用と普及を推進する.医療機関のネットワーク参加を援助,推進する.初心者の参加を援助する.ネットワーク講習会や指導員の出張サポートを展開する.管理者を養成する.
3.安全な情報交換のためのシステムの充実を図る.セキュリティに配慮したサーバーの整備を進める.医療関係者が使える暗号化メールの開発を企業に働きかけ会員への普及を図る.
4.患者調査,医療機関調査(アンケート)により,本研究活動の効果を検証する.
5.医療機関マップ(病診連携ガイド)の利用度調査,利用の推進を行う.
6.本研究活動を広く公表し,医師会を軸にした医療情報化推進の話題提供とする.
結論
平成11年度までの活動において,基盤整備と情報発信の体制を整えた.当初目標を上回って地域のネットワーク化は進行している.本研究終了時にネットワークに繋がったパソコンが果たして何台の診察室の上に載っているであろうか.本研究の掲げた3つの目標に対する成果を期待したい.

公開日・更新日

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